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2011-05-18up

癒しの島・沖縄の深層

オカドメノート No.100

「売国外交」を繰り広げる官僚と
下地議員のやり口に憤る

 福島第一原発で遂に作業員が死亡するという事件が発生した。心筋梗塞が死因とされているが、放射線が飛び交う現場作業には、被曝の恐怖や心労が募るだろうから、これも立派な原発被害者である。一号機がメルトダウンと認められる状況下にあることを東電がはじめて正式に認めた。しかも、それは事故が起こった3月11日の翌日だというのだから驚きだ。注水が遅れた初動対策のミスである。その結果、3千トンという大量の高濃度汚染水が建屋の地下にたまり、その一部は外部流出している可能性が高い。この一号機の建屋一階周辺では毎時2000ミリシーベルトの放射線量も測定されている。原発史上最悪の事態からのいまだに脱出のメドすら立っていないのだ。  

 そんな国家的危機を抱える中、日本列島の最南端の沖縄でも米軍基地に関して大きな事態の進展があった。ウィキリークスが暴露した米国の公文書によって、日本の外務・防衛官僚が総理や閣僚を無視して日米交渉を進行させている実態が明らかになった。政治家の意向を無視するだけではなく、日本の国益よりも米国の走狗としてスパイの役回りを果たしていることも暴露された。
 筆者がこれまで書いてきたこととも見事にフィットする。つまり、日本の防衛・外務官僚の方が米国側にすり寄り、日本の国益を損なっているのだ。世界広しといえども、こんな組織的売国外交を展開しているのは日本ぐらいのものではないのか。
 例えば、米軍の海兵隊のグアム移転の費用を日米が比例分担するために、米軍にとっては不要な軍用道路建設費用をもぐりこませ、日本側の負担が大きく見えないように操作していた事実も発覚。72年の沖縄の本土復帰に当たり、日本政府が米国側と密約を交わしていた当時の手法がいまでも厳然と生きているというわけである。米国には過去の公文書を公開する法律があり、ウィキリークスが暴露しなくてもいずれバレる話である。まったくもって日本の国民をバカにした霞ヶ関官僚たちの思い上がったやり口に腹が立つ。    

 腹が立つのは官僚だけではない。沖縄選出の国民新党幹事長・下地幹郎議員の独断的対米工作が県民の批判を浴びている。
 米国のレビン上院軍事委員長らが来沖し、普天間基地の移設先に辺野古新基地は「非現実的」として嘉手納基地統合案を提言してきた。レビン氏ら3人の意見は、これまでの日米交渉を進めてきた2プラス2とは異質な見解だ。しかし、レビン氏だけでなく、共和党の大統領候補でもあったマケイン上院議員も含まれており、米議会の有力議員らの提言だけに、日本でも波紋を呼んでいる。
 何が何でも日米合意=辺野古新基地建設にこだわる民主党政権の執行部は、先のウィキリークスの公文書暴露同様に、無視を決め込んでいる。日米合意で辺野古新基地建設に原点帰りした鳩山由紀夫前総理の普天間の県外・国外移設挫折の真相暴露インタビューや元沖縄総領事だったケビン・メア氏の沖縄差別発言の際も無視を決め込んだ。都合の悪い話には「見ざる、言わざる、聞かざる」を決め込む菅内閣と関係閣僚の鈍感さを見て、沖縄県民は絶望的気分に陥っている。

 レビン氏らの提言のバックには下地幹郎議員の暗躍もあった。下地議員は、沖縄選出議員にもかかわらず、政権交代直後から鳩山総理の普天間基地の県外・国外移設ではなく、嘉手納統合案やキャンプ・シュワブ陸上案を主張してきた。今回も嘉手納統合案に加えてキャンプ・シュワブ陸上案、そして今回突然持ち出した沖縄本島北部の国頭村安波地区に移設する案を提起している。国頭村長は不快感を示して反発しているが、下地議員は安波地区の一部住民に対して地域振興を条件に3000メートル級の滑走路建設の合意をとりつけたとしている。むろん、嘉手納では住民らが二万人以上の原告団を結成し、嘉手納基地爆音訴訟を起こしている中、嘉手納統合案が受け入れられるはずがない。下地氏が辺野古新基地建設は不可能という主張は同意できるにしても、なぜ沖縄県内への移設でなければならないのか、理解に苦しむ。基地負担軽減は沖縄選出議員としては最低条件の主張じゃないのか。 

 特に、安波地区案に関しては札束で頬っぺたをひっぱたく辺野古新基地建設とやり口は同じではないか。辺野古は海を埋め立てることによる環境破壊が大きい。安波地区にしても自然破壊は確実に進むし、またもや地域の分断をはかり、地域共同体を破壊する行為でしかない。すでに、普天間基地にはオスプレイが配備されることが確実視されている。事故の多い次世代欠陥機という見方もある。それが、人口の少ない国頭村だったらいいというのだろうか。
 何で、これを沖縄選出の国会議員が率先して提言するのか、その心根が理解できない。今や、県知事をはじめ沖縄県民の総意は普天間の県外・国外移設である。これじゃ、下地議員は沖縄県民を裏切り、米国の有力議員の使い走りになっているということではないのか。外務・防衛官僚と一緒の役回りではないか。 

 しかし、これまでの日米安保マフィアが仕切ってきた辺野古新基地建設に対し、費用の面、06年の再編ロードマップ時に比べ状況が変化したこと、日本の大震災復興で財政負担が増える事情などを考慮した米国議員たちの声が日本側に届いたことじたいは大いに評価できる。それは、米軍の過重な財政負担や、世界各地に米軍基地を置くことに対して米国内でも疑問が表出していることの反映でもある。
 いつまでも既得権益にこだわるよりも、新しい形の日米関係を根本的に考える時期が到来したとみるべきではないのか。ま、菅総理や北沢防衛大臣、松本外相、沖縄協議会の窓口である岡田幹事長らにそのセンスも智恵もないことは確かだろうが。いきなり一議員として訪沖して、名護市長と面会し、辺野古新基地建設に理解を求めたいと語った元沖縄担当大臣で外務大臣もつとめた前原氏しかり、である。嗚呼! とため息をつくしかない。

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5月15日に「本土復帰」から39年を迎えた沖縄。
震災・原発報道の陰で、
取り上げられることの少なくなった基地問題ですが、
岡留さんが「売国外交」と呼ぶ構図は何ひとつ変わることなく続いています。
米国側から出て来た「辺野古は非現実的」との発言は、
むしろ「何が負担軽減なのか」を改めて論じあうための、
好機とも捉えることができるはずなのですが…。

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岡留安則さんプロフィール

おかどめ やすのり1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。 HP「ポスト・噂の真相」

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