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マガ9レビュー

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本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。

vol.12
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美しい夏キリシマ

2002年製作/黒木和雄監督

 この作品が劇場公開されて間もない2003年暮れの岩波ホール。夕方の上映前に黒木和雄監督がふらっと現れた。
 「たくさんの映画が上映されているなかで、この作品を選んでいただいてありがとうございます」

 監督挨拶があると知っていれば、色紙とサインペンくらい用意したのにと内心ぼやきつつ、ぼくはこれから見る映画の主人公の少年が黒木和雄の分身だと知った。

 宮崎県に生まれ、幼いころ満洲に育った監督は、敗戦間近、学徒動員により宮崎県都城の兵器工場で働いていた。そこが米軍機の爆撃を受け、親友が死んだ。
「爆弾を受けた彼の頭はざくろのように割れていました。彼は両手をこちらに差し出して助けを求めたように見えましたが、ぼくは恐ろしくて逃げてしまった」
 自分は親友を見殺しにした。その自責の念をいまも抱き続けていると監督は言った。

 日本政府が自衛隊のイラク派遣を決定した数週間後のことである。こうしたことがまかり通る時代だからこそ、あの戦争の時代を伝えておかなくては――その思いが監督を製作へと駆り立てたという。

 九州を代表する山、霧島を遠くにいただく宮崎県の村を舞台とするこの映画に、戦闘シーンは一切出てこない。しかし、登場人物たちは戦争による深い傷を負っていた。主人公の康夫はつぶやく。

 「ないごて、おいの方が生き残ってしもたとな……」

 生きていることの後ろめたさを抱くのは、『美しい夏キリシマ』の次の作品である『父と暮せば』(2004年)の主人公、美津江も同じだ。広島の原爆投下から奇跡的に命を取り留めた女性が、被爆して死んだ父親と対話を重ねるというストーリー。同名戯曲の原作者である井上ひさし氏は、執筆のために数多くの被爆者の手記を読み込み、そこに「(自分が生きていることの)死者に対する申し訳なさ」が深く刻まれていることを知った。
 愛する人たちを殺された人間に自責の念を強いる。これが戦争の残酷さである。

 『美しい夏キリシマ』は黒木監督の戦争レクイエム3部作の2作目だ。1作目は長崎への原爆投下の前日を描いた『TOMORROW 明日』(1988年)、3作目が『父と暮せば』。長崎弁、宮崎弁、広島弁といった方言の美しさを、黒木和雄以上に引き出せる映画監督をぼくは知らない。
 黒木監督は2006年4月、最新作『紙屋悦子の青春』の劇場公開を待たずに死去。享年七十五才だった。あらためて合掌。

(芳地隆之)

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