ホームへ
もくじへ
森永卓郎の戦争と平和講座
最新へバックナンバー一覧へ

世界各地で繰り返し起こる無差別テロ事件。
先進国のリーダーたちはテロ根絶の戦いを掲げていますが、
果たして力で封じ込めるテロ対策で、テロは無くなるのでしょうか。

第6回“テロの根本原因は、市場原理が生み出す、不条理な貧困と不公平感”
  7月7日にロンドンで発生した地下鉄とバスに対する同時テロは、イギリス国内で最悪のテロ事件となり、56人の死者がでました。ブレア首相は「イスラム過激派によるテロとみられる」と言明、犯行組織の捜査を世界規模で進めるとともに、テロに対する厳戒態勢を敷いていました。
 ところが7月21日に、同じロンドンで、2週間前のテロをなぞるように、地下鉄とバスを狙った同時爆発事件が起こりました。幸いにして死者はでませんでしたが、ロンドン警視庁は、現場に残っていた不発爆発物が爆発していれば惨事になった可能性があったと指摘しており、再び大きな被害の発生が繰り返されるところでした。
 7月23日には、エジプト東部の保養地シャルムエルシェイクで大規模な爆発が複数回発生し、外国人観光客を含む88人が死亡しました。シャルムエルシェイクは、欧米人やイスラエル人が多く訪れる地域で、イスラム過激派の犯行とみられています。
 ロンドンの最初のテロは、英国・スコットランドで主要国首脳会議(グレンイーグルズ・サミット)の開催期間中に発生しました。そのサミットは、7月8日午後、ブレア英首相が議長総括を発表して閉幕しましたが、議長総括では、ロンドンの同時テロを非難し、主要国(G8)が結束してテロに立ち向かう決意を表明しました。
 私はテロと戦争は本質が同じだと考えています。誰一人として幸せになる人はいませんし、被害を受けるのは何の関係もない一般市民だからです。だから、いくらテロの実行犯が迫害されていたとしても、暴力で、しかも人命を奪うような形で、政治的アピールをすることは絶対に許されるべきではありません。
 しかし、テロ対策を強化することでテロを防ぐことができないということは、ロンドンの2回目のテロが明確に証明しています。力で力を抑え込むことはできないのです。
 最近は、世界ではテロの発生しない週がないほど、多くのテロが発生しています。私はその本質的な原因は、貧困、あるいは耐え難いほどに達した不公平感なのだと考えています。イスラム過激派によるテロが多いのも、世界のなかでイスラム国家は、概して低所得に追い込まれているからです。また、イギリス国内でも、イスラム系住民は現実問題として下層階級を形成しています。
イラスト1
 弱肉強食の市場原理主義が世界を席巻していくなかで、豊かな国と貧しい国の格差が拡大し、国のなかでも豊かな人と貧しい人の格差が拡大しています。数倍の格差であれば、我慢できるのでしょうが、いま起きている格差はそんなものでは済みません。千倍、1万倍の所得格差というのが現実にはついてしまっているのです。それが能力や努力の差によるものだったら、ある程度仕方がない面もありますが、市場原理というのは、努力や能力の差を必要以上に増幅して所得に反映させてしまうのです。
 例えば、いま世界中で数億円から数十億円レベルの所得を得るアメリカ系の金融機関の社員やIT長者が誕生していますが、彼らの能力や努力は一般市民のせいぜい数倍だと私は思います。金持ちになれるかどうかは、努力をしたかどうかというよりも、金持ちのサロンに入れるかどうかで決まる部分の方が圧倒的に大きいのです。
 だから、私は本来の所得分配に戻るように、国際間では経済援助を通じて、国内では累進課税などの所得再分配政策で、本当の努力や能力に見合った所得が得られるように戻していかなければ、不公平感は解消しないのだと思います。
 それをせずに「テロを根絶するための戦いを続ける」と経済的勝ち組の国や人が言ったとしても、それは単に憎悪の連鎖を生むだけだと思うのです。

テロの悪循環を断つためには“力や武器”ではなく、
不条理な不公平を是正する“経済援助や政策”であると、
経済アナリストである森永さんは、説いてくれています。
今後、日本のリーダーたちはテロについてどう考え行動していくのか。
私たちの日常生活にも関わる、非常に気になる問題です。
ご意見募集!
ぜひ、ご意見、ご感想をお寄せください。
このページのアタマへ