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2012-01-25up

鈴木邦男の愛国問答

第91回

品川正治さんと戦争について語り合った

 「東京新聞はいい。今、一番いいです。朝日新聞から東京新聞に変える人が増えてます」と北村肇さん(『週刊金曜日』発行人)が力を入れて言っていた。1月22日(日)、兵庫県西宮市で開かれた「鈴木邦男ゼミ」の時だ。このゼミは2カ月に1回、西宮でやっている。主に関西で活躍している大学の先生や評論家、運動家と僕が対談し、参加者との質疑応答もあり、終わって飲み会もある。今回のように、ゲストも東京から来た、というのは珍しい。
 それに、北村さんは毎日新聞出身だ。それなのに、朝日、毎日よりも東京新聞がいい、と言う。この日は西宮で、原発問題とこれからの日本について話し合った。「この問題についても東京新聞の独走だ」と言う。そういえば、これも東京新聞で連載したものだ、と思いだして、僕も一冊の本を紹介した。
 東京新聞社会部編の『未来に語り継ぐ戦争』(岩波ブックレット)だ。これだけの企画は、他の新聞ではちょっとやらない。だって、毎年8月15日の終戦記念日に掲載している対談をまとめたのだ。見開き二頁を全部使って、戦争を考える対談を毎年やってきた。意欲的だし、これは凄いと思った。週刊誌や月刊誌だって、なかなかやらない。それなのに新聞でやった。それも、戦争を体験した世代と、戦争を知らない世代だ。僕も、戦争を知らない世代として出た。1943年生まれだから、戦争中の生まれだが、赤ん坊だったから戦争のことは全く知らない。だから、ギリギリ、「戦争を知らない世代」に入れてくれた。対談した人は品川正治さんだ。経済同友会終身幹事で、83才だ。僕は64才。ただし、対談が行われた時(2007年8月15日)の年齢だ。年齢差19才だ。
 「老若世代14人が語り合う7本のシリーズ対談」と、本の帯に書かれている。又、「はじめに」では、こう書かれている。
 〈戦争体験者と戦争を知らない世代があの戦争を語り合うことで、未来に引き継ぐ教訓を蓄えていく企画である。年齢が一番離れていた対談は、64歳差だった〉

 そんなに離れているのか。僕らの「19歳差」は一番近いのかもしれない。それに「老若世代14人」とは言えないな、僕らは。「老老世代」か。あるいは「老壮世代」か。ともかく、とてもいい本だし、教えられる。他の6本の対談は、こうした人々だ。
 むのたけじ/雨宮処凛。半藤一利/田口ランディ。野上照代/城戸久枝。飯田進/安田菜津紀。村井志摩子/稲泉連。大城立裕/開沼博。

 では、僕たちの対談についてだ。品川さんはまず言う。
 〈戦争を見るときは兵隊の立場で見てほしい。将校の立場からでは、国民の大多数の立場には立てません。財界では、経団連会長だった平岩外四さん(故人)が陸軍の兵隊でした。ダイエー創業者の中内功さん(故人)も兵隊でした。あの二人は戦争に際して一般の財界人とは距離を置いた格好を取っていましたね〉

 将校の立場の戦争論が余りにも多すぎると思っていただけに、品川さんの発言には納得させられた。将校の立場だと、「あの時、ここを攻めていれば」「こうしたら勝てたのに」とゲーム感覚になる。兵隊の立場や一般の国民のことは考えない。「そんなことを考えていたら、戦争は出来ない」というのだろう。あの時は失敗したが、こうしたら勝てた」という話ばかりになる。「こうしたら勝てた」、「次はこうしたらいい」となると、「次の戦争」を想定する。「次」をやってはダメだ。「次」はないように考えるのが政治だ。その上で、憲法や国民投票、軍隊の話をした。対談というよりも、品川さんに僕が一方的に質問をしたかんじだった。
 一番驚いたのは、軍隊内におけるリンチのことだ。陰湿なリンチがよく行われたと言われる。その実態を聞こうと思ったのだ。ところが、「自分たちの部隊では全くなかった」と言う。エッ? と驚いた。そして、正直な人だと思った。普通、反戦派の人なら、たとえ自分が体験しなくても、「軍隊にはリンチが横行していた。こんな話を聞いた。こんな話もあった」と、伝聞でも、声高に言うだろう。それで、いかに軍隊がひどかったか、戦争が残酷かを強調しようとする。
 でも、品川さんのところでは、なかった、という。「陰湿なリンチなどは内地で行われた。あるいは外地でも、敵と闘ってないところで起こった」と言う。敵と接して、日常的に闘っているところは、敵と闘うことに忙しくて、リンチなどしているヒマはない。又、部下は「貴重な戦力」であり「武器」だ。それを傷つけることがあってはならない。そう思うのだ。品川さんは言っていた。
 〈中国には当時、百万の日本の占領軍が各地にいたんですが、私が所属したのは戦闘部隊でした。入隊の初日から、強い衝撃を受けました。連隊長が一緒に入った百人を並べて、全連隊の将兵に訓示をしたんです。「一列に並んでいる兵隊の顔をよく見ておけ。この男たちは死にに行くんだ。殴ったやつは斬る」と。死にに行く者だと、はっきり区別されている部隊だったんです〉

 悲愴だし、残酷だ。前線だからこそ、リンチは禁止だし、「殴ったやつは斬る」となる。話は変わるが、元・連合赤軍兵士の植垣康博さんとはよく会っている。彼は、連赤事件に参加し、27年、獄中にいた人だ。今は、静岡市で「バロン」というスナックをやっている。彼に、『未来を語り継ぐ戦争』を送って、読んでもらった。連合赤軍のリンチも、山の中で、いわば前線でないところで起こっている。機動隊と向き合って闘っている時は、とてもリンチをやるヒマはないし、「自分たちの戦力」を傷つけるわけにはいかない。「全く同じですよ」と植垣さんは言う。いい意味の「敵」というか、ライバルは必要だ。いい闘いも必要だ。それがないと、内に敵を求める。今の日本も同じじゃないか。連赤化する日本だ。戦争が終わって67年。連合赤軍事件から40年。似ている。そして、今の我々が、教訓を学んでいないということも同じだ。
 そうだ、次は「岩波ブックレット」で、『未来に語り継ぐ連合赤軍』をやってもらったらいい。あれっ、前にも「岩波ブックレット」に出たよな、と思って探したら、あった。4年前だ。マガジン9条編『使える9条』だ。そうだ、これを契機に、僕のこの連載も始まったのだ。『使える9条』は「岩波ブックレット No.721」だ。『未来に語り継ぐ戦争』は「岩波ブックレット No.826」だ。4年の間に、100冊も出てるのか。
 そもそもの始まりは、07年の7月だ。「マガジン9条」のインタビューを受けた。高田馬場のホテルサンルートだったと思う。それが7月25日にアップされた。そして、岩波ブックレット『使える9条』に入った。08年4月9日だ。「12人が語る憲法の活かしかた」と銘打っている。半藤一利さん、永井愛さん、鎌仲ひとみさんなどだ。僕は何を喋っているんだろうと見たら。
 「愛国とは、強要されるものじゃない」
 そして、
 「本当は、外に対してはへりくだって、弊国、愚国と呼ぶくらいでちょうどいいのに」

 凄いことを言ってる。このブックレットが発売されて、2カ月後に、僕のこの連載「鈴木邦男の愛国問答」が始まっている。08年6月4日スタートだ。そして今、4年目だ。この連載を中心にして、まとめて、去年『愛国と憂国と売国』(集英社新書)が発売された。全ては「マガジン9」のおかげです。おせわになってます。そして、集英社にもおせわになりました。又、この連載の開始に力があったのが「岩波ブックレット」だった。と思っている。ありがたいです。

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こちらこそお世話になっております、というわけで、
スタートから4年半が経ちましたが、
いつも新鮮な視点を提供してくれる鈴木さんのコラム。
外ではなく内に敵を求める、「連赤化する日本」という指摘も、
いろいろ考えていくとかなり怖い?
皆さんはどう考えますか?

ご意見・ご感想をお寄せください。

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鈴木邦男さんプロフィール

すずき くにお1943年福島県に生まれる。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』(ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。近著に『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)がある。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ!」

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