マガジン9

憲法と社会問題を考えるオピニオンウェブマガジン。

「マガジン9」トップページへ時々お散歩日記:バックナンバーへ

2012-08-29up

時々お散歩日記(鈴木耕)

103

自公政権復活だけは阻止しなければならない。
そして、緩やかな大同団結の萌芽が…

 もうすぐ9月。9月という言葉を聞くと、涼しげな風の匂いがしそうだが、まだまだ暑い。それでも昨日はヒグラシの鳴き声を聞いた。ああ、秋が近い。
 この夏は、僕はどこへも行かなかった。あまり遊びに出かけるような心境じゃなかった。ずっと家にいた。週に一度、埼玉県の病院へ見舞いに行くのだけがちょっとした外出。それでも、なるべくデモや集会には参加していたけれど…。
 そんな僕の寂しい夏も、もうじき終わる。

 しかし、季節も何も関係なく、ひたすら暑苦しいのは日本のど真ん中、永田町界隈である。中でも国会はやたらと喧しい。セミだって暑苦しすぎて近寄らない。
 約束違反だ、毅然とした外交だ、合意破棄だ、強行採決だ、問責決議だ、不信任だ、解散間近だ、総選挙だ、政界再編だ、新党だ、橋下だ、なんだかんだと、騒がしいことおびただしい。
 国会議員・政治家のみなさんにとっては、頭の中がグツグツと煮え滾っているほうが健康にいいのかもしれない。不思議な人々だ。国民の健康や安全よりも、党利党略私利私欲のほうが優先されるらしい。

 8月22日、野田(呼び捨て運動実施中)は、官邸前抗議集会の主催者たちと初めて面会した。20分の約束が、それでも30分に延びた。たった30分の野田パフォーマンス。ほぼ25分の市民側の要望・要求に、野田は4分ほどの答えにならぬ答えを投げ返しただけで、そそくさと退席。しかもその直後に、野田は日本商工会議所の岡村会頭ら財界人との面会をセットしていた。
 こちらでは、市民らに見せた仏頂面は一転、にこやかな和気藹々の雰囲気で固い握手。「大飯原発再稼働を受けて、中小企業の方々は大喜びしております」などという財界側の言葉に大きく笑顔で頷いていた。
 まことに分かりやすい人物である。
 市民たちとの対話(ともいえない面会)のすぐ後に、財界人たちとの会談。「財界の方々の要望を忘れてはいませんよ」というサインを露骨に示しただけだ。
 そして、すぐに藤村官房長官が「団体の連合体の皆さんとの話は、これで終わったと思う」「改めて会談することはない」と発言。これだけはキッパリと"決断"を見せてくれたのだ。 野田田舎芝居の幕は降りた。

 野田芝居はもう終焉だけれど、田舎芝居の第2幕は準備万端整ったらしい。特に、自民党は"政権復帰"へ意欲満々。「一刻も早く解散総選挙へ」とざわめいている。
 民主党野田政権への失望感が極限まで高まっているこの時期に選挙をやれれば、自民党が勝つことは間違いないと踏んでいる。だが、この時期を逸すれば、あの橋下人気にどう引っ掻き回されるか分からない。維新の会の準備が整わないうちに、とにかく選挙に突っ込みたい。それが自民党の本音だ。国民のことなんか知っちゃいない。
 そして、もし自民党が政権復帰できれば、一気に"原発再稼働"へ突き進むことになる。
 それを如実に表しているのが、朝日新聞が行った国会議員アンケートの結果だ(8月26日付)。

国会議員42%「原発ゼロ」
6割、新設・更新「認めぬ」


 2030年時点の原発割合など新しいエネルギー政策について、朝日新聞社は全国会議員を対象にアンケートを実施した。原発割合「0%」を支持する意見が全体の42%を占め、「脱原発」の志向が強まっていることがわかった。ただ、自民党はわずか4%だった。(略)

 このアンケートは衆参両院議員721人に書面で質問した上で記者が面談などして、434人(60%)から回答を得たという。その結果は、「0%=42%(183人)」「15%=11%(49人)」「20~25%=3%(13人)」。確かに0%案が中では最も多い。
 政党別に見ると、0%案は、民主党83人だったが、自民党がわずか3人、公明党も4人にすぎなかった。
 さまざまな調査における脱原発意識の国民的高まり、衰えぬ官邸前抗議集会、全国各地に広まる反原発デモ、さらにはパブリックコメント約9万通の87%が「0%」だったことなどに脅え、選挙対策として心ならずも「0%支持」などと回答してしまった議員もいるかもしれない。それにしても、この自民公明両党議員の回答には驚く。
 この記事を詳細に読むと、自民党はアンケート回収率も42%と他党と比べて格段に低く、さらに回答者の中でも設問の3案(0%、15%、20~25%)への回答を避け、「その他・無回答」が8割に及んだという。つまり、原発に関しては「回答したくない」ということだ。もっと言えば「本音は原発容認だが、それを言うと選挙では不利。だから回答はしない」ということだろう。
 どこからどう見ても、自民党が「原発容認党」であることが明らかである。そして、自民党と長い間連立を組み、選挙協力をし続けてきた公明党が、原発問題に関しては、はっきりした政策を持っていないことが、このアンケートから見えてくる。自民党への義理立てか。庶民の党として「反戦平和」を旗印にしてきた姿からは程遠い。
 公明党の支持母体である創価学会の会員たちは、いったいどう考えているのだろう。そこが不思議でたまらない。
 たとえ野田政権が倒れようが、民主党が次期総選挙で惨敗しようが、どうでもいい。しかし、自民公明連立政権が復活することだけは、なんとしても避けなければならない。自公復活は、即「原発再稼働」へつながる道なのだ。

 となれば、では選択はどうすればいいのか。僕のツイッターへも「選択肢も示さず、脱原発だの反原発だのと言うだけの無責任」というような批判・罵倒がこのところまた増えてきた。
 だからといって、僕は"橋下維新の会"には絶対に加担しない。彼の強権的手法や抑圧政治がもたらすものは、閉塞感打破にはつながるかもしれないが、もっと息苦しい世の中の到来である。
 橋下氏は安倍晋三元首相との連携を模索し始めている。安倍氏とは「戦後レジームからの脱却」というわけのわからぬスローガンを掲げた政治家だ。それは、単純に言えば「戦前への復帰」でしかない。愛国教育の復活、戦前型道徳教育の押し付け、軍備強化、さらには徴兵制や核武装へ踏み込む可能性すらある。
 安倍氏も橋下氏も"隠れ核武装論者"であることは、ほぼ間違いない。そんな連中に、この国の行き先を明け渡してはたまらない。

 どうにか大同団結を!!
 ひたすら、それを呼びかけていくしかない。その萌芽は見えている。さまざまなグループが活動している。
 地方議員主体の「緑の党」、谷岡郁子氏ら女性議員4人が立ち上げた「みどりの風」、中沢新一氏、いとうせいこう氏らの「グリーンアクティブ」、鎌田慧氏、坂本龍一氏、大江健三郎氏、落合恵子氏らの「さようなら原発1000万人アクション」(この「アクション」はすでに800万筆以上の「脱原発署名」を集めている)。そしてむろん、野田をついに引きずり出した「首都圏反原発連合」などの運動体。
 また、経団連等の財界主導の原発推進派に叛旗を翻した主に中小企業経営者の集まり「エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議」、さらには、各地方自治体からも脱原発の声を上げようとする「脱原発をめざす首長会議」などの組織も拡大中だ。
 他にも生協運動の人たち、各地域で反原発運動を繰り広げてきたグループ、さらには共産党、社民党などの既成政党にも連帯をうながし、巨大な連携の輪を作るべきだと思うのだ。それを「夢想」と呼ぶなら呼べばいい。だが、本当の閉塞感打破には、これしかない。

 まだ個々の力は弱い。しかし「脱原発意識」層は、膨大な数になりつつあるのだ。
 嘘だと思うなら、一度、金曜日の夕方、官邸前へ行ってみればいい。地下鉄「国会議事堂前」か「霞ヶ関」駅で降りれば、すぐに「原発再稼働ハンターイ!」という想像を絶する「大きな音」(野田の名言)が聞こえてくるだろう。
 僕も毎週、足を運ぶ。

googleサイト内検索
カスタム検索
鈴木耕さんプロフィール

すずき こう1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

「時々お散歩日記」最新10title

バックナンバー一覧へ→