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2012-04-11up

癒しの島・沖縄の深層

オカドメノート No.118

なぜ防衛省は、沖縄における軍備配備を大々的にPRしているのか

 沖縄には迷彩服に身を固めた自衛隊員が本土から、空自や陸自の輸送機、ヘリコプター、大型車両などとともに、約950人やってきた。地対空誘導弾パトリオット(PAC3)とともに、自衛隊員が民間の港や一般道路を移動する様は、まさにものものしい準戦時下の様相だ。
 言うまでもなく、北朝鮮が4月12日から16日の午前中に打ち上げると宣言している人工衛星が軌道をはずれたり、破片を落下させた時のために、迎撃ミサイルで撃ち落とすためだ。そのため、沖縄本島の那覇基地、知念分屯基地、宮古島、石垣島にPAC3を配備し、南西海上には海上配備型迎撃ミサイル(SM3)を搭載したイージス艦を二隻配置している。念のためというわけか、首都防衛の為に市ヶ谷の自衛隊本部にもPAC3を配備し、日本海にもイージス艦を配置している。さらに、与那国島や多良間島にも自衛隊員を配置し、石垣島のPAC3部隊には実弾を装填した銃器類で警備させるのだという。
 政府が発表する弾道ミサイルに関する情報を全国瞬時警報システムで市町村防災行政無線を通じて広報する作戦もある。まさに、準戦時下というよりも、北朝鮮の「ミサイル」を利用した大掛かりな沖縄方面の軍事演習ではないか。日本は有事への対処を想定しているともいえる。

 問題は、日本のメディアは例外なく、北朝鮮が金日成生誕100周年の記念事業として打ち上げる人工衛星に対して、「衛星と称するミサイル」と表現していることだ。北朝鮮が3年前にも日本上空を通過する衛星を打ち上げたものの、太平洋に落下して失敗した前例がある。今回もそのことを持ち出し、北朝鮮は技術的に問題があるので、万が一の迎撃態勢が必要というわけだ。北朝鮮は、発射にあたりトンチャリの「衛星発射場」を海外の専門家に公開しているし、米国に対しても先の米朝交渉で衛星打ち上げを通告済みといわれている。それでも、日本の防衛省は、衛星ではなく大陸間弾道弾という認識で、非常時体制をとった。人工衛星ならば、あまりにも過剰な反応とみなされるので、あくまでもミサイルでなければならないというかのように、である。その一方で、藤村官房長官は国民に対して平常通りの生活を送るように要請している。実に中途半端な非常時体制だ。

 今回の沖縄の先島配備は、防衛省のそもそもの悲願でもある。大々的な軍備配備は沖縄の地理的優位性や抑止力を強調し、自衛隊の存在をアピールする狙いがあるといえる。たとえば、嘉手納基地に配備されている米軍のPAC3に関しては、何の話題にもなっていない。PAC3で衛星は打ち落とせないからという見方もあるが、米軍が軍事機密を優先して非公開にしているとみるべきだろう。ところが、日本の防衛省は、マスメディアに対しても積極的な広報体制をとり、取材上の便宜もはかっているとされる。軍事専門家たちは口をそろえて、PAC3で衛星やミサイルの破片を打ち落とすことは困難と指摘している。にもかかわらず、これだけのものものしい体制をつくり、メディアに対しては積極的にPRしていることの意味は、自ずと明らかではないか。

 それだけではない。内政がうまくいかない時は外敵に目を向けさせるというのも国家の常套手段である。野田内閣は、連立相手の国民新党の分裂を招くような形で消費税増税の閣議決定を行った。しかし、民主党内にも増税反対派は多く、今後の衆参本会議で可決される可能性に関しては何のメドもついていない。福島原発事故の収束も復興もメドがついていない。瓦礫処理も後手後手にまわり、遅れに遅れている。再生エネルギーへの切り替え政策も全く進まないどころか、大飯原発を手始めに何とか原発再稼働を進めようというのが、野田政権の本音だ。TPP同様にベトナムへの原発輸出も財界や経済界の後押しで推進する方針を打ち出している。
 もはや、野田政権が支持率を浮揚させる方策はほとんど残されていない。だからこそ、外交と防衛は国の専権事項という位置づけで、今回の北朝鮮の衛星打ち上げを千載一遇の巻き返しのチャンスととらえたのではないか。少なくとも、防衛官僚たちは心底、そう思っているに違いない。特に、沖縄は先の大戦の記憶がトラウマの如く残存し、米軍だけではなく、自衛隊に対するアレルギーも強い。だからこそ、今回の北朝鮮の衛星打ち上げを最大限のチャンスとして利用しようとしているのだ。

 北朝鮮の相も変わらぬ挑発路線にはうんざりだが、今回は日本の防衛省に釘をさす意味でも、ぜひ衛星打ち上げに成功してもらいたいものだ。どこの国が衛星を打ち上げようと自由である。宇宙は誰のものでもない。例え打ち上げた衛星をスパイ衛星として利用しようが、宇宙は米国のものでない以上、止める論理など存在しないのではないか。核開発とは次元が違うという認識を持たないと、孤立する北朝鮮による挑発もまた挑発をエスカレートすさせるだけではないのか。衛星打ち上げ前から、日本は北朝鮮に対する経済制裁の一年延長を決めたし、国連安保理での制裁決議を求めている。玄葉外相をはじめ、日本政府の外交は単純かつ幼稚すぎはしないか。

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警戒態勢の是非をさておいたとしても、
その内容がこれでもかとばかり、
事細かに報道されることには大きな違和感。
「(現政権は)今回の北朝鮮の衛星打ち上げを
最大限のチャンスとして利用しようとしている」という岡留さんの指摘、
さもありなん、と思えてきます。

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岡留安則さんプロフィール

おかどめ やすのり1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。 HP「ポスト・噂の真相」

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