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2010-07-14up

癒しの島・沖縄の深層

オカドメノート No.081

民意を読めなかった菅─仙谷の政治センスのなさ

 昨年の政権交代後、初の国政選挙となった参議院選挙が終わった。祭りの後のむなしさ、けだるさに襲われ、この原稿もとりかかるまでに時間がかかった。民主党の大敗はある程度予想されたことだが、国民新党との連立だけでは参議院でも過半数には大きく届かない大惨敗だった。数合わせで言えば「みんなの党」や公明党あたりとの連立もしくはパーシャル連合(注)でなければ、政策は何一つ成立しない、完全なネジレ国会となる。それでいて、惨敗の責任を取る民主党の動きはまったくない。今回の惨敗の責任の第一は菅総理が唐突に消費税10%アップをぶち上げたことである。

(注)政策ごとに合意できる政党との部分連合。

 いくら財務官僚や財界人に洗脳された結果とはいえ、民意を読めなかった菅総理―仙谷官房長官の政治センスのなさには驚かされる。よほどの自信と思い上がりがあったのか、それとも消費税アップに反対している小沢一郎前幹事長に対する敵愾心による当てつけだったのか。しかし、結果を見れば、菅-仙谷の完全な戦略ミスといわざるを得ない。この二人は、民主党惨敗のA級戦犯、間違いなしである。
 さらにいえば、選挙戦を取り仕切った枝野幹事長と安住選対委員長の責任も免れない。二人区に二人の候補を立てるという選挙戦術じたいを練ったのは、小沢一郎幹事長である。しかし、選挙戦を前に鳩山-小沢のダブル辞任が行なわれたことで、この作戦は途中放棄状態に置かれた。せめて、選挙に強い小沢に何らかの形で選対戦術の指南を仰ぐとか、消費税アップのような空気の読めない政策を持ち出すことを止める人物がいたら、民主党は限りなく単独過半数に近い数字を獲得できたのではないか。その意味では枝野-安住選対コンビもA級戦犯組といっていい。特に枝野幹事長は選挙の結果を自ら咀嚼(そしゃく)して辞職するくらいの覚悟が必要なのではないか。
 菅総理を立てまつって、実権と権力を掌握しているのは仙谷官房長官である。民主党内で最大の「ワルの策略家」といわれている人物だ。この仙谷の引きで、枝野、前原、野田,玄葉といった市場原理派は一蓮托生という人脈関係になっており、反小沢シフトの一角を崩すわけにはいかないという党組織の論理で、責任問題を棚上げする魂胆なのだろう。権力を握ると誰もが権力維持に躍起になるということなのか。

 しかし、みんなの党の躍進はともかく、自民党の復権に手を貸したことで今後の衆参ネジレ国会を招いた菅・民主党の罪は大きい。政権交代時の理念から大きく官僚依存体制に舵を切った菅・民主党ではあるが、積年の「官僚内閣制」に何の疑問も持たずに丸投げしてきた自民党が復権すれば、政治主導による霞ヶ関改革や無駄遣い予算の徹底削減もすべて水の泡となる。辺野古新基地建設を容認し、あろうことか消費税アップを提起した菅政権には絶望したものの、自民党が早々に復権することはもっと最悪である。民主党は過半数を割るくらいは負けた方がいいというのが筆者の率直な立場だった。結果は予想以上に惨敗だった。が、それが反省材料になればまだいいのだが……。

 それはともかく、問題は今回の選挙で普天間基地問題が各党の争点から消えてしまったことだ。菅総理が消費税問題を持ち出したのも日米合意隠しとの見方がリアリティを持つほど見事だった。せいぜい、社民党が国外移設を主張したくらいだった。
 特に、沖縄選挙区では全国で唯一民主党候補者が出馬しなかった。民主党本部が辺野古基地建設を主張しているものの、民主党沖縄県連は県外・国外を主張していたためだ。まさに本部と県連のネジレが、戦わずして負ける不戦敗という不名誉な結果を招いたのだ。
 結果は、県外・国外を主張した自民公認・公明県本支持の島尻安伊子氏が当選した。
 一方、民主党比例区から公認で出馬した県連代表でもある喜納昌吉氏は落選となった。特に沖縄は民主党に対する逆風が強かった。辺野古に基地をつくる方針を打ち出し、全国一の失業率の高さ、全国最下位の平均年収の県民に対して消費税を10%上げるなどという暴政が受け入れられるはずがない。沖縄では最初の民主党議員となり、昨年の政権交代でも活躍した喜納氏を使い捨てしたのだ。いくら、政治の論理が冷酷とはいえ、あんまりではないか。ちなみに、自民党本部も辺野古基地建設推進派だが、島尻候補の県外・国外移設の主張はお咎めなしだった。野党ゆえの余裕なのか。
 当然ながら、争点を失った沖縄の投票率は52%と過去最低、全国最低だった。白紙投票も多かったというから、これは沖縄県民の無言の抵抗ということではないのか。

 残念だったのは、社民党比例区から出馬した保坂展人氏も落選したことだ。今回の選挙では、社民党は辺野古基地も消費税も反対しており、沖縄県民の支持を集めやすい選挙戦のはずだった。福島瑞穂党首も二度ほど沖縄入りして各地で応援していたが、「選挙区は山城博治、比例は福島瑞穂」と絶叫していた。山城氏は社民党と社会大衆党が推薦する無所属候補。せめて「比例は保坂」といっても福島党首本人は安泰なのだからいいではないかと思うのだが、社民党比例は、大分県の吉田氏が沖縄地区の割り当てだったという。
 当選すべき人材が落選してしまうというのも選挙というものなのかもしれないが、それにしても民主党のふがいなさが悲しい。9月の民主党代表選には、政権交代の歴史的原点をよくわかっている小沢サイドが再度盛り返す事態に期待したい。それが、政治主導を捨てて第二自民党への途を歩みかねない菅・民主党へのよきプレッシャーになるはずである。

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菅総理には、この先いくつもの難関が待ち構えていますが、
外交上の最大の課題は、辺野古周辺に建設するとした滑走路の工法についてです。
日米両政府は8月までに決定するとしていますが、
地元の状況だけを見てもとても不可能でしょう。
この問題への対応を間違えれば、
9月の代表選を待たずに短命政権で終わる可能性もあります。

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岡留安則さんプロフィール

おかどめ やすのり1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。 HP「ポスト・噂の真相」

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