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やまねこムラだよりー岩手の五反百姓からー

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つじむら・ひろお 1948年生まれ。2004年岩手へIターンして、就農。小さな田んぼと畑をあわせて50アールほど耕している五反百姓です。コメ、野菜(50種ぐらい)、雑穀(ソバ、ダイズ、アズキ)、果樹(梅、桜桃、ブルーベリ)、原木シイタケなどを、できる限り無農薬有機肥料栽培で育てています。

第三十八回

「肥料よ、お前もか!」

 世の中、値上げラッシュですね。食品では、パンや麺バターなどに続いて、物価の優等生といわれた卵まで値上がりします。ガソリンが、リッター180円台に突入するだけでなく、原油高が火力発電所のコストを上げ、電気代が値上がりします。鉄鋼価格が値上がりして、自動車の価格も引き上げられそうです。
 庶民の収入は増えていないのに、生活に必要な基本的なものを中心に値上がりがとまりません。不景気なのに、物価だけが値上がりする。こういうのを、スタグフレーションというのでしたか?

 農家も、この値上げラッシュの直撃を受けています。マチから遠いムラの生活では、自動車は生活必需品ですし、トラクターや草刈機、田植え機からコンバインまで今の農家はエンジン付の農業機械がないとやっていけません。花やシイタケやイチゴなどをハウスで栽培している農家は、暖房用の油も大量に使いますから、これもコストにはねかえる。
 卵が「物価の優等生」であり続けられたのも、鶏のえさ代を補助するシステムが曲りなりに生きていたからです。ところが、飼料穀物が2倍3倍になってしまった現状では、このシステムが破綻して機能しない。あとは、値上げしかない、ということなのです。

 一部の投機家が自分の利益だけを考えてとる行動が、世界の多くの人を苦しめる。これはモラルの問題でもありますが、食糧の高騰⇒食糧を十分に買えない⇒飢餓に苦しみ飢え死にする人が増える、ということであれば間接的な殺人じゃないでしょうか。それも、弱い立場の人々・・子どもや老人や貧しい人を直撃する間接的な殺人です。
 その罪は、万死に値する気がします。それを「正当な経済活動をしているだけ」と居直っている。現世では、ウハウハと左ウチワなのでしょうが、来世では地獄に堕ちること間違いなし。彼らには、死んでから永劫の地獄の業火が待っているのです。

 ・・・と、ふだんおとなしい(?)わたしが怒りまくっているのには、理由があります。おそらく、都会の新聞には報道されなかったでしょうが、作物を育てるのに必要な化学肥料もこの7月から値上げされるからです。それも、50%~70%(平均60%)も一気に値上がりするのです。
 農協(JA)の全国組織に、全国農業協同組合連合会というのがあります。略して「JA全農」というのですが、ここが化学肥料を作って各農協に卸している。そのシェア率は国内の化学肥料の60%と、日本一です。しかも、これまで4年連続で値上げをしてきた。そして、5年目にドーンと今回の60%の値上げです。当然、農業のコストにはねかえる。
 都会の皆様には申し訳ないのですが、近い将来、国産の野菜や果物や穀物は値上がりすることになるでしょうね。

 わたしは、基本的に有機栽培ですから、化学肥料は使いません。でも、肥料をすべて自分で作っているわけではありません。自分でも堆肥や液肥やボカシ肥は作っていますが、油かすにしろ魚粉にしろカキガラ有機石灰にしろ、買っています。これまでの流れからすれば、化学肥料が値上がりすれば、有機肥料も連動して値上がりするのです。
 わたしの昨年度の肥料代は、10万円強でした。6割値上がりすれば、16~17万円になってしまいます。このほか、燃料代や農業資材費や土地改良区(水利権)の負担金も値上がりしていますから、農業経費はトータルすれば20~25万円の値上げになる。
 五反百姓の小農ですらこのレベルですから、本格的に大規模経営している農家ほど、今回の化学肥料代の値上げのショックは大きいのです。

 なかでも、リン酸肥料の過燐酸石灰が75%も上がっています。リン酸(P)というのは、作物が根を伸ばしたり、実をつけたりするときに必要な成分なのです。
 リン酸肥料の値上がりの理由は、原料のリン鉱石の国際価格が2倍~3倍になったから、ということです。なかでも、これまでのリン鉱石の輸出国だった中国が、国内農業を優先させ、輸出に高関税をかけているそうです。
 このリン鉱石のことひとつとっても、中国は食糧輸出国から食糧不足国へとシフトしたな、ということがわかります。国内人口の13億人が、しかもその人たちの高級食材への要求の高まり(肉をより多く食べる)、が中国国内の食糧事情を圧迫している、ということです。例の「毒入りギョーザ事件」は永遠に解決しませんね。中国はもう日本へ食料を輸出する余裕がなくなっているからです。いまさら、わたしが悪うございました、とあやまって日本に食料を買ってもらう必要はなくなったのですから。

 これまで、世界人口の急速な増加を、化学肥料による食糧増産が支えてきた。その化学肥料がまたこのように急激な値上がりを見せている。地球温暖化による干ばつや洪水による食糧生産の障害もありますが、肥料不足の時代にもなりつつあるということですね。かくして中国のみならず、世界全体が食糧不足の時代へと入ってきた、ということでしょうか。
 「食い物の恨みは大きい」といいます。もし、次に大きな戦争が起こるとしたら、それはイデオロギーの対立でもなく、民族や宗教の対立でもなく、食糧の争奪戦、としてかもしれません。
 その戦争にニッポンが巻き込まれないためにも、まず食料自給率を上げること。さらにそのために、肥料自給率も上げることが大切だ、ということだと思います。
 わたしも、せっせと草を刈って自前の堆肥をつくり、マキストーブから灰を取って(草木灰は良質のカリ肥料になります)、食べ物だけでなく、肥料の自給自足をめざしたいと思います。

(2008.6.28)

梅畑にある小さな流れのほとりで、
真夏の象徴、オニヤンマが、ヤゴから孵化して、
飛び立つところを目撃しました。
草刈を中止して、1時間ほど観察。
ファーブルになった気分?でした。

食料品、エネルギー、そして肥料まで、まさに「お前もか!」の状況。
その原因の一端となっているのが投機だとしたら、
それは本当に「正当な経済活動」なのか。
辻村さんも指摘しているとおり、「間接的な殺人」とも呼べるのでは?と思ってしまいます。

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