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2011-1-12up

時々お散歩日記(鈴木耕)

30

「今年こそ」いい年にしたいけれど…

ほころび始めたウメの蕾

 年が改まった。2011年、今年はどんな年になるのだろうか。何はともあれ、謹賀新年。
 このコラムは、ずっと「ですます文体」で書いてきた。でも、今年は「だ、である調」でいくことにした。ややきつい調子になってしまうかもしれないけれど、そこんところ、どうかよろしく。

 たくさん年賀状をいただいた。私も書いた。「本年もいい年でありますように」と、決まり文句。しかし、「本年も」と書いて投函した後で考えた。「本年も」ではなく、「本年は」とか「本年こそは」と書かなければならなかったのではないか。なぜなら、2010年は、あまりいい年だったとはいえないような気がしているからだ。
 特に沖縄についていえば、むしろひどい年だったのではないか。それは、鳩山由紀夫首相から菅直人首相に引き継がれた民主党政権の、あまりに不様な変節のせいだ。
 いや、沖縄だけではない。この国全体に漂う閉塞感、たった1年半前のあの政権交代の熱気、それとともに感じた「ワクワク感」は、どこへ消し飛んでしまったのか。

優しい香りを漂わせるロウバイ

 民主党政府は、アメリカとのMD(ミサイル防衛)共同開発を推し進め、それを他国へ売却できる道を開こうとしている。私たちの国の国是でもあったはずの「武器輸出3原則」を骨抜きにしようとしているのだ。むろん、財界からの強い要請に乗ったものだ。その見返りか、民主党は財界からの政治献金再開をあっさりと決めてしまった。
 さらに、北沢俊美防衛相は韓国との防衛協力(つまり軍事協力、もっと端的に言えば軍事同盟化)に向けて動き出した。これによって、アメリカとともにいわば3国同盟のような形を作り出そうとしているわけだ。中国の軍拡に対応すべきだ、という理由づけだ。
 しかしアメリカはどうか。中国を訪問していた米ゲーツ国防長官は1月10日、中国の梁光烈国防相と会談、「米中軍事交流再開」で合意した。米中共同訓練も行なうという。アメリカは「同盟国」である日本には対中国強硬策を採らせながら、一方で中国とは軍事協力をする。明らかな二枚舌外交だ。狡猾である。
 尖閣問題などでのナショナリズムの昂揚を受けて、日本国民の対中国観が最悪になっている。それを利用して、アメリカは日本と中国の分断を図っている。それがアメリカの外交政策や貿易関係にとって得策なのだ。日本と中国が緊張関係にあれば、沖縄の米軍基地の撤退などは、日本国民も言い出しにくくなると踏んでいるからだ。日本国内で中国脅威論が高まれば高まるほど、アメリカには都合がいい。武器共同開発だって、容易にできるようになる。

気の早いスイセンが咲き始めた

 民主党菅政権は、なぜかかつての自民党政権よりも前のめりにアメリカのお気に入りになりたがっているようだ。外交的に「毅然とする」ことが、支持率回復につながると思い込んでいるからか。そのために、自民党政権時代以上の「右旋回」をし始めた。
 「専守防衛」から「動的防衛力」という敵基地攻撃論への危険な道を開く、戦後日本の基盤的防衛力路線を否定するような、憲法9条の否定につながるような「急旋回」である。その路線に沿って、対中国を念頭に、沖縄の南西諸島などに自衛隊を配備しようとしている。
 冷戦構造下での「仮想敵国」ロシアを、今度は中国に変えたのだ。とにかく、身近に仮想敵を想定しなければ気がすまない冷戦思考へ逆戻り。安倍晋三氏や麻生太郎氏なみの、古びた外交・防衛政策のゾンビ復活。政権交代とはいったい何だったのか。
 中国にケンカを売って支持率上昇につなげた、あの小泉劇場を真似しようとしている。
 さらに、菅首相の小泉劇場模倣の最大の仕掛けが「小沢切り」だろう。小沢氏を「抵抗勢力」に見立てて、「私に反対する者は抵抗勢力だ!!」と吠え立てて圧倒的な支持を得た小泉純一郎首相の影を追う。みっともない。そんなことで支持率回復などできっこない。党内抗争をやればやるほど支持率は低下していくということが、なぜ分からないのか。
 「民主党マニフェスト」を誠実に希求することだけが、いまや残された唯一の支持率回復手段なのに。

トチノキの芽は濡れて日に光っている

 東京新聞が、1月6日付の「こちら特報部」で、菅政権の変節ぶりを的確に批判している。リードはこうだ。

政界は今年も「小沢」の2字で幕を開けた。正直、うんざり感はぬぐえない。政権交代から約1年半。気がつけば、現在の菅政権は外交・安全保障から経済まで、かつての小泉(純一郎元首相)路線と大差ない。そこからの脱却が託された政権交代ではなかったのか。先祖返りをすれば、支持率の低下は至極当然。身内の「敵」をたたいて、求心力を高めようとする政治手法までそっくりだ。

 そして、この記事の見出しだけを取り上げてみても、その言わんとするところがよく分かる。列挙しよう。

「小泉化」する菅政権
米に追随外交
専守防衛方針を転換
沖縄に再び「アメとムチ」
構造改革回帰
TPP、法人税減税…財界べったり
抵抗勢力たたき求心力/劇場型政治

 まさにここで指摘されているような民主党政権の進み具合だ。これでは何のための政権交代だったのか、わけが分からない。それが2010年という年だった。
 だから年賀状には「本年こそは」と、書かなければならなかったのだ。

 『ホームレス川柳 路上のうた』を買った。

 寒い冬。年が明けてから、ことに寒さが身に沁みる。
 「マガジン9」は、ある会社の片隅を間借りして事務所にしている。それは新宿にある。新宿御苑が近い。だから私は、時々御苑の側道を散歩する。
 そこで妙なベンチを見かけた。ベンチに仕切りの肘掛が付いている。つまり、このベンチで横になれないようにしてあるのだ。
 ホームレス対策、彼らがここに居座ることを防ごうという仕掛けなのだという。どんなヤツ(行政)が、そういう姑息なことを考え付くのだろう。まさに、そんなヤツこそ「小役人」だと思う。差別主義者の都知事が考えそうなことだ。

不愉快なベンチ

 事務所へ行く途中に「ビッグイシュー」の販売人がいつも立っている場所がある。先日、その販売員が面白い文庫本を売っていた。買った。『ホームレス川柳 路上のうた』(ビッグイシュー日本編集部・編、定価・本体667円+税)だ。
 路上暮らしの切なさが、それでもそこはかとないユーモアにくるまれて歌われている。だが、凍てつく冬の句は辛い。

寒いけど 大地に抱かれ 眠りつく
ダンボール 冬を生き抜く 命綱
朝方の 寒さが自然の アラームさ
軒下で 寝てる自分も 雪化粧
あたたかい 陽射しに合わせ 場所移動
野良猫と 同じ寝床で 暖をとる
鍋料理 食べてた日々は 走馬灯
雪が舞う 炊き出し待つ身も 雪化粧
人生の 末期の鐘か 除夜の鐘
元旦に 鳩と眺める 初日の出
初夢は ベッドで初夢 見てる夢
年賀状 住所なき身に 届かない ……

 これらは本の中の「第一部 ホームレスの四季」から抜粋したものだが、「四季の句」の中では「冬の句」が圧倒的に多い。それだけ、冬が辛いということなのだろう。
 私にできることは、とにかく販売員を見かけたら、必ず「ビッグイシュー」を買うこと、たまに懐に余裕があれば、5冊ほどまとめ買いして知り合いに配る、そんなことぐらいだ。あなたも、もし見かけたら、「ビッグイシュー」を買ってください。そして、「元気でね」と一言…。

 今年の冬はことに寒い。でも、春は来る。新宿御苑の梅も、うっすらと蕾をふくらましていた。
 私の家の近所の公園では、ロウバイの黄色い花が咲き始めた。素敵な香りをあたりに漂わす「春告げ花」だ。トチノキの蕾の先端はヌラリと濡れて光っているし、気の早いスイセンはもう白い花を開いた。我が家の庭のスノードロップだって、ほら、咲き始めたよ。

庭の可憐なスノードロップの花

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鈴木耕さんプロフィール

すずき こう1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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