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2011-02-09up

時々お散歩日記(鈴木耕)

34

エジプトから、沖縄まで…

 いやあ、なんともめまぐるしい。日本も世界も猛スピードで動いているようだ。ま、それだけ情報が“グローバル化”しているということだろう。だから、あまりニュースは気にしないようにしているのだが、それにしても、目が回る…。
 「イギリス人は歩きながら考える」と書いたのは、笠信太郎『ものの見方について』(朝日文庫)だった。 私もその真似をして、散歩しながらいろんなことを考えようとする。でも、途中で面白いものや楽しいものがあると、ついそちらに気をとられてしまう。それを携帯で写真に撮る。そんな歩き方だから、とても笠さんが書いた英国人のように、きちんと考えをまとめることなどできない。
 散歩途中で記憶にぼんやりと残ったことを、家に帰ってからメモに残す。そんなふうにして、このコラムを書いている。だから、下手な携帯写真を見ながら、気楽に読んでほしい。 今回はまず、少し楽しい写真を。

◎チュニジアで始まった中東諸国の民主化運動。まるでドミノ倒しのように近隣諸国に波及していく。エジプト、ヨルダン、イエメン。さらにはリビアやシリアあたりにも、その予兆があるという。

◎特にエジプトの動きに神経を尖らすアメリカ。中東諸国ではアメリカが援助してきた数少ない“親米国家”だったからだ。しかし、結局はムバラク独裁政権。そのムバラク大統領をいまやアメリカは見捨てようとしている。自国にとって都合が悪くなれば、すぐさま切り捨てるのがアメリカのやり方、露骨だ。イラクのフセイン大統領がその典型例だった。もっとも、米国内でもクローリー国務次官補などは「ムバラク大統領が即時退陣すれば、エジプト国内の混乱はさらに大きくなり米国にとって利益にならない」と、ムバラク支持にまわるなど、混乱状況にある。

◎小沢一郎氏や鳩山由紀夫氏も、アメリカの意向に反したばっかりに切り捨てられたのではないか。それが怖いから、菅直人首相は沖縄を捨石にしてまでアメリカに尽くす。そう考えれば分かりやすい。思いやり予算もTTPも、アメリカの意向に沿ったもの。

◎その小沢一郎氏がついに強制起訴された。民主党は大揺れ。岡田幹事長や枝野官房長官は「何らかの処分」をちらつかせる。つまりは、離党勧告か党員資格停止などの処分ということだろう。他党と一緒になって自党の功労者を批判する。なんだかおかしな政党。

◎小沢氏を告訴した市民団体、そして、それを受けて強制起訴相当という判断を下した検察審査会とはどういう組織か、どういう人たちによる構成なのか。果たして彼らの正体は?

◎そして、小沢一郎氏の元秘書3人の裁判が始まった。3人とも、無罪を主張し徹底的に争う姿勢。特に石川知裕衆院議員の場合、石川氏が隠れて録音した取調べの模様が証拠採用され、例の「厚労省村木課長の冤罪」を作り出したとされる前田検事が作成した石川氏の調書が証拠から取り下げられるなど、そうとうに怪しい成り行き。小沢氏本人の裁判の行方にも大きな影響を与えそう。

◎あっと驚く元自民党財務大臣の与謝野馨氏の経済財政担当大臣としての菅政権入り。続いて柳沢伯夫元自民党厚労相が、税と社会保障の一体改革を審議する「集中検討会議」有識者メンバーとして、菅政権入り。なんだこりゃ? いつの間にか、実質的な民主自民の連立政権ができてしまったじゃないか。政権交代って何だった? それにしても、「女は産む機械」なる発言で大臣辞任に追い込まれた柳沢氏を抜擢するとは、菅首相、もはや破れかぶれか。

◎そしてついに、民主党菅政権は「消費税大増税路線」へ舵を切った。財界の要望にはきちんとお応えしての、法人税減税と引き換え。「消費税による社会保障、年金の充実」などというお題目が、実は弱者切り捨ての新自由主義的経済政策への回帰だということは、『消費税のカラクリ』(斎藤貴男、講談社現代新書)に詳しい。消費税を論じるときには、絶対に読んでおくべき本だ。

◎その『消費税のカラクリ』のカバー袖の文章を引用しておこう。

 消費税とは弱者のわずかな富をまとめて強者に移転する税制である。…大口の雇用主に非正規雇用を拡大するモチベーションを与えて、ワーキング・プアを積極的かつ確信犯的に増加させた。…これ以上の税率引き上げは自営業者の廃業や自殺を増加させ、失業者の倍増を招くことが必定だ。…消費税は最も社会保障の財源にふさわしくない税目なのである。――本文より

◎大騒ぎの政治状況の真っ只中、大相撲の八百長が発覚。これまで何度となく週刊誌に追及されてきたにもかかわらず「知らぬ存ぜぬ」の“突っ張り”の一手で逃れてきた相撲協会だが、今度はメールという証拠を突きつけられて“うっちゃり”もできず、ついに春場所開催を諦めた。それでも放駒理事長は「新たに起きた事態で、八百長はこれまでは一切なかった」と説明。そんなの、いったい誰が信じる?

◎笑えたのは、八百長事件を報じる「アエラ」の見出し。そこには〈本誌は報道前から知っていた〉とあった。なに? 知っていたならなぜ書かない、なぜ闘わない。あまりのバカバカしさに笑うしかない。かつて立花隆氏が「田中角栄の金脈」を「文藝春秋」で取り上げたとき、「そんなことは前から知っていたよ」と開き直り、「ならば、なぜこれまで書かなかったのか」と、立花氏から強烈なしっぺ返しを喰らった新聞記者たちを思い出す。取材対象にべったり癒着してしまう記者たちの体質は、40年前からまるで変わっていない。

◎「週刊現代」は、八百長追及記事を日本相撲協会から名誉毀損で告訴され、4千万円ほどの賠償金を相撲協会へ支払っている。版元の講談社は、逆に相撲協会を名誉毀損で訴えることも考慮中だとか。しかし、裁判所はこの“冤罪”には、何の責任もとらなくていいのか。

◎裁判所といえば、東京地裁は東京都国立市の関口博市長に対し「住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)に接続しないのは、住民サービスに欠ける」として40万円の賠償金を支払うよう命じた。「個人情報の漏洩などのおそれが払拭できない以上、接続しないことが市民の利益になる」との関口市長の主張を認めなかった。結局は、政府の言い分を追認するだけの司法、といういつもの構図。中学の社会科で習った「三権分立」というのは、やはり“絵に描いた餅”だったか。

◎それにしても、いろんな重大な政治的事象が起きているときに、突然の八百長報道。あまりにタイミングがよすぎないか。ツイッターなどでは、「警察は八百長メールの件を数カ月前から把握していた。それをこのタイミングでリークしたのは、明らかに政治的判断」との論評が飛び交っている。ありそうなこと。

◎名古屋市&愛知県では、河村たかし氏が市長選で、大村秀章氏が知事選でそれぞれ記録的な圧勝。さらには名古屋市議会の解散まで決まった。民主王国と言われていた愛知県での、民主党候補の無惨なまでの敗北。そして、下がり続ける菅政権の支持率。ほんとうに、党内抗争なんかしている場合じゃなかろうに。

◎知事選といえば、この4月に行われる統一地方選挙の最も大きな焦点になるのは、当然のことながら東京都知事選だ。自民党は、ほぼ確実に石原慎太郎現都知事を担ぎ出す方向。なにしろ、ほかに勝てそうな候補が見当たらない。78歳という高齢だが、拝み倒してでも石原再出馬を願うしか手がない。だが、当の石原氏、いまだに去就を明らかにしていない。熟柿が落ちるのを、じっと待っている。前回、後出しジャンケンで圧勝したことを忘れていない。したたかなご老人だ。

◎都知事選候補としては、さまざまな人の名前が挙がっている。まず、宮崎県知事を1期だけで辞めてしまった東国原英夫氏、色気満々。河村たかし氏圧勝の流れに乗って、大阪の橋下徹知事や河村名古屋市長らと連携して東京都へ乗り込む考えらしい。しかし、機を見るに敏な橋下氏や河村氏がそれに乗るかどうか、微妙だ。むしろ、石原都知事に接近中との観測もある。石原都知事も「大阪都、中京都構想」などを言い出した橋下氏や河村氏を、最初はボロクソにけなしていたのに、最近は理解を示すような口ぶりに変わった。人気者の力を借りてでも知事の座を守りたい、ということか…。

◎それに対抗して、小池晃共産党前参院議員を早々と都知事候補に推す動きが表面化。小池氏はテレビ討論などにもよく出演し知名度もある。本人も立候補受諾の方向だという。有力候補のひとりにはなるだろう。

◎その動きとは別に、共産党色の強くない人を、いわゆる革新系統一候補に擁立しようという動きもある。私が得た情報だけでも、すでに4人の名前が挙がっている。実名を出すと、まだ差し障りがある段階なので、イニシャルだけにしよう。Y氏、H氏、U氏、そして本命と噂されているのがジャーナリストのT氏。特にT氏は、本人もかなり乗り気だとも。ともあれ、情勢は混沌…。

◎嬉しい情報よりも、厳しいニュースのほうが多い。その切ない例が沖縄だ。沖縄防衛局は、どうあっても沖縄県東村の高江にヘリパッドを建設するつもりだ。そして、名護市辺野古の浜辺には、まるで「ベルリンの壁」のような建造物を準備中だという。住民の長くて根強い反対運動を、力でねじ伏せて強行する。その一方で、懸命にその事態を本土へ伝えようとするジャーナリストたちもいる。その叫びを…。

◎琉球朝日放送(QAB)の三上智恵キャスター(@chiemikami)の悲痛ともいえるツイッターを紹介する。

 速報 辺野古の浜にある分断の象徴ともなっている鉄条網が壁に変わろうとしている。今、民間地側にブロックを設置し始めた。1.8メートルの遮蔽物になるらしい。 (1月28日)
 毎年毎年、二月一日は沖縄のTV局はプロ野球キャンプインで本土からカメラを借りる忙しさ。それを知って今日も高江に50人の作業員とダンプカーがきた。那覇から出すカメラはない。佑ちゃん騒ぎで全国から54社も名護市に入った。一社でも一時間北上して高江の現状を伝えてくれまいかと思う。(2月1日)
 辺野古と高江は一体です! 辺野古を思う皆さん、今こそ高江に注目して下さい! 国が沖縄の小さな村に何をしようとしているのか確かめて下さい。このニュースは全国ネットにはなりにくい。それは私たちの力不足です。でも連日追い込まれています! (2月4日)

 私には、付け加える言葉はない。
 プロ野球キャンプ取材で地元テレビ局が手薄になったときを狙って、沖縄防衛局は高江の工事を強行しつつある。歯噛みしながら、少ない人員を必死に高江や辺野古取材に振り分けているQABの報道部に、せめてものエールを送る。

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鈴木耕さんプロフィール

すずき こう1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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