もしも君が、この社会は生きづらいと感じているのなら、君は社会を変革しなければならない。社会を変革しない限り、その生きづらさがほんとうに解消されることはない。それが真実だ。けれど君はまだ若いし、あまりに無力であり、かつ無知だ。だから社会を変革する前に、この生きづらい社会の仕組みについてもっとよく知っておく必要がある。君が生きづらいのは、決して君だけの問題ではなく、君と社会の問題なのだから。
河出書房新社の新シリーズ「14歳の世渡り術」は、そんな君にうってつけのガイドブックになるかもしれない。「世渡り術」というと、若いうちにませた処世術を身につけ、すれたオトナまがいに問題をはぐらかし、適当にうまくやってゆくといった印象がある。しかし、本書『右翼と左翼はどうちがう?』を読む限り、そんなことはない。むしろ君のような「14歳」が、真正面から「問題」にぶちあたることを勧めている。著者はホンキだ。だから君もホンキで考える必要がある。その著者、雨宮処凛氏は、この『マガ9』でもコラムを連載している気鋭の作家だ。(本の内容についてはそちらのコラムで、雨宮氏自身が言及しているので、ぜひ読んでもらいたい。)
本書は、彼女自身のそれまでの経験をもとにウヨクとは何か、あるいはサヨクとは何かについて考える入門書という体裁を採っている。どちらの陣営にも関わったことのある彼女のフットワークは、そのフィールドの重さに比して、いたって軽やかだ。そんな彼女特有のスタイルが、政治に対して偏見のない世代には新鮮に映るに違いない。むろん、それとは対照的に否定的態度を示すアタマの固いオトナもいるはずだ。まだ幼さも残る多感な時期にウヨクだとかサヨクだとか、そんな物騒な考えを吹き込むのはいかがなものか、などというだろう。とりわけ活動家の皆さんへのインタビューは、かわいいわが子に絶対に聞かせたくないキケン思想だ、そんなふうに怯えるかもしれない。
しかし、きちんと読めばわかるが、彼女の目的はウヨク/サヨク思想の伝播にはおそらくない。この社会における生きづらさのほんとうの意味での克服にある。だから、はじめにウヨク/サヨク思想ありき、ではないのだ。生きづらさの原因を考えれば、社会批判としてのウヨク/サヨク思想の主張に耳を傾けないわけにはいかないということだろう。おそらく彼女は、同じ社会的境遇に苦しんでいるにもかかわらず、考えや趣味、関心領域が異なっていたがために、これまではすれ違うしかなかった人々を繋げる媒介者たろうとしているのである。
数年前、作家の村上龍が『13歳のハローワーク』という本を出版して話題になった。技術を身につけること、むろんそれは生きていくうえでまず必要とされるものだ。しかし、村上龍のようなエスタブリッシュな左翼と、生きづらい人々が暮らす「現場」との媒介者たる著者とでは、そもそも立ち位置からして異なる。それゆえ視界に入ってくるものもはっきりと違うのである。現場からすれば、生きづらい問題を解決するには、「手に職」だけでは、もはやだめなのだということだ。技術を手にして経済的に自立したとしても、今のままの社会の枠組みでは、いずれはネオリベに回収されるのがオチである。新しい分離、格差を産み出すだけだろう。
国民の政治的意識の底上げを果たさなければ現状を打開することはできない。それには政治(の仕組み)への理解を早い年齢から深めるしかない。既に国民投票法が成立した。これから3年間の凍結を経た後、国民投票法が施行されると、3年後に18歳になる現在15歳の少年少女が、投票権をもつということになる。とすれば、15歳にして既に、憲法とは何のために存在しているのかをきちんと押さえていかねばならない。各自が、10代にして既に一定の政治的見解を有している必要がある。そんな時代が到来しつつある。成立した国民投票法の内容の是非はともかく、10代から政治についてしっかりした知識を身につけ議論できる、このこと自体は歓迎すべきことだ。『右翼と左翼はどうちがう?』はその足掛かりになるだろう。
生きづらい社会は変革されねばならない。君には社会を変革する自由がある。
(北川裕二)
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