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癒しの島・沖縄の深層

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おかどめ やすのり 1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。HP「ポスト・噂の真相」

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オカドメノート No.054

沖縄科学技術大学院構想とは、何なのか?

 沖縄に世界中のノーベル賞クラスの有能な学者を集めて開校するという、沖縄科学技術大学院大学構想をご存知だろうか。すでに開校予定地の中部・読谷村では基礎工事の一部が進行しているが、構想からすでに7年以上経つものの、まだ沖縄基地問題対策のための箱物行政のレベルにとどまっている。元東大総長の有馬朗人氏を沖縄科学技術研究基盤整備機構(OIST)の運営委員会共同議長に据えて22人の代表研究者を採用、サンゴの構造や遺伝子の進化などについてのプログラムが検討されている。そして、ここにきて法案がようやく提出された。

 しかし、民主党や国民新党を中心とした野党側から大学院大学設置の目的の確立、学問・研究対象の明確化、沖縄の経済振興、学問的な貢献に繋がるのかどうかといった疑問が出され始めている。仮に政権交代になれば、この計画も中止になる事をおそれているのかもしれない。危機感を持った沖縄県の仲井真県知事らは緊急総会を開いて「自立的経済を目指す沖縄振興の核になる」と法案の早期成立を目指す動きを開始している。この法案が仮に不成立ということになれば、学長候補との交渉もできず、有能な研究者が集まらなくなるという懸念があるという。しかし、そもそも沖縄に世界中の英知を集めた大学院大学がなぜ必要なのか、世界最高水準の研究が可能なのかということに対しては、ほとんど論議らしい論議はなされていないのが実情だ。

 初めに政府の号令ありきのこの科学技術大学院大学構想も、泡瀬干潟埋め立てによる東海岸プロジェクトも沖縄の米軍基地を維持するためのアメ作戦の一環である事は明白である。巨額の資金を投入しても、この事業が成功する見通しはほとんどたっていないからだ。最近、「沖縄タイムス」で、渡辺豪記者が連載中の「国策の町おこしー防衛局移転の真相」が面白い。沖縄最大の米軍基地である嘉手納基地を長期的に永続化するための戦略としていかに税金のバラマキで地元自治体を懐柔するかという腐心ぶりが見事に描かれているからだ。それまで那覇市内におかれていた防衛省の出先機関を嘉手納町に移転させ、ついでに地元の再開発に巨額の税金を投下する。地元は極東最大の米軍基地を押し付けられているのだから、当然の代償というわけだ。まるで、原発誘致や自衛隊誘致で自治体の生き残りを画策する発想と同じである。沖縄の財界人や行政マンの中には、「嘉手納基地は沖縄の宝だから、徹底的に活用すべき」という功利主義を公言する人たちもいるのだから、沖縄も複雑な政治状況下におかれているのだ。

 泡瀬干潟の埋め立てに関しては、この先行きの見えない巨額の国家プロジェクトを推進することに対して、裁判所までが予算の計上を認めないという判決を打ち出している(現在は控訴審中)。国家財政厳しき折、500億円以上の税金を投下しても、最終的には地元の沖縄市は橋下大阪府知事がいうような国の「詐欺」「ボッタクリ」にあうだけで、巨額の財政負担を強いられることになるのは目に見えている。おまけに取り返しのつかない環境破壊も待ち受けている。普天間基地の移転先とされる辺野古新基地建設もまったく同様で、沖縄の将来にとって取り返しのつかない事態を招くのは明らかだ。

 麻生内閣の相次ぐバラマキの14兆補正予算案は、各官庁の希望を寄せ集めただけの代物でしかない。100年に一度の不況対策という掛け声の裏で、官僚たちが再び箱物行政、天下りのための独立行政法人の復活をもくろんでいるのは明らかだ。特に使途が不明なままに各省庁に委ねられた「基金」への支出は約4兆3600億円。どう考えても税金の厖大な無駄遣いであり、そのしわ寄せは消費税アップで国民に必ず跳ね返ってくる。これまで何となく、ファジーに進んできた沖縄技術大学院大学構想も、この国家財政厳しき折、先の展望の見えないままにこの計画を進行させることがいいのかどうか疑問は数多く残されている。中には、この大学院大学においては、生物・細菌兵器に関する研究も手がけるのではないかという危険な目論見を指摘する向きもあるくらいだ。経営も独立行政法人で運営するとなれば、やがて沖縄の財政負担として跳ね返ってくる可能性も大だ。政治家や官僚の利権誘導ではなく、もっともっと沖縄側も論議をつくすべき課題ではないのか。

文中に登場した沖縄タイムスの渡辺記者には、
普天間基地移設をめぐる金と政治の動きを追った
『「アメとムチ」の構図』と題した著書もあります。
沖縄をめぐるこの「アメとムチ」はいつまで続くのか、
そしてそれは本当に「アメ」なのか?
そんなことを考えさせられます。

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