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2010-12-15up

時々お散歩日記(鈴木耕)

28

支持率回復なんて、簡単?

 気づいたら、もう師走も半ば。別に大した用事もないけれど、なんだか気分が落ち着かない。世の中の流れの速さに惑わされているだけかもしれませんが。
 それにしても、今年はどうにも重苦しい年でした。世の中も、私個人の周りも…。

 私の散歩道はすっかり晩秋。いや、もう初冬でしょうか。散歩途中で拾ったいろんな木の実を集めてみたら、なんだかきれいな飾り物みたいになりました。
 今年は、とても木々の葉が散るのが早い気がします。隣家の大きな欅も、きれいさっぱりと葉を落としました。我が家の前の路地と駐車場が落ち葉で埋もれました。日曜日、いい天気だったので枯葉掃除です。

 木々の葉は落ちても、また春が来れば新芽を吹きます。でも、どうも日本の政治は“新芽”を出せそうもありません。
 テレビや新聞は、お得意の世論調査で「またも菅内閣の支持率急落」と報じています。正直、もうウンザリです。
 12月12日に行われた茨城県議選でも、民主党は惨敗しました。このところ、いろいろな選挙で民主党は連戦連敗。ほとんど、崖っぷちの様相です。それでも菅首相、「たとえ支持率が1%になっても頑張る」と言ったとか言わなかったとか…。
 でもねえ、このままだったら“1%”もありえない話じゃありませんよ。だって、「歴史的な政権交代」にけっこう興奮してワクワクしていた私の周辺の人たちだって、それこそ「もうウンザリだ」と嘆き始めているのですから。

 余計なお世話でしょうが、この低支持率を劇的に上昇させる(つまり、国民の期待を取り戻すことのできる)簡単な方法を、私は知っています。お教えしましょう。
 民主党のみなさん、よぉーくお読み下さい!

  1. 「日米合意」を見直し、少なくとも「世界一危険な基地・普天間」を、海外に移転させること。アメリカも、普天間の危険性は十分に承知しています。沖縄県民の悲願であること、これ以上の基地押しつけは沖縄県民の反政府、反米感情に火をつけかねないことを、きちんと説明して交渉すれば、アメリカも無視はできない。そういう意見が米政府部内でもかなり大きくなりつつあることは、さまざまな(なぜか日本のマスコミはあまり取り上げませんが)報道で明らかです。現地の人々が望まないなら、基地は撤退すべき、と米政府高官は何度も述べています。
  2. アメリカとの付き合い方の再検討をします。やはりどうみても、日本はアメリカの言いなりです。せめて「思いやり予算」くらいは縮小へ持っていくべきです。日本にいるから安上がりだ、ということで日本駐留を継続したいのは、イラクやアフガンでの軍事費増大と不況に苦しむアメリカの本音なのです。
  3. 官僚支配からの脱却と天下り人事の即時凍結。かつて民主党は、「政権交代の暁には、高級官僚すべてから辞表をあずかり、政権の意志に反する官僚には辞めてもらう」とまで述べていました。人事権を行使して、政権の意志を行政に徹底させる、ということだったのでしょう。それを思い出せばいい。官僚は、政治家が方向性を出せば、否応なくそれに従わざるを得ないのです。
  4. 思いやり予算もそうですが、徹底した無駄遣いの洗い出しが必要です。いい例が「スーパー堤防」という代物です。数百年に1度の大洪水に備える、という触れ込みで河川堤防の幅を数十倍に拡げるという事業ですが、その完成はこの先何百年後になるか分からない、と当の担当官僚さえ首をひねるのです。そして、まだ5%もできていない。繋がっていない堤防は役立たないし、それがいつ繋がるのかも分からない。さらに、基礎になったデータがずさんで、高水(洪水時の水量)の予測計算に疑いさえ出てきました。かかる費用が(途中までで)数千億円、最終的にはいくらかかるか、誰にも分からない。デタラメの極致です。こういう無駄をまず徹底的に排除すべきでしょう。これをやらずして、何が「事業仕分け」ですか。こんな例はたくさんあるのです。
  5. 農業政策の早急な立て直しです。いまのままに推移すれば、日本の農業は壊滅するでしょう。農家補償やTPP(環太平洋パートナーシップ)による日本農業への打撃を、もっと精密な議論の上で検討しなければなりません。TPPは財界の強い要望によるもの。それに、法人税の5%減税も財界の主張です。法人税を引き下げなければ企業は海外へ逃げていき、日本経済はさらに不況に陥る、というのがその理屈です。しかし、いままでにどのくらいの企業が「海外へ逃げた」のか、データを財界も政府も出したことはありません。その減税分は、庶民への増税で賄うといいます。どうも、菅首相は財界の要請に弱すぎます。
  6. 財界に弱いのは、やはり“献金”のせいでしょう。財界からの政治献金は禁止するべきです。ところがその民主党の方針を、岡田克也民主党幹事長はあっさりと覆し、政治献金を受け入れる方針を示しました。小沢一郎氏の政治資金疑惑が問題になっていますが、その根本原因は「大企業による政治献金」にあることは間違いない。現象だけを指弾しても、根本原因を野放しにしたままでは何も変わらない。裏金横行の、どす黒い政治が続くだけ。個人献金やネット献金、カード献金などの解禁を考えることによって、財界との癒着を払拭することができるのですが。
  7. 原子力発電所の途上国への、政府財界を挙げての売り込みは危険すぎます。百歩譲って、どうしても売り込みたいというのなら、まず「高濃度放射性廃棄物の処理法」が確立されてからにすべきでしょう。半減期(放射能の濃度が半分に減るまでの期間)が数万年ともいわれる廃棄物を、ガラスの中に固定化して地層深くに埋める、などという案が出されていますが、まだその技術は確立されていません。原発稼動で否応なく生まれるプルトニウム(核爆弾の材料)を処理するはずの青森県六ヶ所村の再処理工場は、数兆円をかけてもまだ技術的不備のため稼動できないまま。そんな“原発先進国”の日本でさえ処理できないものを、技術の定かでない途上国へ売りつける。世界中に、それこそ「核の危険」を輸出するようなものではありませんか。すくなくとも、処理技術が完成しない限り輸出は控える、という方針を貫くべきです。
  8. 年金制度の確立を急がなければなりません。国民年金は、もはや破綻寸前。国民年金保険料を納めていない人が、すでに40%弱に達しています。しかも、少子高齢化による若年層の減少で、年金保険料収入は年々減少していきます。現在の若者が年金受給年齢に達したとき、予定された年金を受け取ることはほとんど不可能だと指摘する研究者も多いのです。これを立て直すには、高額所得者への年金目的の累進課税や、年金に特化した消費税、ひも付きではない地方交付金、企業減税との引き換えによる企業負担、などが考えられますが、そんな議論が民主党内からは聞こえてきません。まずは、国民の「安心感」をどう再生させるかが問われているのですが。
  9. アジア諸国との友好関係の構築こそ、本来の安全保障でしょう。アメリカだけが安保の相手国ではありません。それと同等か、もしくはそれ以上に大切なのがアジアの近隣諸国との平和条約の締結と発展です。鳩山由紀夫前首相が就任時に語った「東アジア共同体構想」は、結局、言葉だけで終わってしまいましたが、これを肉付けして政治的安定をもたらし、経済的共同体へまで進むことができれば、それが最も望むべき方向でしょう。事実、中国と台湾の間は、週に数百便の飛行機が飛び交い、経済的結びつきは強固となって、もはや紛争などは考えられない状態になっています。
  10. 「非核3原則」及び「武器輸出3原則」の徹底的厳守です。さまざまな国際会議や外交駆け引きの場面で、残念ながら日本は「対米従属国」のイメージを撒き散らしてきました。そんな日本が世界に誇れる数少ない政策が、前記のふたつです。これを絶対に死守すること。どのような場であっても、愚直にこの政策を主張し続けること。外交が、いかに相手国の尊敬を得られるかによってある程度、決まるのであれば、このふたつは日本の大きな外交上の武器なのです。それを、財界の防衛産業振興なる名目のもとにかなぐり捨てるようなことがあっては、それこそ、金のために理想を捨てた国、と受け取られるでしょう。
  11. 冤罪事件を防ぐための「警察検察の被疑者取調べの全面可視化」なども、政府が決定さえすればすぐにでも実現可能でしょう。あの足利事件の菅谷さんや、“踏み字”で有名になった志布志事件、さらに現在でも争われている布川事件など、冤罪事件は数え切れないほどあります。その温床になっているのが「密室での取調べ」です。これをすべてビデオに撮ることによって、冤罪の多くは防げるでしょう。

 もちろん、この11項目以外にもたくさんの処方箋はあります。また、この11項目すべてには賛成はしかねる、という方もおいででしょう。たとえば日米安保についての考え方、アジア諸国との付き合い方などには、異なる意見の方も多いでしょう。
 しかし、ここに書いたうち、原発輸出以外の項目はすべて、かつて民主党が主張してきたことばかりなのです。ところが…。
 昨年9月の総選挙で民主党が歴史的大勝利をし、画期的な政権交代を実現できたのは、国民が自民党政治を見放したのも大きな要因ですが、民主党の主張に共感したからだったはずです。
 ところが、民主党は、徹底的にこれらの自らの主張を裏切った。全部といっていいほど、マニフェストに書かれたことを引っくり返してしまった。星一徹の“ちゃぶ台返し”よりもっとひどい。

  • 対等な日米関係→日米同盟の深化
  • 東アジア共同体の構築→対米べったりの軍事同盟へ
  • 最低でも県外→「沖縄には基地を甘受してもらいたい」(仙谷官房長官の記者会見での発言)
  • 米軍への思いやり予算の削減→今後5年間は現状に手を付けず
  • 高級官僚の天下り禁止→有名無実へ
  • 八ツ場ダム工事の停止→停止の見直し
  • 企業献金の禁止→再開
  • 死刑廃止論者の法相→死刑執行
  • 障害者自立支援法(という名の悪法)の見直し→せず
  • 東京都青少年健全育成条例(という名の表現規制)→都民主党が賛成へ

 ざっと見ても、こんなものです。
 支持率低下は、国民との約束を破ったからです。約束を守れば、支持率なんか簡単に回復するでしょう。かつて支持された政策を実現すればいいだけです。全部とは言わない。少なくとも、ここに挙げたうちの半分くらいでも実現できれば、支持率なんて劇的に回復しますよ。
 ましてや、お金が必要な事項なんて、そう多くはありません。上に挙げた11項目の中でも、年金以外はほとんど政策理念の問題です。むしろ、思いやり予算もスーパー堤防も天下り禁止も、無駄を省いてお金を生み出す方向でしょう。
 やってやれないことはない。すべては、理念をどこまで政策に反映させていくかという、本来の政治家の資質が問われる課題なのです。

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鈴木耕さんプロフィール

すずき こう1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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