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森永卓郎の戦争と平和講座 第33回

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もりなが・たくろう経済アナリスト/1957年生まれ。東京都出身。東京大学経済学部卒業。日本専売公社、経済企画庁などを経て、現在、独協大学経済学部教授。著書に『年収300万円時代を生き抜く経済学』(光文社)、『年収120万円時代』)(あ・うん)、『年収崩壊』(角川SSC新書)など多数。最新刊『こんなニッポンに誰がした』(大月書店)では、金融資本主義の終焉を予測し新しい社会のグランドデザインを提案している。テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。

こんなニッポンに誰がした
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権力に振り回された世論

 民主党の小沢一郎代表の公設秘書の大久保隆規容疑者が起訴された。容疑は、小沢一郎民主党代表の政治団体と民主党支部が、西松建設が作った2つの政治団体から政治献金を受けた際、この政治団体からの献金が実質的に西松建設からの献金であることを認識しながら、政治資金収支報告書に政治団体の名前を書いたことによる虚偽記載だ。巷間噂されていた収賄やあっせん利得は出てこなかった。小沢代表は与党を離れて長いから、当然と言えば当然だ。野党に職務権限はないからだ。

 小沢代表の政治団体や民主党支部に流れた献金自体は、裏金でもなかったし、献金の額自体も民主党の支部が受けた分を含めて3500万円だった。これまでの常識では、東京地検特捜部が出てきて、逮捕に至るのは1億円以上の事件だった。それなのに、なぜ今回東京地検特捜部が小沢氏秘書の逮捕に踏み切ったのかはよく分からない。もちろん西松建設の事件を捜査しているなかで、容疑が浮かんだと言われればそのとおりだが、それでも大きな疑問が残るのは、なぜ小沢代表の秘書だけなのか、そしてなぜ今なのかという2点だ。

 政治資金規正法では、企業から議員への献金は禁止されているが、政治団体からの献金は許されている。だから、実質的な企業からの献金であっても、政治団体からの献金の形式を整えれば、逮捕されることはない。それがこれまでの常識だった。だから、小沢氏を含めて少なくとも20人の政治家が、西松建設が作った政治団体から政治資金を受け取っていた。2つの政治団体の背後に西松建設がいることを、彼らが知らなかったはずがないと私は思う。2つの政治団体は西松建設と同じ住所にあったし、そもそも慈善団体ではないのだから、政治団体からの献金に何らかの思惑があることは、政治家なら当然分かるはずだ。ただ、その場合でも、そこは「大人の世界」で、きちんと資金の流れを表に出して、背後に本当の資金提供者がいたとしても、直接の寄付者の名前を政治資金収支報告書に書いておけば、それで違法性は問われないとほとんどの政治家は信じていたはずだ。

 ただ、今回検察が、大久保秘書が政治資金収支報告書に西松建設ではなく、政治団体の名前を書いたことを「虚偽記載」と認定したということは、西松建設が作った政治団体から資金提供を受けた政治家はすべて違法行為をしていることになるし、西松建設関連以外の政治団体からの献金を受けていた議員のなかにも違法性を問われるケースがたくさん出てくるだろう。厳密に言えば、検察はそうした議員の金庫番を軒並み逮捕しなければ、法の下の平等を保てない。ところが、実際には小沢代表の秘書以外は誰一人虚偽記載で逮捕されていないのだ。

 もう一つの問題は、政権交代の可能性のある総選挙が半年以内に行われるこの時期に、なぜ逮捕が行われたのかということだ。献金の一部が時効になってしまうからと言われているが、いまの時期を逃しても、1千万単位の献金は残るのだから、選挙後に逮捕しても、何の問題もないはずだ。
 検察が暴走したのか、あるいは検察に対して何らかの政治的圧力が加わったのか。漆間官房副長官が「捜査は自民党には及ばない」とオフレコ発言したことを考えると、「国策捜査」の可能性を疑わざるをえないが、証拠がないので何とも言えない。ただ、一番大切なのは、この事件を世論がどう判断するかだ。
 残念ながら、世論は私の期待する方向には動かなかった。私は、こんな状況を作った内閣の支持率は、低下して欲しいと思っていた。ところが、読売新聞が3月25日から26日にかけて行った緊急全国世論調査によると、麻生内閣の支持率は前回調査の17.4%から23.2%へと大きく上昇したのだ。政党支持率も、自民党が前回の24.1%から31.0%へと上昇し、民主党は23.8%から21.2%に下落した。
 同じ世論調査のなかで、小沢代表が続投することに「納得できない」とした人が68%いたということは、まだ理解できる。しかし、なぜ自民党や内閣の支持率が上がってしまうのだろうか。
 自民党政権が、特に小泉政権以降、日本の平和と平等を次々に破壊し、日本に格差社会をもたらし、そして日本が戦争に巻き込まれるリスクを高めてしまったことを、日本国民は忘れてしまったのだろうか。
 読売新聞の後に行われた世論調査では、自民党の支持率は再び低下に向かっている。しかし、今回の小沢代表秘書の逮捕劇は、大きな禍根を残した。それは、国民の不支持を、権力者が吹き飛ばせる手段があることをはっきりと示したということだ。
 偶然にも、北朝鮮情勢が緊迫の度を高めている。また、国民が一つの方向に扇動されなければよいのだが。

日本は、民主主義国家と言いながら、

またもや一握りの「国家権力」によって、

「権力」の思うように、コントロールされようとしています。

私たちは一体いつになったら、ここを乗り越えることができるのか?

本当に今、一人ひとりに問われていることです。

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