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2012-12-19up

時々お散歩日記(鈴木耕)

118

「憲法違反選挙」と、
僕の「抜本的選挙制度改革案」

 ショックであった。なにしろ、凄まじい結果。
 「暗澹たる気持ち」と、僕はツイッターに書いた。

 選挙の夜、カミさんの友だちからのメールには「道行く人をひっぱたきたい」とあったという。
 我が91歳義母は「あたし、もう絶対に選挙なんか行かないわ」宣言(まだ選挙に行く気があっただけでもすごい年寄りだけれど)。
 カミさんは「原発は一体どこへ行ったのよ、もう頭に来た。これから毎週金曜日、私も国会前へ行くからね」と吠え、選挙速報のテレビに舌打ちしつつ、まだ10時前なのに寝室へ消えた。
 ふたりの友人から「どうすりゃいいんだろうなあ…」と、電話が来た。あの夜、僕の周辺はこんな感じだったのだ。
 僕も、ますます暗くなった。テレビの選挙速報を消して、僕もベッドへもぐり込んだ。高村薫『冷血』を読み始めたが、文章がまるで頭に入ってこなかった。居間へ戻って、焼酎のお湯割りを飲んで、心を落ち着かせた。2杯飲んでから、再びベッドへ。
 いい夢なんか、見られそうもない…。

 翌朝の新聞をめくりながら、憂鬱度は増した。こんな状況になると、逆に「マガジン9」の役割は大きくなるだろうなあ(後で聞いたら、「マガジン9」へのアクセス数が、選挙前に急増していたそうだ)。
 安倍内閣は維新と組んで、すぐにでも「憲法改定」に乗り出すかもしれない。原発再稼働だって、なし崩しに行われる可能性が高い。
 僕が安倍内閣当時(2007年9月)に出版した本『目覚めたら、戦争。』(コモンズ刊)のタイトルが、なんだか妙に現実味を帯びてきた。あの本でも、安倍の危険性を指摘していたのだが、不幸なことに今ごろになって、それが再来した。
 ほんとうに、ある朝、目が覚めたら、どこかの海で砲弾が飛び交っている、というニュースが流れていても不思議ではないような、安倍と石原の恐ろしさ。
 抵抗の方法を考えなくては…。

 日をおいて、少し冷静になる。
 いろいろ考えをめぐらせると、この選挙、おかしいことがたくさん出てくる。押さえておかなければならないことはいくつかあるが、筆頭はこれが「憲法違反選挙」だったという事実だ。
 東京新聞(12月18日付)が、それに触れている。

(略)「一票の格差」が是正されないまま行われた十六日の衆院選は違憲だとして、弁護士グループが十七日、東京一区など計二十七選挙区での選挙無効を求め、全国十四の高裁・高裁支部すべてに一斉提訴した。
 最高裁は昨年三月、格差が最大二・三〇倍だった二〇〇九年の衆院選を違憲状態と判断。国会は先月、小選挙区で「〇増五減」の法律を成立させ、衆院選挙区画定審議会が区割り改定作業に取り掛かったが、衆院選には間に合わなかった。(略)
 東京高裁に提訴後、記者会見した升永弁護士は「違憲状態の選挙で選ばれた正当性のない議員が法律をつくり、首相を選ぶなど国家権力を行使するのは許されない」と語った。(略)
 無効判決が出る可能性を指摘する憲法学者もいる。上智大法科大学院の高見勝利教授は「最近の判例の傾向を見ると最高裁は国会へのいら立ちを募らせており、無効にまで踏み込むことはあり得る」と話した。

 最高裁で「違憲状態」にあると指摘されながら、結果的にはそれを無視、是正することなく衆院選に突入してしまったわけだ。最高裁は「違憲立法審査権」を持つ、いわば最終的な「憲法の擁護者」でなければならない。だが、政治的配慮から、これまで少数の事案を除き、ほとんどの場合、違憲判決を避けてきた歴史がある。
(注・「違憲立法審査権」とは、実際に制定された法律や執行された行政施策が、あらゆる法規の最高位に立つ日本国憲法に違反していないかどうかを審査する権限のことをいう)
 だがさすがに、今度はそうはいかなくなるかもしれない。「何のための最高裁か」との批判が、法曹界や言論界から強まってきているためだ。高見教授の指摘のように「今回の衆院選は違憲であり、選挙結果は無効」との判決が出れば、選挙やり直しの可能性もあるのだ。
 ここで悩ましいのは、では、無効判決が出て「衆院選やり直し」となった場合、その間に決められた法律や国会の決議、予算執行などの有効性が問われることになる、ということだ。「違憲状態下の国会」で決められたことが無効かどうか…。もし無効となれば、すべての予算執行は凍結されなければならない。国家は大混乱に陥るだろう。
 とすれば、「違憲国会」で決められたことも有効、ということでうやむやにされる、ということも考えられる。「憲法改定発議条件の緩和(国会議員の3分の2条項)」や「原発再稼働」なども、自民党内閣の下では有効ということにされかねない。
 我々は、それを阻止するための闘いを、これからも続けていかなければならない。

 さらにもうひとつ、「選挙制度」の問題がある。
 これについては、今回の選挙結果を受けて、ようやくまともに論議しようという意見も、少数ながら出てきている。なにしろ、今回の場合、投票数(率)と当選者数の結果の乖離があまりにひどすぎる。
 現在の日本の有権者数は、約1億400万人。今回の投票率は、戦後最低の59.3%だ。そして、主な党派の得票数と当選者数は以下のとおり。

  小選挙区 得票率 比例区 得票率
自民 25,643,309票= 43.01%(237人) 16,624,457票= 27.62%(57人)
民主 13,598,772票= 22.81%(27人) 9,628,653票= 16.00%(30人)
維新 6,942,353票= 11.64%(14人) 12,262,228票= 20.38%(40人)
公明 885,881票= 1.49%(9人) 7,116,474票= 11.83%(22人)
みんな 2,807,244票= 4.71%(4人) 5,245,586票= 8.72%(14人)
未来 2,992,365票= 5.02%(2人) 3,423,915票= 5.69%(7人)
共産 4,700,290票= 7.88%(0人) 3,689,159票= 6.13%(8人)
社民 451,762票= 0.76%(1人) 1,420,790票= 2.36%(1人)

(カッコ内は当選者数、以下略)

 これを見れば一目瞭然だろう。
 自民党は、小選挙区では43%(全有権者数では24%)しか得票していないにもかかわらず、小選挙区(300議席)の実に79%を占めてしまった。また、小選挙区と比例をあわせた総得票数を計算してみると、自民党は42,267,766票。総投票数(119,806,455票)の35.28%に過ぎない。だが獲得議席数は294(61.25%)。つまり、35%の得票で6割以上の議席を獲得してしまったのだ。
 小選挙区では、実に57%が「死に票」になってしまったということだ。これが「小選挙区制の弊害」である。国民の6割近い人たちの票が、結局は生かされなかった。これをもって「民意の反映」などと言えるのだろうか。
 ほとんど政府のやることを追認してきただけで、伝家の宝刀の「違憲立法審査権」を錆び付かせたままの最高裁だって、この結果にはやはり苛立つのではないだろうか。
 安倍晋三自民党総裁は「大勝利」に浮かれ、選挙結果を「民意」だとして、「憲法改定」や「原発再稼働」を言い出し始めているようだ。だが、はたしてそれは真の「民意」といえるのか?
 かつて、故石川真澄さん(元朝日新聞記者)が、「小選挙区制の危険性」を諄々と説いていたことが、いまさらのように思い出される。

 では、どうすればいいのか。このような分析には、必ず「負け惜しみ」とか「では対案を出せ」という批判が出てくる。それは百も承知、二百も合点、そこで僕は「抜本的選挙制度改革案」を考えてみたのだ。
 それは、以下のようなごく単純なものだ。

1、衆議院の議員定数を400とする。
2、そのうち、選挙区選出議員数は100とする。 選挙区は、各県全県一区で定数は各2、ただし、東京・大阪・愛知は各4とする。
3、比例区は300とする。
ただし、現行の各地方別比例区は廃止、すべて全国区とする。
4、比例区の全投票数の2%に満たない政党は、議席を獲得できない。
これは、過度な小党の乱立を防ぐためのやむを得ない措置とする。

 まことにスッキリしている、と僕は考える。議員数が多すぎるという批判には、80議席減で応じる。
 各地方からの声を聞くという役割も、確かに国会にはある。それには、各県2の議席割り当てで充分だと考える。
 現行の制度では、地元優先で、基本的な国のあり方を考えるなどということは二の次、という議員があまりに多く選出されすぎる。
 地元へどれほど土木事業を持ってこられるかが、当落の基準になるような現行の小選挙区制が、今回のような得票数と当選者数のあきれるほどの乖離をもたらした。国の行方を訴えるのでは票にならず、ほとんどの候補者が"地元密着"という名の利益誘導を選挙運動の柱としたのだ。
 また、現行のように小選挙区が主で、比例代表が付け足し、というのでは、今回の結果に見るように、少数意見がほとんど抹殺されてしまう。したがって、選挙制度を抜本的に改革するためには、比例区を主、選挙区を従とするのが、もっとも妥当な方法だ。
 たとえば、この改革案を今回の得票率に当てはめてみればどうなるか。定数300の比例制では、次のような結果になる。

自民・84 維新・61 民主・47 公明・36 みんな・27 未来・18 共産・18 社民・8
(2%未満の党は切捨てのため、若干の誤差がある)

 地方選挙区と合わせても、今回の自民党の圧勝という現行制度による現象が、いかに「民意」とかけ離れたものだったかがよく分かる。上記の数が今回選挙の「民意」に極めて近いものだったといえるだろう。
 確かに、ドラスティックな政変としては、小選挙区制は面白いかもしれない。だが、あまりに投票行動が結果と結びつかない今回の選挙のようなことが重なれば、国民の投票意欲は薄れるばかりだろう。今回の戦後最低の投票率が、その危うさを示している。
 議会制民主主義の根底を揺るがすのは、なによりも低投票率であることを忘れてはならない。

 僕は、上記の「選挙制度抜本改革案」を強く主張する。みなさんはどうお考えだろうか?

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鈴木耕さんプロフィール

すずき こう1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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