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森永卓郎の戦争と平和講座:バックナンバーへ

森永卓郎の戦争と平和講座 第31回

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アメリカ型金融資本主義の崩壊をかねてから指摘していた森永さんですが、
今、まさに私たちは現実にそれを目の前にしています。
森永さんは、この状況をどのように分析し、どう考えているのでしょうか?

もりなが・たくろう経済アナリスト/1957年生まれ。東京都出身。東京大学経済学部卒業。日本専売公社、経済企画庁などを経て、現在、独協大学経済学部教授。著書に『年収300万円時代を生き抜く経済学』(光文社)、『年収120万円時代』)(あ・うん)、『年収崩壊』(角川SSC新書)など多数。最新刊『こんなニッポンに誰がした』(大月書店)では、金融資本主義の終焉を予測し新しい社会のグランドデザインを提案している。テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。

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「ざまあみろ」では前進しない

 アメリカの信用バブルがはじけて、世界中が金融危機に巻き込まれている。経済的には確かに辛いが、これで、これまで世界中を苦しめてきた投機資金の命運が絶たれることになる。投機資金の逃避先がないからだ。

 10月24日のニューヨーク・マーカンタイル市場では、原油価格は1バーレル64ドルまで下落した。最高値だった7月11日の147ドルと比べると、実に56%も下落している。しかも、この間に12%円高が進んでいるから、円建てで見た原油価格は62%も下落していることになるのだ。同様のことは、シカゴ市場のトウモロコシでも起きている。6月27日に1ブッシェル=765ドルの最高値をつけたあと、10月24日には373ドルと51%も下がっているのだ。

 これまで、世界の投機マネーは、アジアの金融危機、日本の不良債権処理、アメリカの不動産関連証券化商品と、舞台を変えながら、荒稼ぎを重ねてきた。そして彼らが最後に向かった投機先が、原油と穀物だったのだ。しかし、そのバブルも崩壊した。彼らの向かう場所はもうない。そのとき投機マネーはどうなるのか。投機マネーは消えてなくなってしまうのだ。それが巨大バブルの崩壊がもたらすいつもの結末だ。

 これまでカネにカネを稼がせてきた投機家が無一文になり、アメリカの投資銀行(証券会社)が次々に経営破たんや身売りをする。これまで数千万円から数億円の年収を誇ってきたインベストメントバンカーたちも、いまや単なる失業者になる人が増えている。

 投機資金が企業を乗っ取ったことで、その企業に勤める人たちは、その後厳しい職業生活を余儀なくされている。投機マネーのおかげで、原油や穀物の値段が高騰し、発展途上国では飢饉が起き、暴動が続出した。先進国でも多くの国民が物価高に苦しんでいる。

 だから、彼らの暴挙に対する怒りを私は抑えられない。

 リーマン・ブラザーズ証券のファルドCEOが8年間で480億円もの報酬を得て、森の中のお城のような家に住んでいたことを知ったとき、正直言うと、私は「ざまあみろ」と思ってしまった。

 ただ、冷静に考えると、そうした悪魔の心は、捨てなければならないのだ。そんなことを思っても何も進展しないからだ。

 今回、明らかになったことは、新自由主義者が理想と考えてきた経済システムが、けっして上手くいかない、むしろほとんどの人を不幸にするという事実だった。だから、私たちがやらなければならないことは、いまこそどういう経済システムを作ったら、世界の人々が幸せになれるのかというグランドデザインを描くことなのだ。

 そのための第一歩は、カネを増やすことへの飽くなき欲求を社会として戒めるあらゆる努力を積み重ねていくことだろう。お金を稼げば幸せになれるのではないし、お金を稼いでいる人が偉いのではないということを、子供のころから繰り返し教え、それを世界のコンセンサスにしていかなければならない。それを実現するだけで、世界は平和になっていくはずだ。

これまでの、あり得ないほどの経済格差を思えば、
「ざまあみろ」の言葉が浮かんでしまった人は、決して少なくないかもしれません。
しかし、森永さんが言うとおり、「そんなことを思っても何も進展しない」のも事実。
求められる新しい経済システムとは? どんな社会が人を幸せにするのか?
1人ひとりが改めて考えてみる時です。

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