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2010-09-08up

時々お散歩日記(鈴木耕)

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米海兵隊の人数? 誰も知らない…

 我が家の“猫の額”の庭に、最近、ノラ仔猫が出現しました。もちろん「名前はまだない」のですが、茶色と黒と白のブチです。生まれてから、まだ2、3ヵ月といったところの、ほんの小さなヤツです。

 我が家の庭には、もう5年近く、半ノラ猫(こちらは「ドット」というれっきとした名前を持っています)が住み着いています。
 このドット、なぜか家の中に入るのは頑なに拒否します。捕まえて家に入れると、ぎゃあぎゃあ、外へ出すまで泣き喚いています。まるで私が猫の虐待をしているようで、ご近所様にみっともない。だから、すぐに外へ出さざるを得ません。猛暑の今年、少しでも涼しいクーラーの効いた部屋の中へ、と思って捕まえても、私の手を引っ掻きかねないほどの暴れようなのです。ま、餌は貰っても、ノラ猫の矜持を持ち続けている偉いヤツなのかもしれません。
 そのくせ、朝晩はきちんと現れ、餌をしっかり食べます。夕方には、「餌はまだかニャア?」などと、窓際で催促します。しっかりしたものです。生きる知恵ですかね。
 雨の日などは可哀想だし、寒い冬も気の毒なので、小さな犬小屋を買ってきて古毛布を敷いて、家を作ってあげました。時折、ここで寝ているようですが、それも気の向いたときだけ。
 オスですが、去勢手術もしました。これ以上、ノラの子孫を増やしてもいけませんからね。

 去勢されたので弱っちくなっちゃったのでしょうか、このドット、ノラ仔猫に餌をすっかり横取りされてしまうのです。
 いつもの餌茶碗に餌を入れてあげると、ノラ仔猫、ドットに対してフーッと威嚇。なぜか大人のドット、尻込みしてそれを見ています。茶碗をふたつにして分けてあげたのですが、なんとノラ仔猫、ふたつとも占領してしまうのです。うーむ、困った…。
 なんとか仲良くできないものか。餌茶碗を離して置いたり、いろいろと工夫をしている最中です。
 ノラ仔猫、私たちが手を出してもフーッと牙を剥いて威嚇、近づくとサッと逃亡してしまいます。やっぱりノラなのですねえ。
 それにしてもこの仔猫、どこから現れたのでしょうか。それも、たった1匹で。近所の猫好きおじさんが、カミさんに言うには、
 「鈴木さんちに捨てていけば、なんとかなると思って、誰かが捨てていったんだよ、きっと。ドットくんの例もあるしね」
 なるほど、なんとなく納得できる意見ではありました。
 しかしこの酷暑、猫たちには熱中症なんかないのかなァ、と親馬鹿ならぬ猫馬鹿の心配をしています。

 猫も暑いでしょうが、人間も暑い。そんな熱い中でも、やっぱり頑張っている人たちはいます。
 9月4日(土)に、府中市の中央文化センターで林博史・関東学院大教授の「沖縄問題講演会」がありました。正式には、「世界的な米軍基地ネットワークの展開と今後」についてですが、沖縄米軍基地を理解する上では、とても参考になる講演でした。
 普通なら、こういう堅い講演会には30人も聴衆が集まれば上々なのですが、この日はなんと100人近い人が集まり、立ち見まで出る盛況。主催者は大慌てで、他の部屋から椅子をかき集めるために駆け回っておりました。それだけ、沖縄問題を自分のこととして考えている人が、こんな東京の郊外にもたくさんいるということでしょう。
 頼もしい限りです。
 私はこの講演会に、自分の本『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)を10冊ほど持って行商に出かけました。もちろん、主催者の許可を得た上です。林教授の名著『沖縄戦が問うもの』(大月書店)の隣に置かせてもらうには面映い程度の本ですが、それでも8冊売れました。ま、拙著には、府中にある旧米軍基地「関東村」についての記述もかなりあったので、地元の方たちの興味を引いたのかもしれません。
 でも、とても嬉しいことでした。

 それにしても、沖縄の米軍基地については、政府自体がまったく理解していないと言わざるを得ません。なんとも腹立たしい新聞記事を見つけてしまいました。9月4日の朝日新聞の小さな記事です。引用します。

見出し
〈在沖海兵隊って何人? 小沢氏「現実2千人」 外相反論「1万人」 2月に防衛相「4,5千人」〉

記事
〈民主党の小沢一郎前幹事長は3日のテレビ朝日の番組で在沖縄の米海兵隊について「もう海兵隊の実戦部隊はいらない。アメリカもいらないと思うから引き揚げている。今、現実には2千人しかいない」との認識を示した。さらに「同盟関係は対等だ。外務省主導の外交ではダメだ」と不信感をあらわにした。
 これに対し、岡田克也外相は同日の記者会見で「事実と違う」と反論。「今でも約1万人の海兵隊が沖縄にいる。事実をきちんとおさえて発言された方が誤解がないのではないか」と批判した。
 一方、北沢俊美防衛相は同日の会見で「(日米協議では)有事の時にどのぐらいのキャパシティー(受け入れ能力)が必要かの議論をしている」と指摘。ただ、2月の講演では「沖縄の米海兵隊は1万人もいない。今の時点で正確には分からないが、4、5千人だ」と話していた。〉

 どうです? 呆れるでしょう?
 政府と政権党の要職にある(あった)人たちの現状認識が、まったく違うのです。特に防衛大臣が「今の時点では正確には分からないが…」とは、いったいどういうことか。沖縄基地問題の根幹に関わるこんな大切な事実を“正確には分からない”人間にでも防衛大臣が務まるのなら、多分、私にだって務まってしまう。
 何人いるのかも分からない米海兵隊のために、新たな基地を辺野古に造ろうとしている。こんな馬鹿なことがありますか。 政府は、沖縄県民のことなど考えてはいない。アメリカの言いなりに、とにかく新基地を造ろうとしている。そう考えるしかありません。

 拙著『沖縄へ』にも書きましたが、普天間基地を抱える宜野湾市の伊波洋一市長は、私たちのインタビューに応えて次のように語っています。

〈グァムのアンダーセン基地はかつては空軍基地だったけれど、現在は海軍の管理下に置かれて、海軍、空軍、海兵隊の合同基地になっています。それがいまや米軍にとっては当たり前の話です。だから、海兵隊独自の基地が必要かどうか、アメリカ自体がすでに答えを出しているわけです〉(118ページ)
〈今、普天間には2千名弱の海兵隊員と36機のヘリがいますが、ロードマップ合意でグァムに行くとされている海兵隊の航空部隊は約2千名、それとヘリ37機です。つまり、計画では今の普天間にいる人員やヘリよりも多くがグァムに移ることになっているわけです。
先ほどの繰り返しになりますが、沖縄の基地問題を語るとき、「沖縄にいる海兵隊が日本を守ってくれる」と思っている方が多い。岡田克也外相も「海兵隊がいないと日本は守れない」という固定観念をお持ちのようですが。それは違います〉(120ページ)

 外務大臣や防衛大臣と、現地の宜野湾市長とでは、このように認識がまるで違います。というより、外相も防衛相もほとんど実情を理解していない、といったほうが正確でしょう。
 実情も分からずに、新基地建設を推し進める。これほど地元の人たちをないがしろにした話もありません。
 鳩山前首相は「学べば学ぶにつけ…」と、海兵隊抑止力必要論を語りました。しかし、何をどう学んだのかは、最後まではっきりしませんでした。挙句が、政権の放り出しでした。
 外相も防衛相も、同じ末路を辿るのでしょうか。
 それにしても、彼らは何も“学んでいない”ように思えてなりません。なにしろ、肝心のアメリカ海兵隊の沖縄における人数さえ把握できていないのですから。

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鈴木耕さんプロフィール

すずき こう1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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