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森永卓郎の戦争と平和講座(26回)

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パンも値上げ、パスタも値上げ、調味料も値上げと、お店の棚を眺めては、
思わずため息をつきたくなる今日このごろ。
森永さんが指摘する、この物価上昇の「犯人」とは?

国民生活を追いつめる、物価上昇はなぜ生じたのか

 2月の全国消費者物価指数総合(生鮮食品を除く)は前年同月比で1.0%の上昇となった。上昇率が1%台に乗ったのは10年ぶりだが、10年前の物価上昇は消費税率引き上げの影響なので、それを除くと実に14年ぶりの高い物価上昇になっている。
 消費者物価の前年同月比を費目別にみると、灯油が24.9%、ガソリン16.1%、プロパンガス6.5%の上昇と、エネルギー関連が高くなっているほか、マヨネーズ12.6%、スパゲッティ10.2%、食パン8.5%、カレールウ7.5%、あんパン6.2%など、穀物価格高騰の影響を受けた食料品が軒並み高騰していることが分かる。

 石油高と穀物高の2つが、国民生活を追い詰めているのだが、私はこの2つの物価高に関しては、アメリカのブッシュ大統領の責任が非常に重いと考えている。
 農産物の高騰はトウモロコシから始まった。ブッシュ大統領が地球温暖化防止のためという理由を掲げて、バイオエタノールをガソリンと混合して使う計画を定め、実際に使い始めたのだ。バイオエタノールの増産で、原料となるトウモロコシの需給が逼迫して価格が高騰した。それをみた、小麦や大豆やオレンジの農家が、トウモロコシに転作してしまったために、それらの農産物も供給が減ることになり、価格が高騰したのだ。
 しかし、トウモロコシから作られるバイオ燃料が現時点で地球環境改善に貢献するのかどうかについては、学者の間で議論が分かれている。バイオ燃料の製造、輸送に大きなエネルギーを使うからだ。しかも、ブッシュ大統領が本当に環境のことを考えてバイオ燃料を使ったのかは疑わしい。「経済成長の足かせになる」として、京都議定書から真先に脱退したのはブッシュ大統領だからだ。また、現実問題として、価格が2倍になったトウモロコシ、大豆、小麦、オレンジは、アメリカの主要輸出農産物だ。穀物高でアメリカの農家は潤っているのだ。

 一方、昨年初めには1バーレル=50ドル台だった原油価格も、120ドルに近づくという高騰を演じている。ここまで原油価格が上昇した一番大きな理由は、中東情勢が不安定だということだ。確かに中国やインドの経済成長で原油需要が増えたことは事実だ。しかし、原油価格は、経済学の想定する需要と供給のバランスで決まっているのではない。原油の生産コストは、1バーレル=3ドル程度と言われている。限界生産コストで価格が決まるなどという経済理論の示す状況には、まったくないのだ。それでは、石油の価格が何で決まるのかと言えば、投機だ。原油価格はニューヨーク商品取引所で決まった価格が世界の石油価格を支配している。そして、この市場には莫大な投機マネーが流入して、相場を動かしている。ただ、いくら投機で価格が決まるといっても、無限に上がり続ける事はない。これまでも原油価格は高騰するたびに、その反動で大きく値を下げてきた。それはOPECがいくらカルテルを結んでも、原油に高値がつくと、こっそり増産して儲けようとする「裏切り者」が出てきたからだ。だが、いま中東は「戦時」なので、裏切り者がでてこない。だから、投機筋が安心して買い進めることができ、原油価格がかつてないレベルにまで高騰してしまったのだ。

 なぜ中東が戦時なのかは明白だろう。アフガニスタン、イラクに対して宣戦布告し、イランにまで武力攻撃を辞さないという姿勢を貫いているのは、ブッシュ大統領なのだ。
 さらに、ブッシュ大統領の「犯罪」はもう一つある。それは金融資本主義を世界中に広めたことだ。穀物や原油価格を上昇させているのは、直接的には金融資本主義が創り出した巨大な投機マネーだ。彼らの儲けのツケが、世界中の消費者にまわってきているのだ。
 ただ、世の中悪いことばかりではない。ブッシュ大統領の任期はあと8か月を切った。それが過ぎれば中東も、世界も、かなり平和になるのではないだろうか。

アメリカ大統領選のニュースが相変わらずメディアを賑わしています。
誰が「新大統領」となるにせよ、その誕生が、
この状況を少しでもいい方向に変えることを願うばかりです。

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