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2010-05-26up

癒しの島・沖縄の深層

オカドメノート No.078

「屈辱の日」5月23日を沖縄県民は決して忘れない

 今、沖縄には失望と落胆の空気が渦巻いている。総理就任後二度目の沖縄を訪問した鳩山総理が、今回ははっきりと辺野古付近に普天間基地の代替基地をつくることを仲井真知事や北部の市町村長に説明したためだ。最後の望みが絶たれた「屈辱の日」、5月23日を沖縄県民は決して忘れないだろう。「最低でも県外」といい続けてきた事を詫びつつ、地元の理解と協力を求めたいという鳩山総理の発言にブチ切れた県民は多く、地元メディアも含めて沖縄は怒りの島と化している。それはそうだろう。沖縄県民の気持を代弁して言うが、民主党が政権交代を実現したことで、沖縄県民は普天間基地が県外・国外に移転する可能性を初めて実感してきたのだ。

 劇的な政権交代により、沖縄県議会も与野党が逆転し、名護市長選挙でも辺野古基地反対派の稲嶺進氏が勝利した。沖縄県議会でも、全会一致で「県外・国外」移設が決議された。4月25日には仲井真知事まで出席し、「県外」移設を求める9万人の県民大会が開かれた。もはや、沖縄県民の総意は普天間基地の「県外・国外」移設であることは明白だった。ここまで県民の意思がまとまりを見せたのも、実は鳩山総理自身の言葉を信じてきたからに他ならない。新政権樹立後、官僚に洗脳された岡田外相が嘉手納統合案、北沢防衛大臣がキャンプ・シュワブ陸上案、平野官房長官がホワイトビーチ埋め立て案といった県内移設を自分勝手に画策しても、「最後は私が決める」という鳩山総理の決断を信じていたのだ。それがものの見事に裏切られたのだから、県民の怒りが倍増したのも当然だろう。

 しかし、鳩山総理は、今回は辺野古付近という言い方を示唆しただけで、具体的な内容には一切踏み込んでいない。ヘドロで埋め立てるのか、杭打ち桟橋方式での滑走路なのかにも言及していない。すでに大々的に報じられている政府案以外の腹案でも別にあるというのか。それとも、これも「いい人」を演じるために、埋め立て方式でやるとはいえなかっただけなのか。埋め立ては自然への冒涜とまで言い切ったのだから、そう簡単には撤回できないのかもしれない。沖縄訪問の最後の那覇空港での民主党沖縄県連との会談において、鳩山総理は「まだ、県外・国外もあきらめていない」と語ったという。もはや今月28日に予定されている日米合意決定まで時間は残されていない。すでに、日米実務者協議も開始されている。それでも、鳩山総理がこういう発言をするのは、単なる思い付き、その場しのぎでいっているだけなのか。しかし、抑止力論といい、辺野古原点帰りといい、お得意の言葉の軽さ、信念のなさから来ていると思う方が正解だろう。

 問題は、あれほどまでに沖縄の軽減負担、「最低でも県外」といってきた鳩山総理が初心を捨てて、自民・公明政権時代に日米で合意した辺野古移設になぜ「転向」したのかということだ。わずか1分しかかからない総理公邸と総理官邸を往復する鳩山総理は孤独で孤立しているといわれる。いくらミーハーの幸夫人と一緒に生活していても、世界は見えない。現実政治は占いも通じない。鳩山総理が日常的に接触するのは、官邸、防衛・外務官僚、御用評論家くらいのものだろう。つまり、鳩山総理の周辺は、「沖縄の海兵隊は抑止力」「基地は沖縄、それも辺野古しかない」「普天間問題がこじれれば日米関係の危機」ということを念仏のように唱える連中に固められているのだ。

 実際にあった話だが、グアム・テニアン・サイパンへの移設案に関して現地から知事たちが誘致の意志を示すために官邸を訪ねた時に、面会拒否しているのは官房副長官である。つまり、官僚たちに都合の悪い情報は、総理の耳に入れないという遮断システムがつくられているのだ。孤独で四面楚歌の鳩山総理を政治的に誘導するのは簡単だろう。そもそも幸夫人の怪しげな占いを楽しむような人物だから素養はあるはずだ。官僚たちの狙いは既得権益を死守することだ。辺野古の代替施設が完成したら、米軍と自衛隊との共用の検討が計画案に盛り込まれていることにお気づきだろうか。何の事はない。辺野古新基地建設にもっとも意欲を見せているのは、米国というよりも日本の防衛省の方なのだ。まさに火事場ドロボーである。防衛官僚にすれば、グアム・テニアンに海兵隊が撤退すれば、既得権益も利権も転がってこない。旨みが無いのだ。だからこそ、鳩山総理が交渉することじたいを官僚が阻止しているのだ。

 辺野古移設に関しては、巨大な建設費がかかる。その分、利権を巡る争いが展開されてきた歴史がある。鳩山総理に抑止力を教えたのは岡本行夫だといわれている。その岡本は、最近も名護市を訪問し、辺野古基地誘致派だった島袋吉和前市長を担ぎ上げてきた利権屋たちと秘密会合を持っているといわれる。岡本がどういう立場で、誰の意志を受けて名護市に来たのかは不明だが、またぞろ、アメとムチによる地元分断工作が始まる事を想定しただけでうんざりである。ただ、地元の名護市長が「絶対反対!」を力強く宣言していることだけは、県民にとっての希望の光である。

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政権交代後、民主党の「公約」が次々と反故にされていますが、
普天間問題での「転向」は、鳩山総理と民主党にとって
取り返しのつかない一歩となることでしょう。
それにしても、「最低でも県外」「埋め立ては自然への冒涜」
といった前言をあっさり翻した鳩山総理の言葉の軽さには、
普天間基地の県内移設に賛成・反対の立場に関係なく
多くの人が改めて驚いたのではないでしょうか。
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岡留安則さんプロフィール

おかどめ やすのり1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。 HP「ポスト・噂の真相」

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