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2011-09-28up

鈴木邦男の愛国問答

第83回

映画『金正日』を見た

 週刊金曜日の18周年記念大会が9月10日(土)、神田の日本教育会館で行われたので聞きに行った。反原発の話が中心で、第二部では、僕も指名されて「右から考える脱原発集会&デモ」について話をした。7月31日(日)の芝公園と、9月3日(土)の横浜と、2回行われた。人数は少ないながら、TBSや「東京新聞」で大きく取り上げられた。このあと、9月18日(日)には、野田新総理の地元・船橋でも行われた。この時の様子は「週刊SPA!」の9月27日(火)発売号で取り上げられた。又、デモ主催者の針谷大輔氏(統一戦線義勇軍議長)と僕らの座談会も載った。人数は少ないデモだったが、「右翼も反原発か!」と驚きがあって取り上げられたようだ。その意味では効果のあったデモだと思う。針谷氏が勇気を持って決断したからだ。昔だったら「左翼かぶれだ!」「左翼を利する!」「売国奴だ!」と批判されただろう。しかし今、針谷氏の決断は右翼内部からも評価されている。

 さて、9月10日の週刊金曜日の集会だ。午後4時過ぎに終わった。知り合いの人達に「メシでも食おうや」と誘われたが、「これから同窓会があるので」と断った。東北学院榴ケ岡高校の同窓会が午後6時からある。仙台の高校だが、この日は、東京在住の人間だけで集まる。それで、地下鉄の駅に急いだ。

 その時だった。「金正日」とデカデカと書かれ、顔が出ている。電柱に貼られた映画のポスターだ。凄い! こんな映画があったのか。と驚いた。よく見たら、渡辺文樹監督と書かれている。納得だ。こんな危ない映画を創るのは、日本でもたった一人しかいない。やっぱり、この人か。上映日が書かれている。急いでメモをした。9月13日(火)午後3時、千歳烏山区民会館だ。それで当日、見に行った。

 しかし、渡辺映画に出会うのは大変だ。ホームページはないし、どこにも告知しない。全国をまわって、ゲリラ的に上映する。その会場の近くに自分でポスターを貼る。それを見た人しか行けない。探すのが大変だ。でも、そのくらいの熱心な人にだけ見てもらいたい。と言うのだ。

 でも最近は、月刊『創』のHPに出ることもある。又、ポスターを見た人がツイッターで呟いてくれることがある。だから、それで探せる。

 渡辺監督は、日本一危ない監督だ。「ザザンボ」「島国根性」「家庭教師」という問題作があり、「天皇伝説」では全国の右翼から総攻撃を受けた。その他にも、「三島由紀夫」「腹腹時計」「赤報隊」といった危ない作品がある。そして今度は「金正日」だ。

 僕が6月末に出した『新・言論の覚悟』(創出版)には、渡辺監督との対談が載っている。<「天皇伝説」をめぐる右翼との激論>だ。孝明天皇は毒殺された。明治天皇はすり替わっている…といった「伝説」「風評」を基にした凄まじい映画だ。いわば「反天皇映画」だ。これを見て、僕は、渡辺監督とロフトプラスワンで討論することになった。対決だ。その前に、映画を見なくてはならない。横浜で上映してるので見に行った。外は警察と右翼の街宣車で一杯だ。入ろうとしたら、右翼に取り囲まれた。「何でこんな反天皇映画を見るんだ!」「国賊め!」と。

 天皇問題では僕は渡辺監督とは考えが違う。毒殺やすり替えなどあり得ないと思っている。だから、ロフトで対決する。そのために映画を見るんだ、と言っても右翼は納得しない。「国賊・渡辺と話すこと自体が許せない!」「こんな映画を見るのは売国奴だ!」と口々にののしる。大変だった。やっとのことで中に入り、見た。

 さらにロフトでやった渡辺監督との対談も凄かった。右翼が大挙して押しかけ、客席から怒鳴りまくる。それに対し渡辺監督も一歩もひかない。「そんなに怒るんなら、スクリーンくらい切ってみせろよ!」と挑発する。ビックリした。こんなことを右翼に向かって言う人はいない。右翼も立ち上がり、つめよる。一触即発だ。場内騒然だ。そんな状況が、この本の中でもリアルに再現されている。

 渡辺監督は体はゴツイし、腕なんて丸太のように太い。「右翼なら、正々堂々と、一対一で決闘しよう!」と言うだろう。そう言われたら、右翼だってひるむ。僕だって、こんな凶暴な人とは闘いたくない。全国どこでも右翼の街宣車が押しかけるが、監督に手を出す人はいない。監督の方が、右翼よりも、ずっと捨て鉢の覚悟がある。いつ捕まってもいいと思ってるし(実際何度も捕まっている)、映画の為なら殺されてもいいと思っている。こんな覚悟をもった人間には誰も敵わない。

 「先週もビラ貼りで捕まりました」と言っていた。又、ロケで泊まった旅館の支払いがちょっと遅れただけで、「無銭飲食」で捕まったことがある。又、会場を借りたら、会場側が警察に言われて怖くなり、一方的に断った。不当だと言って監督が文句を言いに行ったら、職員がいきなり自分から倒れた。「あれ、どうしたの?」と思っていたら、隣の部屋に控えていた警察官がドドドッと入ってきて、「お前が殴って、突き倒した!」と言って逮捕した。そんなことばかりが多い。

 この時は、何と徳島刑務所に入れられた。かわいそうなので、僕は徳島まで面会に行った。しかし、凄い人だ。警察に弾圧され、右翼に攻撃されながら、断固として闘っている。たった一人で闘っている。考え方の違いは別にして、その行動力と覚悟には圧倒されている。脱帽だ。

 新作「金正日」も凄い映画だった。無能な日本政府の対応に我慢がならず、渡辺(主演も本人だ)たちは海を渡り、北朝鮮に潜入する。そして、拉致被害者を見つけ、救け出す。その間に、金正日も出てくるし、北朝鮮軍との戦闘もあり、走る列車の上でのアクションもある。今までと違い、随分と人間も使い、金も使っている。アッと驚くアクション大作だ。

 「これじゃ右翼も大喜びですよ」と言ったら監督はムッとしていた。でも、「今度、大阪で1週間やるんで、ゲストで来て下さいよ」と言う。いいですよ、と引き受けて、9月23日(金)に行った。大阪市福島区玉川にある油野美術館だった。9月22日(木)から29日(木)までだ(29日(木)は午後1時から「三島由紀夫」。2時40分から「赤報隊」。6時30分から「金正日」だ。興味のある人は行ってみたらいいだろう。油野美術館の電話は06(7504)7831だ)。

 僕が行った9月23日(金)は、5時半からトークだった。毎日、映画の合間に1時間、トークをやっている。

 「鈴木さんは最近ダメになった。“話し合いだ”なんて言って、すっかり闘う覚悟がなくなってしまった。失望した!」と、いきなり言われた。わざわざ大阪まで呼んでおきながら、喧嘩を売られた。「自分はいつ死んでもいい覚悟で闘っている。しかし、鈴木さんはマスコミに出て、闘争心を失った」と言う。「はいはい、そうですね。反省してます」と言っておいた。それから、どこからこんな映画の構想が生まれるのかを、じっくり聞いた。こうしたら、こうやれるということも分かっている。もっと楽な方法もある。しかし、監督はやらない。あくまでも正直に、愚直に己の道を進む。偉い。たった一人でも覚悟したら、何でも出来るんだ。同じことをやれとは言わないが、他の監督や映画人も少しは見習ってほしいと思う。

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「考え方の違いは別にして」、
いろんな立場の人ときちんと敬意を持って向き合い、
意見を闘わせる。
鈴木さんの幅広すぎる交友関係は、
まさにその姿勢からこそ生まれているんだなあ、と改めて思います。

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鈴木邦男さんプロフィール

すずき くにお1943年福島県に生まれる。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』(ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。近著に『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)がある。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ!」

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