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2013-03-20up

癒しの島・沖縄の深層

オカドメノート No.126

4・28「主権回復の日」は、
沖縄にとっては「屈辱の日」だ

 沖縄の空では相変わらずMV22オスプレイが我が物顔で飛び交っている。岩国基地から強行配備されて半年がたつが、県民の反対の声はいまだに一顧だにされていない。配備前に日米で合意された飛行条件も無視されたままである。市街地にあることで世界一危険といわれる普天間基地も北部の辺野古新基地に移設する方向で日米両政府は、沖縄に圧力をかけ続けている。すでに、新基地建設の為に辺野古の海を埋め立てる手続きも最終局面を迎えつつある。沖縄県民や地元・名護市の意向を無視して何が何でも新基地を建設しようという日米両政府の「暴挙」が許されるものなのか。地元に歓迎されないところに基地はつくらないとコメントしてきた米国政府の建前は一体どこに行ったのか。

 沖縄が第二次世界大戦後、米国の施政権下に置かれて以降、米軍基地は半永久的に存在し、飛行訓練もやりたい放題だ。72年の沖縄の本土返還においても、米国側の条件は米軍基地の自由使用だった。その状態は、本土復帰から40年たっても基本的に変わっていない。そのことの裏付けとなっているのが憲法より優先される日米地位協定の存在だ。そのことにメスを入れたのが、元琉球新報論説委員長で、現在は沖縄国際大学大学院教授を務める前泊博盛氏が書いた『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』(創元社)だ。この本を読めば、いくら沖縄がオスプレイ強行配備に反対しても、米国にしてみれば単なる機種の変更なので、日本側の了解は必要ないということがよく分かる。つまり、日米地位協定の改定が行われない限り、米軍は日本においてやりたい放題がいつまでも許されるのだ。沖縄県民の意向を忖度するためには、この日米地位協定の改定に手を付けない限り不可能なのだ。

 しかし、米軍による事件や事故が何回起きようとも、日本政府は米国と交渉する姿勢すら見せてこなかった。いわゆる運用において配慮するというその場しのぎのやり方で、この伝家の宝刀を守り抜いてきたのだ。敗戦国・日本の歴史の闇であり、謎なのだ。広島と長崎に投下された二発の原子力爆弾で完膚なきまでに叩き潰された日本は、占領軍となった米国に無条件降伏とサンフランシスコ講和条約を押し付けられて独立国家としての矜持まで失ったのだ。日本の戦後史を検証してみれば、米国からの自立ではなく、対米追従を強いられ続けてきた歴史であったことを証明するのは容易いだろう。

 だが、安倍総理はそうは思っていないようだ。1952年のサンフランシスコ講和条約が発効された4月28日を「主権回復の日」として記念式典を開くことを閣議で決定した。オバマ大統領との会談で、日米関係はより緊密になったと自画自賛する安倍総理には日本の対米従属の歴史は見えていないようだ。厳しくいえば、沖縄を含めて日本はいまだに米国の属国ではないかという疑念が消えない。沖縄を切り捨てた日本政府としては、独立を勝ち取り、主権が回復したと思うしかないのだろう。しかし、日本政府に切り捨てられて、本土復帰の日まで米国の施政権下に置かれた沖縄にとっては歴史的な「屈辱の日」でしかない。この安倍総理の鈍感な発言に沖縄県民は怒りを爆発させている。いくら政府が式典を押し付けても、沖縄県民に通じるはずがない。憲法を改定し、国防軍の創設を夢見る安倍総理の思惑に国民が同調するとは思えない。安倍総理としては憲法改正と国防軍の創設が悲願である。そのためには、日本は1952年のサンフランシスコ講和条約を経てさえ、名実ともに独立した国家にはなっていないことを前提にしなければ話は一歩も進まない。

 しかし、日本は野田前総理が、オスプレイの沖縄強行配備に関して問われた際、「米軍にどうしろ、こうしろといえない」と語り、沖縄県民の怒りを買った。しかし、今回のオスプレイの沖縄への強行配備にしても、米軍は「日米地位協定」の前身である「日米行政協定」で「日本全土基地化」「在日米軍基地の自由使用」が定められたことによって、米国は日本の憲法よりも優越的な立場を得ており、オスプレイ配備も「接受国通報」さえすれば、単なる機種変更で済まされるのだ。そこには沖縄をはじめとした日本側の反対の意思は基本的に受け付けられないという、日米間における歴史の縛りが存在するのだ。そこでは日本の独立は保障されていないのも同然だ。米軍が日本で機体事故を起こしても、日本の警察もメディアも現場に立ち入ることは許されず、米軍は非常線を張り、機体は言うまでもなく、瓦礫まですべて基地内に持ち帰る。04年に発生した沖縄国際大学への米軍機の墜落事故でも、現場にはストロンチウム処理班の防護隊の姿が目撃されているが、証拠はすべて米軍が持ち去ったため、事故の真相はいまだに解明されていないのが実情だ。
 こうした米軍関係の治外法権だけではなく、今、国論を二分しているTPP参加にしても、米国にとっては何が何でもやりぬかなければならない国策である。対米従属を深化させる安倍政権が、米国と聖域なき関税撤廃をめぐり、高度な外交交渉が出来るとは思えない。普天間基地の辺野古移設に関しても日米両政府はジワジワと包囲網を敷いており、沖縄を犠牲にした日米の連携は今後とも強化される方向性にあることだけは確実だろうと思われる。

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安倍首相が「主権回復の日」の式典開催を打ち出した後、
沖縄の地元紙はそろって強い口調でそれを批判しました
沖縄タイムス琉球新報 など)。
<しかし脳裏のどこにも、沖縄にとってその日が「屈辱の日」であることは浮かばなかったようだ。>
(琉球新報より)
その首相の姿勢が、戦後の沖縄が日本政府にとってどんな存在だったのかを、
象徴しているように思えます。

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岡留安則さんプロフィール

おかどめ やすのり1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。 HP「ポスト・噂の真相」

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