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2011-10-26up

おしどりマコ・ケンの「脱ってみる?」

第26回

公開意見聴取会、意見交換会、住民シンポジウム、@いわきの件。

 10月22日、福島県いわき市のいわきワシントンホテルで、公開意見聴取会というのがありました。東京電力と保安院の「福島第一原子力発電所の中期的安全確保の考え方に基づく施設運営計画」にいろいろな大学の先生がたが突っ込む、というもの。それに傍聴に行ってきました。

 列席者ご紹介。(敬称略)
〈東京電力(株)福島第一安定化センター〉より
原子炉安全評価グループマネージャー:山中康慎
冷却プロジェクト部長:福田俊彦
総合計画部長:山下和彦
水処理プロジェクト部長:磯貝智彦
施設基盤部長:白川智章
電気設備グループマネージャー:田中孝

〈原子力安全・保安院〉より
1F事故対策室:山形浩史
1F事故対策室:黒村普三
1F事故対策室:小坂淳彦
1F事故対策室:内藤浩行
1F事故対策室:青木一哉
福島地域原子力安全統括:渡邊誠

九州大学特任教授:工藤和彦
京都大学名誉教授:東邦夫(ちなみに最近読んでる『放射性廃棄物の工学』はこの先生が前書きを書かれてました!)
いわき明星大学教授:東之弘
大阪大学教授:山口彰
名古屋大学教授:山本章夫
福島大学副学長:渡邊明(ちなみにこの先生に以前電話取材したとき「私個人は放射線に関しては最大に不安に思っている人でも安心できるレベルにするべきと思う。福島の汚染を誰も我慢するべきではない」とおっしゃいました)

原子力安全基盤機構統括参事:平野雅司

 東京電力、保安院の説明、資料は工程表と同じようなものですがより詳細、より専門的でした! ぶ厚い!

 なので、まだまだ勉強不足でちんぷんかんぷん…
 しかし、先生方はきっちり突っ込まれている印象はありました。けど東電や保安院からの回答はのらりくらり。で、また、そのような回答でいいのか、などなど。

京大・東先生「全体的な主旨説明は受けたが、低温を維持するための説明しかなかった。3年経っても同じことの説明であった。それも大切だが、抜け落ちた燃料などの調査などはどうしたのか? 3年間同じことをするための計画なのか? これでいいのか? 認識が間違っているのではないか?」 (このお話に、九大の工藤先生も大きく頷いておられました)

 このようなご質問から質疑が始まりましたので、ちょっと驚きました!

保安院・山形さん「ステップ2が終了したあと、燃料取り出し、コンテナ設置を行なう。それまでこの状態を維持しなくては、ということで、今日の議論は最低限。この計画は妥当なものかどうか、全体的な作業の中、中期的に維持できるのか、本日意見が欲しい」

九大・工藤先生「この委員会の位置づけは了解した。では具体的に。冷温停止は100度以下、ということだが、私は冷温停止という概念はもっと低い温度だと考えていた。現在の注水冷却状態というのは、熱を具体的に捨てている状態ではない。 これは冷温停止ではない。東京電力が考える冷温停止の定義を具体的に説明せよ」

 そうそう、合同会見でもそれはよく質問にあがっていました!

保安院・山形さん「我々は冷温停止ではなく、冷温停止状態と言っており(なんじゃそりゃ!)、原子炉を停止して、上蓋を外しても蒸気が出ない、放射性物質が出てこない状態、周辺の被曝線量、敷地境界を評価して1mSV/y以下、という2つの数値指標を冷温停止状態と政府と定義した」

京大・東先生「汚染水処理施設の概要を見た。温度についてはもっと低くできる。注水量を増やすと汚染水の処理量が増えるからか?」

東京電力・山下さん「熱交換をしていない、と言われたが、水が配管を通るときに空冷している。汚染水が増えるのでいいバランスのところでまわしている」

いわき明星大・東先生「3年後を目指してだけでなく、毎年の発展を。耐震性だけでなく、津波というシビアアクシデントに耐えうるのか? 消防車、配管の継ぎ目など、水の確保と経路を増やしたほうがいいのでは? 100度以下が冷温停止状態ということだが、水は85度で蒸発し始める。90度でどんどん水はなくなっていく。温度はどこで測っているのか? そこが重要。中の様子が固まっているのか、膜状なのか、分からないまま測定しているのではないか。何箇所かで測ることも重要ではないか?」

 このような議論が9時半〜18時まで続くのです! 13時〜14時半まで休憩ですけど。
 これ以降、確率論的安全評価、フィルターセパレーション、ライセンスイベントレポート、多重性、多様性、分離性、常用と非常用の失敗確率、いろいろ続くのですが、ものすごい書き起こしの量のわりにあまり理解できていません、悲し。これは何でしょう、原子力教科書シリーズの『原子炉動特性とプラント制御』や『原子力保全工学』や『ヒューマンファクター概論』も読んでおけばよかったのかしら…。くやしーい!

 しかし、途中から私は上の空になるのです、なぜなら!
 会場に着いて資料を見ると、お昼休憩のあいだに「細野大臣と住民の方々の意見交換会」とあったから。何これ? 受付の方に、これは登録してなくても傍聴できますか? とお聞きすると、「公開意見聴取会と別なので、一般の方でも入れます」とのこと。それならば、といわき市の方々、飯舘村の方々にお電話しました。
 「今すぐ来れる? 細野大臣が住民の方々の声を聞いてくださるんですって!」

 そのうちに受付の方が慌てて「細野大臣に意見を伝える方はあらかじめ決まっていて、一般の方は来られても傍聴しかできません!」
 そうなの? それを改めてみなさんにお伝えし、「でもせっかくなので傍聴に行きます!」と6人来られました。

――あらかじめ決まってる方というのは、どうやって決まったのですか、事前に募集があったのですか? 

受付の方「いえ、いわき市長が選ばれた方々です」

――どういう基準で選ばれたのですか?

他のスタッフの方「町長や区長やPTA会長や商工会議所議長などです。公的な場ですので、やはりきちんとお話できる方を、ということで」

 ん? ちょっとそれって引っかかるな? 

 細野大臣がいらして、冒頭のご挨拶。
 「今日こういう形でみなさまにお集まり頂いた。それぞれの立場での声を聞きたい。首長のみなさんの声は今までも聞いてきた。今日は一般の声を」

 いやー、でも、今日も首長さんの声だと思いますけどね…? 首長さんのセレクトですしね…

 いらっしゃった方々をざっとご紹介します。
 いわき市長、久ノ浜・大久地区復興対策協議会会長、川前町志田名区長、いわき市復興計画策定委員長、いわき商工会議所いわき経済人塾長、久ノ浜・大久地区復興対策協議会副会長、小川町区長会会長、いわき市PTA連絡協議会会長、川前町区長会会長、小川町戸渡区長、いわき青年会議所グランドデザイン策定特別会議議長、広野小学校PTA副会長、広野小学校PTA会長、広野町長です。
 こちらの方々が1分〜2分、順番に細野大臣に様々なご意見をお話されました。

  • 除染の問題。土をどこに持っていけばいいのか。国で場所を決めて。国有林なり。
  • 田んぼの除染、三反百姓、小さい農家は補償が大変。小さい農家にも目を向けて。
  • 地区民と再三会議をしてきた。汚染土の仮置き場が見つからない。共有地などの提案も却下。
  • 国で国有林の開放などで仮置き場を。国有地で仮置き場を探している。一日も早く。33のうち17世帯、自主避難。部落はひっそりしている。子どもたちの声は聞こえない。
  • 生活にあたっての放射線の問題。生活者の安心につながっていない。線量が安全ですよと言われても安心につながっていない。生活空間の中で自家用車の中が一番線量が高い。持ち込んでいるから? やはり屋外にはたくさんあるのか。
  • いわきの雇用。ほとんど進出企業。今はいいが恐らく将来は撤退するのではないか。原子力の不安。経済合理性、こちらの地域に残るように、様々な措置を。小名浜港。貿易港なのでアジアと貿易をするような計画を。
  • 家のまわりが線量高いという母親の意見。山林に近い家屋の方、線量を測ってほしい。セシウムの量がはっきりすれば母親も安心するのではないか。みんな戻ってこれるように。
  • 福島や郡山より線量が低いから安心、と言われても安心できない。いったん高線量あびてるから。子どもたちの将来の健康調査。はっきりとお示しを。物を買ってもらうバザーをした。「不検出なの?ゼロなの?」と母親たちは言う。他所の人は神経質。消費者の方が安心できるように。
  • モニタリングポストの設置。なるべく早い時期に。設置を要望。2番目。防災体制の構築。これまでと違った原発の防災対策を。SPEEDIが末端にいきわたるような政策を。
  • 草むしり、側溝で出た土壌、それぞれの地区で保管してほしい、ということでストップをかけている。汚泥を敷地内におくのは不安という保護者の声。高圧洗浄機で洗浄作業は保護者にも被曝。専門の方の指導のもとに。
  • 細野大臣は30年後も政治家をしているのではないか、将来、子どもたちの因果関係が無い、という状態にはしないでほしい。給食センターについて、小学校優先、中学は埼玉で3日前に作って冷凍して直前に解凍。量が少ない。育ちざかりなのに。早く解消して。
  • 除染を一日も早く。住民の健康診査を国のほうでやって。うちのほうでは一人2万ずつもらった、など隣の町の方は言ってる。うちはどうなってるのか、と聞かれる。
  • 今年の夏は一人も子どもがいなかった。線量が高い。水、土の不安。キャンプファイヤーが今年はゼロ。村の崩壊につながらないか心配。いかに一日も早い収束をできるか、間違った風評被害、神経質な方が多い。
  • 避難している方が早く帰れるように、一日も早い除染を。除染の知識が中途半端。単にどこかに移しているだけのような気がしている。正確な除染知識がほしい。
  • 除染が先だろう、とあまり帰ってくる人がいない。一次帰宅の基地で、服を着替えて、というのを町民はいつも見ている、何なんだ、やっぱり帰れない、緊急時避難準備区域にして頂いて。安心して帰ってこれるようにしないと。一時帰宅の場所を断るのは心苦しいが、基地にしてもらっては困る。
  • 4月くらいに帰ろうと思っていた。若い人たちは神経質で戻らない。悩んでいる。どこの町でもそういうことがある。放射線については非常に神経質。早い収束を。広野を前線基地に。一次帰宅をだんだん中に送っていって、原発の本丸をシュッと収束して。 

 重複するものは避けましたが、若い人は神経質、子どもを戻すための政策という言葉はよく出ました。

 傍聴に来られた方々に「どうでしょう?」とお聞きすると、「なるほど、という意見もあるけれど、若い人は神経質、何が何でも除染を、というのは違うと思う」とのこと。

 特に、「脱ってみる?」第25回で書いた、震災の3日前に赤ちゃんを出産した晴香さんは「保養(避難)の話が全く無い!」とのことで、意見交換会が終わってから、一緒に細野大臣のところに走っていき、直接訴えました。

晴香さん「大臣! 私は震災の3日前にこの子を産みました。除染じゃ遅いんです、保養を先にしてください! 除染をしてからじゃ遅すぎます! 今すぐ! 保養を先にしてください! 保養したくてもできない場合もあるんです! この子の細胞を休ませてください! 除染を待っていたら、この子は死んでしまう!」

 SPの方々に押しのけられながらの私たちを、細野大臣は立ち止まって振り返り、「わかりました」とお辞儀してくださいました。
 前回お会いしたときの晴香さんと全然違う! 
 「私がこの子を守らなきゃなりませんからね、そのためには何でもします!」

 そして、その後、みんなで映画館ポレポレいわきのシンポジウムに走って行きました。
 なぜ、細野大臣の意見交換会に、電話をしてからみなさんすぐに集まって頂けたか、というと、歩いて5分ちょっとのところでシンポジウムをやっていたからなのです(第1回シンポジウムについては第25回参照)。

 もう終わりかけでしたが、後半に少し参加できました。そこで「すぐ近くに細野大臣がいらして、意見交換会という住民方の声を聞く会やってらっしゃいましたけど、みなさんご存知でした?」と伺うと、みなさん「全然知らなかった!」
 そして「住民の方々の声として、早く除染を、早く仮置き場を、子どもたちが戻らない、若い人たちは神経質という意見が複数上がっていて、マスコミがたくさん取材にきていたので、そちらが住民の声として全国に広まるでしょう」と話すと、悲鳴があがりました。
 意見交換会の方は年配の方々が多かったのですが、こちらのシンポジウムはほとんどお母さまがた。そして、若い人は神経質と言われるのがイヤ、と前回おっしゃってたからです。

 そして後半しか参加できませんでしたが、こちらのシンポジウムのトピックはもっと緊急の、生活に即したものでした。
 それは、農家の方々が収穫後の稲藁、籾殻を燃やすのが不安、ということ。稲藁は汚染されやすいときいた、風下は実際線量が上がる、子どもも体調を崩している、役場に言っても、警察に言っても直接言っても燃やすのをやめてもらえない、そして燃やしたあとの灰は濃縮されて高濃度ではないの? あれはどう処分されるの? 雨の日は以前より線量が上がるのは、空中に灰が舞っているせいではない? など、本当に切実、不安な声でした。

 あと「ガイガーカウンターを買うときはγ線だけでなくα線も測れるちょっといいものを買ったほうがいい、街中でもけっこう近寄らないほうがいい高い線量のところがある、数字をつかんでいこう」とか「マスクをして風などで巻き上がるものを吸い込んで内部被曝しないようにしよう、マスクもカップマスクを。海外の友達が日本で四角いマスクをしているのを見て、宗教的な何かのおまじない? と言っていた。密封しないとマスクの意味は無いそうだ」。こういうことを「若い人は神経質」と言われちゃうのかしらね?

 そして、農家の方も来てらして、『バベルの塔』の高垣監督(25回参照)が「小出先生は畑は表土を5センチ剥ぎ取ればいい、とおっしゃるけど、5センチ剥ぎ取ると元の土に状態に戻すにはどれくらいかかるの?」とご質問されました。
 農家の方のお答え。しばらく黙って考えてから、「僕が農業をいろいろ勉強して知ったことですが、1センチの土を作るのに100年かかる、と本に書いてありました。なので5センチだと500年かかるのかもしれません」
高垣監督「じゃあ、もう無理ということだ」

 高垣監督は最後に、「京都で報道だけを見ていると、もう大丈夫かな、と思うけど、ここに来るとやっぱり同じです。肌の感じは変わっていない。細野大臣が聞いた住民の声だけをマスコミが全国に広めるようなシステムがあると思う。しんどいけど、やはりみなさんが直接声をあげないと」とおっしゃいました。

 そしてシンポジウムのあと、お一人が『バベルの塔』ケーキをご用意くださり、みんなでおしゃべり! なんか前向きな会でいい感じ!
 ある方に、個別にこっそりお話を伺ったことのひとつ。「実は…」。以前、PTAがらみの役についたことがある、細野大臣の意見交換会は原子力がらみの出来レースではなく、以前からある「答弁」というものだ、私も一度経験があるが台本みたいなものを渡されてこれを言ってほしいと言われた、住民の声を吸い上げる、という形を作るためのものなんだ、と打ち明けられました。今回のものがそうかどうかは知りませんけどね!

 それから、また福島原発の作業員のサニーさんとお話しました。放射性物質を拭き取るためのクロスを持ってきてくださって「これが除染にいいですよ」と配ってくださいました。そして銀行通帳みたいな線量手帳を見せて頂いたり。こっちは貯まるとイヤですけどね!

 で、今回は飯舘村の仲良しも駆けつけてくれました。飯舘の仲良しにサニーさんを紹介すると、(よくサニーさんのことを電話で話しているので)アッと言って「大丈夫ですか!?」と言いました。
 サニーさんに「こちらは飯舘村の仲良しで…」と紹介すると、突然「このたびはご迷惑をかけてすみませんでした!」と深々と頭を下げられました。
 「いやいやーサニーさんのせいじゃないでしょう!」と笑って返してたんですけど。
 でも何度も何度も謝っておられて。

 そのあとみんなで仲良くわーわー喋ったり笑ったりしたんですけどね!

 いわきからの帰りの電車で飯舘の仲良しと電話で話していて、「サニーさんが会うなり謝ってきたのにはビックリした!」とのこと。「マコさん、俺らよりあの人たちのほうが大変だ。心配だ! ショックだった。俺らよりあの人たちのことにしっかり力を入れてよ、頼むよ!」と何度も何度も言っていて、電話を切ったあと、なんか泣きました。

 サニーさんも飯舘の仲良しも相当被曝をしているのに、自分のことより相手のことを心配していました。
 なんか私、被曝してなくてゴメン! と思っちゃいましたよ! 恥ずかしいな、動くしかないです。

【今週の針金】
僕は「細野大臣との意見交換会」で写真を撮っていて、意見を言う会長さんの手にあまりにも大きな金ピカの指輪が輝いてるのを見て何故か悲しくなりましてん。

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「心も体もとても傷ついてるはずなのに、
なんで当事者が頑張らないといけないんでしょう?」
「がんばって、の代わりに、私ががんばるから、少し休みな? と言いたい」。
福島の人たちへの思いを、以前にもそう綴っていたマコさん。
「動くしかない」のは、私たち1人ひとりです。
そしていわき市の晴香さん、飯舘村からの健太さん、
2人のゲストを迎えての「マガ9学校」はいよいよ今週末。
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おしどりプロフィール

マコとケンの夫婦コンビ。横山ホットブラザーズ、横山マコトの弟子。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。2003年結成、芸歴は2005年から。
ケンは大阪生まれ、パントマイムや針金やテルミンをあやつる。パントマイムダンサーとしてヨーロッパの劇場をまわる。マコと出会い、ぞっこんになり、芸人に。
マコは神戸生まれ、鳥取大学医学部生命科学科を中退し、東西屋ちんどん通信社に入門。アコーディオン流しを経て芸人に。

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