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2010-09-01up

時々お散歩日記(鈴木耕)

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あるドキュメンタリー作品と、沖縄知事選

 もう9月だというのに一体なんなんだ、この暑さはっ! と、叫びたくなるような毎日です。
 このコラムは「お散歩日記」なのですが、この暑さではお散歩はやはり無理です。でも暑いので、冷たいビールがすすんでしまいます。半年かけて(散歩の効果もあって)6キロほど痩せたのに、ビールのおかげで少々リバウンド気味。なんとかせねば…。

 我が家の前の路地には、真っ赤なノウゼンカズラがちょっと暑苦しくなるほど咲いています。そこは、まだ真夏です。

 我が故郷は東北の小さな田舎町です。その町が1年でいちばん賑わうのが、花火大会の夜。この夜のために1年があるといっても過言ではないくらいの盛り上がりです。
 これは「全国花火競技大会」といって、日本中の花火師さんたちの技量を競う競技会なのです。町も燃えますが、花火師さんたちの気合の入れようも半端じゃありません。NHKのハイビジョンで全国放送されるほどの大きなイベントでもありますからね。
 実は、私の義母が入居しているマンションのオーナーさんがそこへ参加する花火師さんで、たまに義母がお会いすると、この競技大会のことを熱心に語ってくれるそうです。縁は異なもの、ですね。
 花火大会に出かけた姪からは、美しい花火の写真が届きました。例年なら、この花火大会(8月の最終土曜日)の時期は、東北の涼しい風が川面を吹きぬけて、長袖を羽織らないと薄ら寒いほどなのですが、「今年は半袖で十分でした」との、姪の報告でした。
 うむ、東北も今年は猛暑のようです。

 散歩には厳しい暑さですが、ほしい本があったので、日曜日、電車に乗って3つ目の大きな駅ビルの中にある書店へ出かけました。なんとか、ほしい本は見つかりましたが、残念ながら、私の本『沖縄へ』(リベルタ出版)は品切れでした。ま、小部数だから、仕方ありませんね。
 目当ての本を買ってこの街のシンボルでもある「欅並木」に出たら、すごい人だかりと大音響。
 ん? と見渡していると、顔なじみの「ビッグイシュー」販売人のFさんがニコニコと近づいてきて、「今日は仕事になりませんよ。みんな、こっちを向いてくれませんもの」と、呆れ顔。本日は、仕事の「ビッグイシュー」販売は早仕舞いだそうです。
 欅並木いっぱいに広がって、色鮮やかな集団が、「ア、ソレソレッ」と掛け声に合わせて乱舞しています。「府中よさこいソーラン祭り」が始まっていました。いやあ、凄い!
 「連」というのでしょうか、20~50人ほどの集団が、トラックの先導車の後を、見事な振り付けの統一を見せながら、汗だくで踊っていくのです。ほんとうに、比喩ではなく汗が飛び散っています。見ているこちらも、じっとりと汗ばむほど。
 給水所が設けられていましたし、白衣の看護師さんらしき人や、警察・消防の人たちまで出動の、そうとうデカイお祭りでした。
 私は、集団行動や統一された動きというのが苦手ですので、参加する気にはなれませんが、あの一体感の高揚が堪らない、という人も多いのでしょう。
 見ていると、老若男女、いろんな方たちが一緒になって、激しいリズムに酔いしれています。最高の暑気払いになるのかもしれません。十分に水分補給しなければ、熱中症で倒れかねない暑さのなか、祭りは5時間にもわたって繰り広げられたそうです。
 私は、ほんの数十分見ていただけで、もう十分堪能。すぐに帰りの電車に乗りましたけど。

 暑いといえば、すぐに沖縄を連想してしまいます。ま、私の思考方法が単純なのでしょう。いまや、東京のほうがずっと暑いですよ、と沖縄の知人たちは言うのですが。
 沖縄のQAB(琉球朝日放送)の三上智恵キャスターからメールが届きました。三上さんの渾身のドキュメンタリー作品『英霊か犬死か』が、ついに完成したそうです。オンエアも決まったとのこと。でも、各地の放送局によって、放送時間帯が変わります。こちらを参照してください。
 内容は、上のHPに詳しく書かれています。
 いまもなお、戦争とその結果に向き合わざるを得ない人たちの生き方に迫る番組ですね。むろん、私は必ず観ます。見逃すことのないように、もう録画予約までしてしまいました。
 みなさん、暑い夏は、汗と血に塗れて死んでいった人たちを思う機会でもあります。それを決して忘れまいとしているジャーナリストたちも、確実に存在していることの、この番組は証しです。

 中央のメディアは、菅首相か小沢元幹事長か、という政局報道に血道をあげていましたが、8月31日夕刻、菅・小沢の会談が決裂、ついに小沢さんが党首選出馬を宣言しました。民主党内を二分する闘いが始まったわけです。これから2週間、もう政治は止まったも同然、激しい選挙戦です。そして報道も、それ一色になることでしょう。ここにきて、鳩山さんの動きが活発化。そのため、小沢さんの去就が注目を集めています。
 いやはや、あの人たちにとっては、「酷暑の夏」はむしろ活性化のエネルギーになるみたいですね。先週の「マガジン9」のトップページにあったように、クーラーも使えず熱中症で亡くなるような方たちを救うために「酷暑避難村」の設置など、弱者救済措置を採ろうとする気はさらさらないみたいです。そんなことより、まず、権力!
 権力闘争の陰で、あの大争点であったはずの「普天間飛行場問題=沖縄米軍基地問題」は、すっかり影が薄くなってしまいました。
 冗談じゃない! 普天間の危険性は少しも軽減されていないし、米兵たちの犯罪はその後も続発しています。
 菅首相の言う「最小不幸社会」には、沖縄県は含まれていないのでしょうか。そしてまた、今年11月の沖縄知事選挙に、中央の介入が始まります。
 仲井真弘多現知事に対し、基地反対を掲げる伊波洋一宜野湾市長が対抗馬として立候補を決意したようです。それで、今回の知事選は仲井真さんと伊波さんの一騎打ちになると見られていました。
 ところがこれに対し民主党のある部分が、基地反対を標榜しながらウラでは辺野古移設派と手を握るような候補の擁立を模索している、との情報も流れてきました。民主党はいったいどちらを向いているのでしょうか。少なくとも現時点では、沖縄県民のほうを向いているとはとうてい言いがたい。
 こんな状況について、中央メディアはまるで触れようともしません。ひたすら、菅か小沢か、に終始したままです。
 いい加減にしろ、と言いたくなります。

 私は、尊敬する報道者・三上智恵さんの想いを、しっかり受け止めようと思います。
 みなさん、『英霊か犬死か』を必ずごらんください。

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鈴木耕さんプロフィール

すずき こう1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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