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2012-11-28up

時々お散歩日記(鈴木耕)

115

子どものケンカ以下の政治コメディと、
希望の「嘉田新党」、
そして、都知事選で見えた「連合」の正体

 いやはや、何がなんだか分からない。

 昨日まで「一緒にやろうぜ」と言っていたのが、「おまえは混ぜてやんないもーん」と蹴飛ばされる。すると、
 「じゃあいいよ。こっちとやるもんね」と別のところとひっつく。
 それとは別に、
 「ふふふ、ぼくらは仲良しだもんね」とニコニコ顔だったふたつのところが、一夜明けたら大ゲンカ。
 「一緒にやれそうもないよ。だっておまえんとこ、新しく入ってきたじいちゃんと言うことがちがうじゃん。おかしいぜ」
 「じいちゃん、ワケ分かんないけど、言うことは強そうで、カッコいいじゃん。おまえんとこ、じいちゃんと一緒にやるってんなら、混ぜてやってもいいけどな」
 「あのじいちゃん、すぐケンカばっかするヤツじゃん。もっと、ちゃんと考えたほうがいいんじゃね?」
 「ま、そんなのどうだっていいべよ。じいちゃん、カッコつけてんだから、乗っかっちゃうよ、オレんとこは。それがイヤなら、ジャンケンで決めようぜ」
 「なんだよそれ、ジャンケンで決めるなんてヒッドーイ! じゃ、今までの約束は、どーなっちゃうんだよお?」
 「どーもなんねえよ、そんなもん。どーせ、約束なんてすぐに変わっちゃうんだもん」
 「なんだよ、それ。バカバカ、おまえなんか嫌いだーい」
 「おお、そんならけっこう。じゃあ、トーキョーで一緒に応援するつもりだったアイツからも、手をひけよな」
 「ふん、もう知らねーぞ、おまえのとこなんか。あっちでもこっちでも、縄張りはぜったい渡さないからな、もうケンカだかんな!」

 ケンカの理由がさっぱり分からない。新しく(実はとっても古いくせに)やってきたケンカっ早いじいちゃん(自分ではやらないで、子分にやらせてエラソーな顔をするのが得意技)が、約束の中身なんか吹っ飛ばして、「オレの天下だあ」って、辺りをグチャグチャにしちまった。
 関西方面の兄ちゃんは、じいちゃんに気を使って、今まで自分が言ってきたことをぜーんぶ引っくり返してしまった。ちゃぶ台返しも、ここまでくるとみっともないだけ。
 ホント、何がなんだか分かんない、ボク。

 別のところでも、わけの分からない口ゲンカが始まっていたよ。
 「おまえは、前に言ってたこと、なーんも守ってないじゃんよ、このウソつきぃ!」
 「ざあけんなよ! じゃあおまえんとこはどーなんだよ。あんな危ないもん拵えといて、知らん顔かよ」
 「んな昔のこと言われたって、んなもん知るかよ」
 「それにさ、子ども銀行券をパソコンでドカドカこさえて、どーすんだよ、バーカ」
 「それでお菓子買えるんだからいいじゃん。こっちはケンカ強いのいっぱい集めてんだかんな、やるかあ、このおぉ!」
 「すぐにケンカを売るヤツなんて、みんなに嫌われるぞお!」
 「バーカ、ケンカもできなくってどーすんだよ。隣りの組に舐められたら終わりだろ」
 「隣りの組とは、いろいろモノをやったりもらったりしてんだから、ケンカばっかじゃダメじゃん。ソンするばっかじゃんか、あのじいちゃんのやり方じゃ」
 「ばーか、そんな弱腰だから、足下見られるんだよ。竹の棒だけじゃ頼りないから、これからは金属バットや強力パチンコまで用意するつもりだぜ、オレたちは」
 「もうヤダヤダ、んなとこと付き合ってらんないよ。話し合いなんかやんないもーん」

 見ているほうがバカらしくなるけれど、ま、こんなところが面白くもない"政治コメディ"の現状らしい。いろいろとリクツづけに小難しい言葉をちりばめてはいるが、結局、言っていること、やっていることは、子どものケンカ以下のバカらしさじゃないか。

 これに対し、「あんな連中と付き合っていると、こっちまでバカになっちゃうぞ組」が、「それでは、わたくしどもはご一緒しましょ」てな感じでまとまろうとする気配。 
 11月26日~27日の各紙やテレビは、かなり大きく「嘉田由紀子滋賀県知事が新党構想」を伝えた。たとえば、東京新聞(27日付)。

脱原発 結集加速
滋賀知事新党構想
生活、脱原発、みどり 比例で統一名簿

 滋賀県の嘉田由紀子知事(62)は二十六日、脱原発を旗印にした「新党」を検討していると明らかにした。まず自身が中心となり文化人らで脱原発を訴える組織を立ち上げ、そこに国民の生活が第一と「減税日本。反TPP・脱原発を実現する党」(「脱原発」)が合流を検討。みどりの風も連携する方向で調整している。合流できない場合は、それぞれの党を遺しながら、比例代表で統一名簿をつくる案も浮上している。乱立する脱原発勢力が環境派知事の嘉田氏を軸にまとまれば衆院選でも一大勢力となる。(略)

 この動きは、実はある筋から僕は聞いていた。亀井静香氏、山田正彦氏(脱原発)や谷岡郁子氏(みどりの風)などが、ひそかに話し合いの場を持っていたことも、この記事にある"文化人"のおひとりから聞いていたのだ。
 しかし、中央の国会議員たちだけの話し合いでは、結局「オレがオレが」でまとまれない。事実、脱原発を言う各議員たちだって、僕がおちゃらけて書くしかないような、笑えない喜劇の一方の役者を演じただけだったではないか。
 そういう場面からは距離を置いていて、しかも政治的にはあまり色のついていない学者だった人物。政治的軋轢がなく、方向性さえ一致すれば、みんなが乗れる人物として嘉田氏が浮上してきた背景は、そういうことだったのだ(注・嘉田由紀子氏は環境社会学者で、京都精華大学教授を経て、滋賀県知事に当選した人)。
 この流れは加速するだろう。社民党から抜けた阿部知子氏はここへ合流する意向のようだし、社民党自体も、少なくとも「統一名簿」ということであれば、参加する可能性はある。
 僕は、とりあえずこの方向性を支持する。むろん、全面的支持というわけではない。けれど、何度かこのコラムやツイッター等で主張してきたように、「脱原発」という日本人(いや、すべての人間・生きもの)の生存にとって極めて重要な命題を第一に掲げる「シングル・イシュー」の選挙協力によって原発を止めることができれば、それは大きな成果だと思うからだ。
 しばらく、この流れを注視していこう。

 もうひとつ、重要な選挙がある。「東京都知事選」だ。もし、電力の最大の消費地である東京が「脱原発」をきちんと表明すれば、それは日本の原子力政策を左右するほどのインパクトを持つ。それほど重要な選挙が都知事選だ。
 この選挙では、石原慎太郎(個人的呼び捨て運動、しつこく実施中)が"後継指名"した猪瀬直樹氏が有力との報道がなされてきたが、ここにきて前日本弁護士連合会会長の宇都宮けんじ氏がかなり追い上げてきているという状況になりつつある。
 石原"上から目線路線"の継承か、"脱原発・反貧困"の新都政か、という構図である。しかし、"後継指名"って、まるで、慎太郎がいつもバカにしているどこかの独裁国家みたいではないか。都政を私物化してきた慎太郎の、最後の置きみやげか。
 前述した「嘉田新党」に加わるとみられる諸党派は、宇都宮氏を推す方向で一致したようだし、いつもは独自候補擁立を譲らない共産党も宇都宮氏支持を打ち出した。
 それに、京大の小出裕章さんも「私が都民なら、迷わず宇都宮さんに投票する」と熱い支持を表明するなど、これまで政治にはあまり関わってこなかった著名人もかなり宇都宮氏支持に回っている。

 ところが、ここで大問題なのは、労働組合の大元締め・連合の態度である。なんと、連合は26日、猪瀬氏支持を表明したのだ。これは独自候補を出せない民主党に成り代わって、都政に影響力を持ちたい連合の幹部たちの思惑だ。つまり、民主党は総選挙で手一杯、とても都知事選にまで関与している余裕はない。そこで、連合をダミーにして都政に影響力を残そうと考えたわけだ。それにしても、猪瀬氏支持とは…。
 宇都宮氏は「反貧困ネットワーク」という市民団体の結成にも力を注いだように、非正規労働者やパート労働者、若者や女性の貧困問題に熱心に取り組んできた弁護士だ。労働者の味方であるならば、当然、宇都宮氏を推すのが普通だろう。だが連合は、宇都宮氏ではなく猪瀬氏に乗っかったのだ。
 連合という"労働組合連合組織"が、実は労働者全体の味方ではなく、単に"正社員労働者の味方"でしかなかったことを、自ら暴露したわけだ。ようするに、大企業経営者と同じ目線で、「大企業労働者は守るが、使い捨ての期間労働者や派遣・パート従業員など、我々の知ったことか」という態度だ。これでは、連合の組織人員が低下の一途を辿るはず。自分たちの組織が、"労働者を守らない労働組合"という語義矛盾の存在であることに気づかない鈍感さ、ひどいもんだ。
 それは、連合内の最有力組織である電力総連の種岡成一会長が、あれほどの原発事故を引き起こした一方の責任者であるにもかかわらず、選挙に際して「脱原発を言うような候補者は応援しない」と、脅しとも踏み絵とも取れる発言を重ねていることでもよく分かる。
 連合は、自らの既得権益を守ること以外に何の目的もない組織に堕してしまったのだ。それを、恥ずかしげもなく露呈してしまったのが、今回の都知事選だということ…。

 こうなれば、我々は自らが立ち上がり、自らが望む方向へ、既成の労組や政治団体の手を借りずに歩いていくしかない。
 その兆しが見えてきている。「嘉田新党」も、そんな普通の人間たちの悲痛な叫びの集合体として顕現してきたのだと、僕は信じる。官邸前の毎週金曜日の叫びの持続が、ここへ来てようやく花開こうとしている、と言ってもいいと思う。

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鈴木耕さんプロフィール

すずき こう1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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