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2013-07-31up

癒しの島・沖縄の深層

オカドメノート No.129

自民党が大勝して、沖縄は緊迫した事態が進行中

 いまさら言うまでもないが、参議院選挙は自民党の圧勝に終わった。これで自民党は、衆議院に次いで参議院でも連立を組む公明党と合わせると過半数を獲得し、安定政権を確立したことになる。マスメディア的にいえば、国会でのネジレが解消され、決められない政治が決められる政治に転換したということになる。
 しかし、こういう見方には大きな疑義がある。二院制を取る以上、衆議院と解散もなく任期が6年の参議院では、役回りが違う。ネジレがある状態の方が、多様な国民の民意を反映していることになり、それが民主主義という形態にとっては本来のあるべき姿ではないのか。ネジレがないという事は、衆参で安定多数をとった陣営が独裁的政権運営を断行することにもつながる。少数意見は無視され、何事も多数決の論理で決められていくことになる。公平、平等な選挙によって政治家が選ばれるならばまだしも、今回の参議院選挙も憲法違反の疑い(*)が指摘されている選挙である。実際、選挙後も全国各地で弁護士や市民活動家による違憲の訴訟が提起されているほどだ。

*憲法違反の疑い…今回の参院選では、選挙区間の「一票の格差」が最大4.77倍となった。最高裁は昨年、格差が最大5.00倍だった2010年選挙を「違憲状態」とする判決を出しており、今回も選挙も違憲であるとの声が多数出されている。

 今回の参議院選挙においても、「ネジレ解消」で世論をリードしたのは大手マスコミと自民党、公明党の政権与党である。政権与党は、憲法改正、消費税増税、原発再稼働、TPP参加を容認している。こうした国策的課題がどんどん決められていくことを望むのは、自民党を支える霞が関官僚、財界、経済界、米国などの勢力である。しかし、国民レベルで考えれば、こうした国策的テーマはいずれも国論を二分しており、徹底した論議を尽くすべき問題である。最終的には国民投票による議決も必要である。
 特に、憲法96条の先行改正は、憲法9条を改正しようという勢力をサポートするための掟破りともいうべきルール改正である。世界でも希少価値の平和憲法の改定は、慎重かつ徹底した論議を尽くすことが大前提だ。しかし、最近の安倍政権の韓国や中国に対する外交姿勢や、国防軍創設、集団的自衛権の行使容認、武器輸出三原則の撤廃、国防大綱の見直しなどの方針を見ていれば、米国の意思を受けて平和憲法を捨て、米国とともに戦争のできる国家づくりを目指していることは一目瞭然である。

 参議院選挙の圧勝で安倍自民党はタカ派の本質を政策に生かそうという姿勢を明確にしている。連立を組む公明党との間のズレをどう調整・協議していくのかという問題は残されている。しかし、日本維新の会やみんなの党も基本的に改憲には賛成しており、今後の連携協議次第では数の論理で改憲への道が開かれる可能性は捨てきれない。今回の選挙で崩壊・分裂の危機にある民主党内にも改憲派は多い。分裂、解党で自民党に合流するグループが出てくる可能性は十分と見た方がいい。
 今回の参議院選挙で、これまで護憲一筋だった社民党が一議席しか取れず、福島瑞穂党首が辞任を表明した。一議席も取れなかったみどりの風の谷岡郁子代表も辞任を表明した。
 自民党大勝の中で、ささやかなプラス材料だったのは沖縄選挙区で、糸数慶子沖縄社会大衆党委員長が共産党、社民党などの支援で、自民党候補で公明党が推薦した安里政晃候補に勝利したことだ。自民党は今回の選挙で、岩手県とともに沖縄選挙区を最重点地域として、安倍総理や石破幹事長などの大物議員を次々と投入した。にもかかわらず、自民党本部の普天間基地の辺野古移設推進に対し、自民党沖縄県連は普天間基地の県外移設を主張。こうした、政権与党内のネジレが沖縄県民の支持を失う結果につながったのだ。あと一人、原発再稼働反対を貫く山本太郎氏が東京選挙区で当選したことも、大勝した自民党の咽喉に棘を刺しこむ勝利だった。
 いずれにしても、参議院選挙後の状況を考慮すれば、日本は戦後初めて平和憲法改正を正面から論議する千載一遇の「チャンス」を迎えたことになる。戦後、米国に寄り添う事で戦争を回避してきた日本にとっては、さらに一歩を踏み込 んで米国とともに戦争できる体制を整えるという「歴史的転換点」になるのかもしれない。
 参議院選挙投開票翌日の夜に、沖縄防衛局が、普天間基地の野嵩ゲート前に2メートル以上ある金網のフェンスを電撃的に設置したことが象徴的だ。このスペースは昨年10月1日から強行配備されたMV22オスプレイに対して反対派が抗議行動を行ってきた場所である。更に、来月には新たに12機のオスプレイが追加配備される。対米追従一辺倒の日本政府としては、何が何でもオスプレイを強行配備するという強固な意思を表したのだろう。
 辺野古新基地建設に向けての、辺野古の海の埋め立て申請も出され、県知事の許可を取るための手続きが今まさに進行中だ。その結論は年内か年明けに予定されている。まさに予断を許さない緊迫した事態が沖縄では進行している。

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参院選の結果を待ち構えていたかのような、
普天間基地ゲートのフェンス建設は、
まさに現政権の「意思表示」にも見えました。
そして本日、普天間に追加配備される予定のオスプレイが、
山口県・岩国基地に搬入。
数年前から考えても信じがたいような事態が、
恐ろしいほどに着々と、あっさりと進められつつあります。

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岡留安則さんプロフィール

おかどめ やすのり1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。 HP「ポスト・噂の真相」

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