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2011-03-16up

癒しの島・沖縄の深層

オカドメノート No.96

メア日本部長の暴言は改めて検証すべきだ

 天変地異の凄まじさを目のあたりにすると、人間の無力さを痛感させられる。震度7、マグニチュード9.0という世界最大級の大地震と巨大津波の破壊力は、核ミサイルや徹底した空爆を受けた戦場を想起させた。こうした天災は、人間の英知を結集しても避けられない自然の究極的な猛威だが、今回の大震災で明らかに人災と思われる災害もあった。

 福島第1原発(福島県大熊町、双葉町)の1号機、3号機の原子炉の爆発を守る役割を果たす建屋の壁と天井が、水素爆発によって崩落した。たとえミサイルをブチ込んでも耐える強度を誇っていたはずなのに、地震と津波によって本来機能するはずの自家発電による冷却装置が作動しなくなった。制御棒を入れて緊急停止した原子炉内の高熱と核分裂をふせぐために、放射能を含んだ水蒸気を外部に放出し、海水を注入して冷却を図るという非常手段がとられたが、トラブルは収まらず、作業中の原発スタッフや地域住民が被曝し、はるか遠くにある女川原発(宮城県女川町、石巻市)あたりまで放射能の異常値が検出された。

 その後、2号機でも爆発、停止中とされた4号機では火災が発生し、3号機周辺では人体を確実に破壊する400ミリシーベルトの放射を検知。政府は、緊急事態を宣言して原発から20キロ圏外への住民の避難指示を出していたが、さらに30キロ圏内まで拡大して屋内退避を指示。その後、4号機も爆発。5号機、6号機でも異常が発生。世界的にも異例の深刻な事態が進行中だ。

 この地震の多い青森、岩手、宮城、茨城といった東北・北関東沿岸地区にそもそも原発が乱立するというのが異様で危険な光景ではなかったのか。にもかかわらず、枝野官房長官、原子力安全・保安院、東京電力などの記者会見は情報隠ぺいの疑いがある。情報の断片的な小出しに終始しており、「安全だ、たいしたことはない」という御用学者のコメントを含めてそう簡単に信じるわけにはいくまい。
 実施前日に唐突に出された東京電力の計画停電「発令」も、原発事故焦点ぼかしと原発批判封じ込めを狙ったメディア・世論操作ではないのか。準備不足もあって東電の右往左往するあわてぶりが目立ったが、東電の動きはかなり怪しいと疑った方がいい。東電は昔から企業体質に問題があった。それは、東電の記者会見を見ていても十分に窺いしれるのではないか。

 それはともかく、天災も怖いが人災は人間の英知で防ぐことが出来る。その意味では、戦争や軍事もそうだ。大震災で吹っ飛んだケビン・メア米国務省日本部長の暴言問題もそのクチだ。元沖縄総領事でその後に国務省日本部長に栄転していたケビン・メア氏の暴言問題は、彼の上司にあたるキャンベル国務次官補が来日して、更迭があっさり決まった。それもそうだろう。「沖縄はごまかしとゆすりの名人」「怠惰でゴーヤーも栽培できない」と、ワシントン・アメリカン大学の学生相手に講義していた事実が発覚したからだ。ハワイ出身で沖縄に親族を持つ日系4世の米国人学生たちの告発がなければ、ケビン・メアの一連の暴言は闇から闇に葬られたかもしれない。そして、メアの差別と偏見に満ちた言説が米国の学生たちの間にも常識のように浸透していったのではないか。沖縄情報に乏しい学生たちがあっさりと洗脳される可能性もあった。

 しかし、学生の中に日系人がいたことなど、傲慢不遜なメアには知る由もなかったのだろう。この学生たちの証言を長期取材で「スクープ」記事にしたのは共同通信の編集委員だ。学生と一緒にこの講義を聴いていた准教授もメア発言が事実であることを証言したことで、メアも曖昧な反論しかできなかった。何せ、学生たちは沖縄を訪問して、大田平和総合研究所の大田昌秀氏や、沖縄のメディア各社の取材にも次々と応じ、メア氏はもはや逃れようがなくなったのだ。

 このメア氏は沖縄総領事時代からまるで沖縄植民地の総督府みたいな上から目線の傲慢なコメントを日常的に発していた。怒った沖縄人がスターバックスのコーヒーをメア総領事にぶっかけるという事件もあった。いくら仕事とは言え、こんな人物にへいこらして、ご意見拝聴を繰り返してきた地元紙の記者たちも猛省すべきだろう。
 断言してもいいが、メアに沖縄差別を吹き込んだのは紛れもなく日本の外務・防衛官僚たちである。前防衛事務次官・守屋武昌の著作の内容とメア発言がそっくりであることも指摘しておきたい。

 グリーン沖縄総領事、キャンベル国務省次官補、ルース駐日大使らが一応個人的に謝意を表明したが、そんなレベルで済む話ではあるまい。こうした米国の高官たちもホンネではメアと同一の認識を持っているはずだ。メアほどに露骨な表現を使わないだけの話だ。そうでなければ、沖縄県民が強く反対している辺野古新基地建設を当然のように強要するはずがない。米国はかねてより地元が反対しているところに基地はつくらないと公言してきたはずだ。背後には外務・防衛官僚の入れ知恵が見え隠れする。

 しかし、これだけの暴言を吐いた以上、メア日本部長は更迭されて当然だ。米国政府に慮って、メア発言の真意を米国に問い合わせることすら拒否した枝野官房長官も愚鈍すぎる。親米追従こそが政権の生き残る途と盲信している菅総理以下の民主党執行部も、この際、メアの謝罪と更迭くらい要求していれば、大いに株を挙げたに違いない。

 ついでにいえば、こんな人物を国務省の日本部長に抜擢したオバマ大統領の任命責任もある。「方便」で問題になった鳩山氏もインタビューで告白していたが、日本も米国もこのメアのような利権官僚たちが脇をがっちり固めているのだ。日米の政治はすべて官僚マターで進行していると断言していい。鳩山氏が望んだように、官僚抜きで鳩山・オバマトップ会談が実現したら、普天間問題は一発で解決したかもしれない。それが政治主導であり、政治的リーダーシップというものである。

 メア更迭後、それを裏付けるような事実が暴露された。メア日本部長がクリントン国務長官に、こうアドバイスしていたのだ。クリントンに辺野古新建設の見通しを聞かれたメアは〈沖縄県知事がお金を要求して新基地をつくる決断をすれば、ベスト。仮に、辺野古移設が実現出来なくても普天間をこのまま固定使用すれば問題ない〉と答えたのだ。これが、結局、米国国務省の対日交渉のコンセンサスになってしまったのだ。
 メアの悪行がここまで暴露された段階で、世界的にも最大レベルの東日本大震災が発生し、前代未聞の巨大な津波に襲われて死者が数万人に及ぶ可能性のある大惨事が起きた。日本のメディアは戦時下の大本営報道のような大地震報道一色。おかげで、メア暴言の背景についての追及は完全に飛んでしまった。外国人からの政治献金が発覚して絶体絶命だった菅総理も生き延びた。

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今回、被災地に駆けつけた在日米軍と、
日米安保体制のもと日本に駐留し続ける在日米軍とは、
その役割や存在意義について分けて考えるべきでしょう。
また、メア暴言については、日米安保を考える際の貴重な材料として、
今後改めて検証する必要があります。

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岡留安則さんプロフィール

おかどめ やすのり1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。 HP「ポスト・噂の真相」

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