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マガ9レビュー

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本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。

vol.3
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ジェネオン エンタテインメント ¥3,860 (税込)

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ホテル・ルワンダ

2004年英国・イタリア・南アフリカ製作/テリー・ジョージ監督

 冒頭、ラジオから流れるサラエボでの民族紛争のニュースが挑発的だ。
 1994年4月にフツ族の大統領が暗殺され、ツチ族とフツ族の間に不穏な空気が漂い始めたころ、世界の目はもっぱらユーゴスラビアの民族紛争に注がれていた。その後、実権を握ったフツ族によるツチ族虐殺がエスカレートするなか、キガリ(ルアンダの首都)からは外国人ジャーナリストも去っていく。
 当時の国連事務総長、ブトロス・ガリは「世界にはサラエボより、もっと苦しい状態にある国があるのに」と苦々しげに言った。アフリカ大陸の中央部に位置する小国に留まった国際組織は、小規模の国連平和維持軍と赤十字の職員――こうしてボスニアとルワンダから発信される情報量に、圧倒的な差が生まれたのである。
 それを埋めようとしたのが『ホテル・ルワンダ』だ。主人公の高級ホテルの支配人、ポールはフツ族、妻タチアナはツチ族である。ポールは妻と子供、隣人、そして町からホテルに逃げ込んでくる避難民を、銃や鉈で武装した民兵から守るため、彼らの注意を巧みにそらしたり、政府軍将校の機嫌をとったりしながら、危機を脱していく。
 それは、観る者に苦い涙を流させたかと思うと、直後にそれさえ乾かす緊張シーンの連続だ。こちらの感情を激しく揺さぶる語り口は、活劇調になりかねない危うさをはらんでいるが、製作側の問題意識がその一歩手前で踏みとどまらせているようにみえる。
 ルワンダの虐殺が起こった翌年、NATO(北大西洋条約機構)軍は、ボスニア紛争の元凶とみなしたセルビア人武装勢力に対して空爆を行った。それは米国主導による国連決議なき軍事行動だった。
 なぜ米国はルワンダへの介入をためらったのか? その理由のひとつは、1992年に国連多国籍軍の指揮下で介入したソマリア内戦での軍事作戦の失敗である。海兵隊員十八名の命を落としたトラウマが「国連とともに人道的な活動をするとろくなことはない」という教訓を残した。
 ニック・ノルティ演じるルワンダ駐留・国連平和維持軍の大佐は、部下に自分から発砲してはならないと厳命する。アナーキーな民兵たちに取り囲まれた彼は、手にした短銃を地面に向けて撃ちながら、「離れろッ」と怒声を上げる。
 大佐の行動を国連の限界とみる人もいるかもしれない。しかし、ジェノサイド(集団虐殺)を食い止めるための選択肢に「空爆」はありえないだろう。
 ぼくはこの映画にしばしば涙を押さえきれず、「現時点で紛争仲裁の役割を担える機関は国連以外にない」ことを痛感するばかりだった。

(芳地隆之)

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