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2010-11-17up

時々お散歩日記(鈴木耕)

25

「多文化共生」という祭り

 酷暑の夏の年は、冬も厳しいらしい。急に寒くなりました。でもそのせいか、紅葉がとてもきれいです。散歩も、赤や黄色の木の葉が舞い散る中をゆったりと。
 公園の桜の老木の下は、美しく彩られた桜の葉々で飾られていました。つい、携帯でカシャッ。

きれいに色づいた桜の葉

 埼玉県の朝霞市に、家族の用事があって出かけました。
 用事を済ませて地図を広げたら、川越市がわりと近い。江戸期の街並みが残っている、いわゆる「小江戸」というところ。一度行ってみたいと思っていたところでした。というわけで、ドライブついでに「小江戸散策」へGo!
 日曜日(14日)ということもあってか、凄い人出でした。電柱がなくてすっきりと空が高い江戸情緒の街並みをブラブラしていると、ときならぬ笛や太鼓の音色が聞こえてきました。お祭りらしい。
 店先に貼られていたポスターで、「川越唐人揃い 多文化共生・国際交流パレード」というものだと知りました。

ポスター

 やがて、音曲とともにパレードがやって来ました。うはっ、これは楽しい! 次から次へと、さまざまな民族衣装を身に纏った人たちが、各民族固有の楽器をかき鳴らしながら通っていきます。日本史で有名な「朝鮮通信使」が、日本の侍たちと一緒に歩きます。
 見とれていました。いいなあ、こういうの…。

 多文化共生。言うのは簡単ですが、なかなかうまくは「共生」できていないのが現状でしょう。それを、お祭りという形で表現している。私は、この川越の「多文化共生・国際交流パレード」に、いたく感心させられました。こんな祭りから、みんなが同じ地域に一緒に生きることを当たり前のことと感じていく。とても素敵じゃないですか。
 単なる「町おこし」以上の意義があります。各民族の人たちが、実に楽しそうに歌い舞い、通り過ぎていきます。

 アイヌの人たちの一団、その後ろには沖縄のエイサー隊が続きます。そうです、同じ日本の中にだって、いろいろな文化が根づいているのです。エイサーの踊りに合わせて、私もいつの間にかリズムをとっていました。写真がややボケ気味なのはそのせいです(と、言い訳)。
 とにかくさまざまな衣装の隊列が通り過ぎたので、どこの人たちなのか判然としませんが、撮れただけの携帯写真を掲載します。どの衣装がどの民族なのか、民族学に詳しい方のご教示をお願いします(ペコリッ)。

 川越は「芋の町」です。名産品がサツマイモなのだそうです。だから、芋を使ったさまざまなお菓子が有名です。特に「菓子屋横丁」という一角には、美味しそうなお菓子が勢揃い。ちょっと試食をさせてもらいながら、気に入ったお菓子を買う人たちで溢れていました。
 私は甘いものよりお酒のほうがいい口なので、普段はあまりお菓子は食べないのですが、子どものころの郷愁でしょうか、「大学いも」を買ってしまいました。うーん、旨い。
 とてもいい気分で、帰りの車に揺られました。

沖縄知事選、武器輸出3原則の見直し、
どこまで堕ちる? 民主党

 さっきのエイサー・リズムが体に残っていたので、車中では沖縄の大工哲弘のCDをかけました。沖縄が、体の中で揺れました。
 その前日(13日)に開かれた琉球朝日放送(QAB)の三上智恵キャスター&ディレクターの講演(カタログハウスの学校)を聞いていたことも、私の中に沖縄が浮かんできた理由かもしれません。
 三上さんのお話は、そうとうにシビアなものでした。沖縄のおかれている現状。基地建設をめぐる「賛成派と反対派の対立」という、中央マスコミが描き出す構図への根源的な疑問。賛成派と呼ばれる人たちを、ほんとうに「賛成派」としてひと括りにしていいのか、と問いかける三上さんたちQABの姿勢に、私は深く共感しました。
 そして、沖縄をいまのような基地の島として放置してきたのは、単に自民党から民主党へと続いた政権だけの問題ではない。沖縄だけの地域問題として自分たちには関係ないと目をつぶり、そんな政権を誕生させてきた日本国民の責任はどうなるのか…。
 ときには笑いも誘いながらの三上さんのお話でしたが、根底には「沖縄差別」への強い怒りが横たわっているようでした。
 講演後の懇親会で、ふと漏らした三上さんの言葉が気になりました。
 知事選は接戦でしょう。でも、あと2週間、何が起こるかわかりません。いやな事態にならなければいいのですが…。
 それは、どういう状況を指すのか?
 どうであれ、きちんとした公正な選挙が行われ、その結果としての基地問題解決への道筋が作られることを、心から願っています。

講演中の三上智恵キャスター

 かつて1998年、大田昌秀知事(当時)と稲嶺恵一氏が戦った沖縄知事選では、辺野古移設絶対反対を唱える大田氏を落選させ、稲嶺氏当選で辺野古案を強行しようとする自民公明政権が、凄まじい「カネの爆弾」を投下し、「電通選挙」とも呼ばれる選挙戦を展開したといわれています。
 その資金として、いわゆる「官房機密費」から3億円が流用されたと、最近になって、当時の官房副長官だった鈴木宗男氏が暴露しました。鈴木氏の証言の真偽のほどは私には分かりませんが、あの組織だった広告戦略に基いた選挙戦を考えれば、かなりの信憑性があるでしょう。
 沖縄県という規模からいえば、3億円という額は“膨大”といっていい。革新候補で資金不足に悩んでいた大田氏側を一蹴するには十分な額だったわけです。結果、基地容認派の稲嶺氏が知事に当選しました。
 同じようなことが、今回の沖縄知事選で起きないとは断言できません。民主党は今回、独自候補の擁立ができませんでした。自主投票という形をとります。これまで沖縄においては、社民党や地域政党の沖縄社大党と(ときには共産党とも)手を組み革新側に立ってきた民主党ですが、はっきりとここで「革新であることをやめた」わけです。
 とはいえ、これまでのいきさつから、ずっと自民公明推薦だった仲井真現知事を推すわけにもいきません。
 けれど、普天間飛行場の海外移転を、米国公式文書に基づいて主張する伊波洋一氏が勝てば、辺野古移設は完全に息の根を止められます。対する仲井真氏は、今に至っても「県内移設は困難」と言うばかりで「県内移設絶対反対」とは口が裂けても言いません。
 つまり仲井真氏が勝てば、まだ辺野古移設を譲らない民主党政権にとってはかすかな望みがある。菅政権がどちら側に傾いているかは、これでお分かりでしょう。とすれば、カネの流れだって…。
 裏で何が起こるか分からない、というのはそういうことなのです。裏の動きなど、絶対に許してはならないのです。

 民主党はどこまで堕ちるのでしょうか。朝日新聞(11月16日夕刊)に、ほんとうにイヤになるような記事が載っていました。

〈見出し〉
武器禁輸を見直し
民主案、共同開発に道

〈記事〉
 民主党は武器輸出三原則で、すべての国への武器輸出を「原則禁止」していた1976年の三木内閣の見解を見直し、輸出禁止対象国を限定する案をまとめた。67年の佐藤内閣当時の武器輸出三原則に戻し、戦闘機などの他国との共同開発・生産を可能にするのが最大の狙いだ。(中略)

 ただ、基準を設け、

 (1)完成品の海外移転は平和構築や人道目的に限定。
 (2)その場合は、人を直接殺傷する能力の低いものに限定。
 (3)共同開発・生産の対象国は平和国家の理念にのっとる。

 などとしている。

 共同開発・生産の対象国は「大量破壊兵器の不拡散の条約に加盟するなど厳格な(武器の)輸出管理規制をしている国」とする案が有力で、欧米や韓国、豪州などが含まれる見通しだ。

 吐き気がする。
 見直し基準(2)を読んで下さい。「人を直接殺傷する能力の低いもの」だそうです。人を殺すのに、能力の高い低いがあるのでしょうか。静かにきれいに殺すのはよくて、一挙にメチャクチャに殺すのはいけない? 人を殺すそんな区別に、何の意味がありますか!
 そして(3)、「対象国は平和国家の理念にのっとる」。それが欧米だそうです。欧米の「米」ってアメリカですよ!
 アメリカが、平和国家の理念にのっとってベトナム戦争を戦い、イラクに攻め込み、アフガンで泥沼に陥っている、とでも言うのでしょうか。絶え間なく戦争をし続けているアメリカに、日本製の「殺傷能力の低い武器」が輸出される。米兵が、その日本製武器で“平和的に”人を殺す。バッド・ジョークでしょう。
 自民党でさえ長い間封印してきた「武器輸出」に、国民の期待を背負って政権交代を果たしたはずの民主党が踏み込む。かすかな期待が、これで一気に吹っ飛びました。なんだか、悪夢を見ているようで…。
 それにしても、民主党内の「リベラル派」は何をしているのでしょう。

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鈴木耕さんプロフィール

すずき こう1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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