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2010-07-14up

時々お散歩日記(鈴木耕)

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「世論調査選挙」への疑問

 11日の日曜日、選挙に行ってきました。ま、散歩がてら、朝、わりと早めに出かけましたが、なぜかいつもの選挙より、投票者がかなり多めに見えました。
 朝早くから投票者の出足がいいのは、だいたい政権与党への批判票が多いときのようです。それが私の実感です。だから、「あ、これは民主党が負けるかもしれないな」と私は感じたのでした。

 投票所の小学校への路地には、きれいなオシロイバナが咲いていました。夏の花です。この花は咲いている期間がとても長い。昨年の政権交代選挙のときにも、同じ路地に同じようにオシロイバナが咲いていたのを見た記憶があります。
 そして、参院選が終わりました。

 いったいなんだったんでしょうね、今回の選挙は。民主党が危ないなと感じてはいましたが、どうにもよく分からない結果です。
 あの熱に浮かされたような昨年夏の「政権交代選挙」からわずか11ヵ月足らずで、これほどまでに「民意」が激変するものでしょうか。
 なぜ、こんなことになったのか。民意の劇的な変貌の一因は世論調査にあるのではないか、というのが私の考えです。だから私は、今回の選挙を「世論調査選挙」と名付けたい。

 いま行われている世論調査に、根本的な疑問があります。
 なぜ、あれほど頻繁に世論調査を行わなければならないのでしょうか。選挙が近づくと、2ヵ月前くらいから、ほとんど毎週のように世論調査が実施されます。各新聞社、各テレビ局が競い合うように、内閣支持率や政党支持率調査に血道をあげます。各社が独自に行うのですから、毎週ほとんど10回程度の世論調査が実施されている勘定になります。
 そしてその都度、どの党の支持率が急上昇したの急降下したのと、新聞は第一面、テレビはトップ扱いで報じます。
 自分たちのところで行った調査結果を大々的に報じる。いわば、メディアがニュースを創作しているわけです。この創作を、毎週のように繰り返す必要がどこにあるのでしょうか。ある種の世論操作のように思えて仕方ありません。

 しかも、そのサンプル数が極めて少ない。たとえばあるテレビ局での世論調査サンプル数は1000。そして、有効回答数57.8%などという数字です。すなわち、この場合ではたった578人の回答が、「世論調査結果」として仰々しく発表されているというわけです。
 もちろん、きちんとした学術的調査方法に基づいて実施されていることなのでしょうが、500~600人の意見が、1億人以上の日本人の動向を表していると、無邪気に信じていいものでしょうか。

 今回は選挙直前に、菅首相が唐突に「消費税を10%に」と言い出してしまいました。それに各メディアが飛びつきました。そこで、メディア得意の「世論調査」です。民主党の支持率は、調査が行われるたびにどんどん下落していきました。
 菅首相は、必死になって「あれは議論しようと言ったまでで、10%に上げると言った覚えはない」と弁解しました。さらには「次の衆院選までは、議論はするが消費税を上げるつもりはまったくない!」と絶叫しましたが、もう後の祭り。メディアの「菅首相はブレる」「言うこととやることが違う」という総攻撃に、ついに撃沈されてしまったのです。
 ではなぜ、メディアがこの発言にかくも凄まじい食いつきをみせたのでしょうか。

 私は“邪推”します。これは、メディア側の深層心理に「沖縄への贖罪意識」が働いていたからではないでしょうか。
 鳩山内閣が崩壊した原因は「政治とカネ」と「普天間問題」でした。メディアはこの二つを執拗に追及しました。しかし、では「普天間問題」で、メディア側は有効な代替案なり解決策を政府へ提案したのか。彼らは、鳩山首相のブレをなじりはしましたが、「日米同盟重視」を掲げて、沖縄県民の有効な負担軽減策を何ひとつ示しませんでした。
 つまり、メディアは結果として、沖縄を見捨て、アメリカを重視すべき、という報道に終始したことになるのです。
 そこを突かれると、さすがに心ある企業内ジャーナリストは忸怩たるものを感じざるを得なかったでしょう。だから、それを覆い隠すために、つまり「普天間」にフタをするために、一斉に「消費税」報道へ突っ走ったのではないでしょうか。
 政府はもちろん、解決策の見えない普天間問題には触れたくなかったでしょうが、それ以上に、メディア側も触れたくなかった。触れればそれはブーメランのように「メディア批判」となって自分のところへ還ってきてしまう。つまり、メディアにとっても、普天間問題は触れたくない課題だったわけです。
 果たして、これは私の邪推でしょうか……。

 メディアは繰り返し繰り返し「世論調査」を実施しました。それも、「消費税」を争点化して調査を繰り返したのです。
 そして、そのたびごとに「内閣支持率急降下」と報じました。世論調査が行われるたびに、「支持率5ポイント下がる」「ついに10ポイント下落」と活字が躍り、キャスターは眉をひそめながらソフトに民主党のダメさ加減を語りかけます。
 こうなれば、「やっぱりおかしいよな」「これじゃ民主党は信用できない」「支持率が下がるのは当然だな」「オレも乗り換えようかな」と、読者や視聴者は刷り込まれていきます。それが次週の世論調査にまたしても跳ね返ります。そして更なる支持率低下を招きます。
 その原因について、メディアは「準備もなしで消費税アップを言い出した菅総理の責任は重い」と結論づけます。
 いつの間にか、選挙の争点は「消費税」になっていました。鳩山首相が責任をとったはずの大争点「普天間問題」は、完全にどこかへ吹っ飛んでしまいました。
 普天間問題をめぐっての福島瑞穂社民党党首の大臣罷免、連立政権離脱で、一時は急上昇したと伝えられた社民党人気は、メディアの「消費税選挙」大合唱報道の前で、あっけなく消えたシャボン玉でした。

 いまや「世論調査報道」が、日本の政治を左右しているように思えて仕方ありません。そりゃあ、政治(というより政局)が激動すれば、メディアにとっては美味しいでしょう。報道ネタに困らないわけですから。でも、それに踊らされて、政治家たちが政策の中身を忘れて離合集散を繰り返すようになってしまったら、政治はメチャクチャです。政治家が世論ばかりを気にするようになれば、まともな政治はなくなるでしょう。それを、メディアは善しとするのでしょうか。
 今回ほど、世論調査に結果が左右された選挙はなかったと思います。私たちはもう一度、世論調査についてよく考えてみなければなりません。「世論調査リテラシー」とでもいうものを身につける必要があるのかもしれません。

 我が家の庭に、陽よけ用に植えたゴーヤーが、小さな実をつけ始めました。とにかくよく実ります。ほんの2本の苗で、数十本のゴーヤーがぶら下がるのです。涼しい緑の陰も作ってくれます。
 沖縄を思いながら、今年も我が家では、何度も「ゴーヤーチャンプルー」を味わうことになるでしょう。

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鈴木耕さんプロフィール

すずき こう1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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