ついに来た。憲法改正を前面に据える内閣の誕生だ。9月1日、広島市内のホテルで自民党総裁選への出馬表明をした安倍晋三氏は、「新たな時代を切り開く日本にふさわしい憲法の制定」を基本政策として打ち出し、当面、憲法改定に必要な国民投票法案の整備を行う方針を明らかにしている。政治というのは恐ろしいもので、国民の意識やあるいは与党議員のコンセンサスを無視して暴走が始まることがありうるのだ。
仕組みは簡単だ。執行部に基本政策で反対すると、選挙で公認を与えない。仮に無所属で立候補しても、対抗馬を立てられ、議員生命を絶たれてしまう。それが、昨年の郵政民営化で明らかになった権力の構造だった。
私は、いまでも与党の過半数は本音では憲法を守ろうと考えているのだと思う。タカ派の森派が最大勢力と言っても、ハト派の津島派は僅差で第二派閥についている。他にも憲法を守ろうという勢力はいまだに大きいのだ。しかし、その津島派が総裁選に立候補することさえできなかった。
もちろん、憲法の改定には国会議員の3分の2の賛成が必要であり、国民投票法案の成立も含めて、何段階もの手続きを踏む必要があるので、すぐに憲法9条が改定されることはない。安倍総理も憲法改正までの時間的目安を5年としている。
しかし、憲法の改定がなくても日本が戦争に巻き込まれるリスクはある。安倍総理が、集団的自衛権は現行憲法下でも、可能となるケースがあるという判断を示しているからだ。憲法をどう読めば、そんな解釈ができるのかまったくの謎だが、いままでも憲法の精神をなし崩し的に、ないがしろにしてきた経緯を考えれば、十分にありうる話だ。
集団的自衛権を行使するということは、事実上、アメリカの戦争に、日本が加担するということだ。世界で最も凶暴で、世界で最も戦争を仕掛けているアメリカに、日本はついていくことになるのだ。戦後、アメリカは一度も防衛のための戦争をしたことがない。いつも先制攻撃だ。しかも、イラク戦争にいたっては、何の証拠もなく、言いがかりをつけて攻撃を開始した。日本はそうした戦争に付き合うことになってしまうのだ。
なぜ、こんなことになってしまったのだろうか。私は小泉前総理の責任が大きいのだと思う。小泉総理は、郵政民営化と自分にしか興味がなかったから、日本の防衛戦略のことなど何も考えていなかった。靖国参拝についても、「国のために戦って亡くなった英霊に哀悼の意を捧げる」というだけのことしか考えていなかっただろう。そして「不戦の誓い」のために参拝するというのも本音だったのだと思う。靖国神社に合祀されているA級戦犯を「戦争犯罪人」と評していることからも、それは推測できる。
そうした小泉総理の無邪気なところが、私は国民に愛されたのだと思う。そのことを示したのが小泉総理の靖国参拝断行後の世論調査だった。それまで、中国や韓国の感情に配慮して、総理大臣は靖国参拝をすべきではないという世論は、ほぼ6割に達していた。ところが、靖国参拝後の世論調査をみると、共同通信調査では51%の国民が「よかった」、読売新聞調査では53%が参拝を「支持」、毎日新聞では50%が参拝を「評価」と、いずれのメディアの調査でも過半数の国民が小泉総理の靖国参拝を支持したのだ。
世間は総理大臣の靖国参拝には反対しながら、小泉総理については「純ちゃんがやるんだから、仕方がないよ」と大目にみてしまったのだ。小泉前総理は、戦争をしたいなんて思っていなかっただろう。しかし、彼の作った権力構造は安倍総理に引き継がれた。安倍総理は確信犯だ。A級戦犯のことも、犯罪人とは認識していない。小泉前総理が作り上げた強い権力を手にした安倍総理は、戦争への道をまっしぐらに走るだろう。
私は小泉前総理と同様に、安倍総理は、憲法改正と自分にしか興味がないのだと思う。だから、大切な経済政策の面で何が起こるか、見えてこないのだ。当初、竹中大臣が引き続きブレーンを務めるとも言われたが、それも竹中大臣の議員辞職で消えた。当面、経済財政担当大臣と自民党政調で政策を作っていくのだろうが、そのサポートをするのは財務省だ。だから、
今後とも財政支出の引き締めと増税が着実に続いていくだろう。つまり、格差は引き続き拡大していくのだ。もし安倍政権が来年の参議院選挙を乗り切れば、消費税の増税を打ち出すとともに、憲法改正への動きを加速化させるだろう。
ただ一つ不幸中の幸いは、そうした政策への道を断ち切るチャンスがたったひとつあることだ。それは、来年の参議院選挙で与党を過半数割れに追い込むことだ。そうなれば、安倍総理は退陣せざるを得なくなるだろう。例え、そこで小泉前総理の再登板ということになったとしても、憲法改定という視点から見れば、安倍総理よりはずっとましだと私は思う。
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