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「マガ」と「ジン」のコラムリコラム
第24回:もう一度、普天間問題を考えてみる

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マガ  オバマ大統領、寒風の街を駆け抜けて行った、という感じの訪日だったね。

ジン  結局、鳩山首相との会談は約90分間。それも、二人きりのサシの会談ではなく、閣僚たちも交えてのものだった。どうも、最初に予定していたようなものにはならなかったみたいだね。

マガ  うん、我々が関心を寄せていた「普天間基地」問題については、最初から議題には取り上げない方針だと言っていたらしいし。

ジン  鳩山首相は、腹を割って話をすれば、オバマ大統領なら分かってくれるんじゃないか、と思い込んでいた節がある。オバマ大統領が懸案の医療保険問題で共和党に攻め込まれている辛さを抱えているだけに、同じような普天間問題の辛さを、彼なら理解してくれるかもしれない、と思っていたようだ。鳩山首相はそんな感触を、以前オバマ大統領に会ったときに抱いたらしい。“友愛”の精神が、この人になら通じる、とね。

マガ  諸般の事情から、その精神が通じなかったわけだ。

ジン  しかしそれでもまだ、鳩山首相は信じているようだよ。APEC(アジア太平洋経済協力会議)が開かれていたシンガポールで、鳩山首相は、かなり突っ込んだ発言をしている。朝日新聞(11月15日付)は次のように報じていた。

<(見出し)普天間移設 日米作業部会
      首相「合意、前提ではない」

 (記事)鳩山由紀夫首相は14日、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題で開かれることになっている日米閣僚級の作業部会での協議について、「日米合意が前提ではない」と記者団に語った。作業部会では、06年5月に日米両政府間で合意した同県名護市辺野古への移設計画にとらわれず、合意の見直しを含めて検討したいとの考えを強調したものだ。
 オバマ大統領は13日の鳩山首相との共同記者会見で、「部会は日米合意に焦点を絞る」と明言していた。首相は14日にこの点を記者団に問われ、「日米合意が前提だとオバマ首相は思いたいのだろうが、日米合意が前提なら作業部会をつくる必要がない。答えが決まっているなかで、作業部会をつくる意味もない」と語った。
 首相はまた、前日の共同記者会見に先立つ首脳会談では自ら「日米合意は重い」と言及したことを紹介。一方で、会談の場では大統領から日米合意の履行を求められたわけではないとの受け止めも示した。首相としては、日米合意の重要性は理解するものの、あくまで作業部会の検討対象は日米合意に限らないとの首相の立場を明確にする意図がある。普天間移設問題をめぐる日米首脳の認識のずれが明らかになった形だ。(略)>

 鳩山首相は同じ発言を16日にも繰り返している。「一方的な思い込みだ」という批判もあるけど、これはかなり思い切った発言だね。一国の首相が「そう簡単に貴国の言いなりにはなりませんよ」と言ったわけだ。しかも、したたかだと思うのは、その一方で「東アジア共同体構想は、あくまで日米を基軸にしたもの」というメッセージも発していることだ。

マガ  日本はアメリカを外した形での東アジア共同体構想を持っているのではないか、というアメリカの疑念を拭おうというということだよね。

ジン  そう。世界の景気は依然として低迷している。その中で、世界の域内総生産(GDP)の5割以上をAPEC地域が占めているという現状がある。アメリカは、それを取り込まなければ景気回復のめどが立たない。ここで日本によって“アメリカ・パッシング(アメリカ外し)”をされたらたまったもんじゃない。その辺を天秤にかけての発言だとしたら、鳩山首相は世間が思っている以上に手強い外交技術を展開している、という見方もできるんじゃないかな。

マガ  そうだね。“友愛の精神”からしたら、苦しんでいる沖縄県民を見過ごしにはできないはずだからね。

変わり始めた知事と市長の意見

ジン  沖縄県民の苦しみは一過性のものじゃない。特に米軍基地被害は、戦後60年以上にわたって続いてきている苦しみだ。ところが政権交代によって、ほんとうに初めてといっていい“希望の火”が点された。火が燃え上がらないわけがない。辺野古移設論者だった仲井真弘多沖縄県知事や島袋吉和名護市長なども、県民の動きを見て、かなり考え方が揺れ始めている。

マガ  11月8日の2万人以上を集めた普天間基地撤去と辺野古移設反対県民大会の盛り上がりを見れば、従来の考え方に固執し続けるのは無理だと判断せざるを得ないと思うよ。

ジン  そうだね。読売新聞(11月3日付)は、こう書いている。

<沖縄県の仲井真弘多知事は12日、訪米を終えて到着した那覇空港で記者会見を開いた。米海兵隊普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設予定地、同県名護市の島袋吉和市長が同日、鳩山内閣から普天間の早期返還につながる代替案が提示されれば現計画に固執しないと表明したことについて、「私も考えを改めるべきか検討したい」として、同調する可能性も示唆した。>

 つまり、「今までは辺野古移設を掲げてきたが、別の案があればそれでもいい」ということを、初めて言明したわけだ。

マガ  県民の意志は尊重せざるを得ない、ということだね。

ジン  しかし、事はそう簡単じゃない。例えば島袋市長の発言について、琉球朝日放送が11月2日に流したニュースはこう伝えている。

<名護市の島袋市長は、1日に全国紙が基地の受け入れ撤回を名護市が検討していると報道したことに対して、「そんなことは話したことがない」と、完全に否定しました。
2日朝、名護市役所で報道陣に囲まれた島袋市長は、「名護市が移設受け入れの撤回を検討しているという報道が一部であるが」との記者の質問に、「そんなことは話したことはない。びっくりしている。名護市民を翻弄する記事を書かないでほしい」と述べ記事の内容を完全に否定しました。>

 11月2日には、島袋市長は“辺野古移設受け入れ”を強調していたわけだ。しかし上の読売新聞が伝えているように、島袋市長は11日には「辺野古案には固執しない」と発言を変化させている。たった10日間で、考え方を大転換せざるを得なくなったわけだ。鳩山内閣の閣僚たちの発言に一喜一憂している沖縄の現状が垣間見えてくる。

マガ  でも、辺野古移設に賛成だった知事や市長までが、こういうふうに考えを改めざるを得なくなるところまで追い込まれているのに、もしこれが元通りの辺野古案で落ち着くようなことになれば、それこそ、沖縄県民はもう一切、日本政府を信じなくなるだろうね。

ジン  だから、それを理解した上で鳩山首相がああいう発言をしているとなれば、それこそ鳩山首相の決意も相当なものだと思ってもいいことになる。

マガ  ぜひ、それを貫いて欲しい。

米国への背信行為?

マガ  鳩山首相は、来年1月の名護市長選の結果も重視しているようだけど、もう一度、選挙結果によって沖縄県民の意志を確かめたい、との思いもあるんだろうね。

ジン  それについては、「いつまで結論を先送りにするのか」という厳しい批判があることも事実だ。こんな意見もある。毎日新聞(16日付)だ。

<自民党の石破茂政調会長は15日、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の同県名護市への移設を前提にしないとの鳩山首相の発言について「米国への背信行為だ。日米関係に重大な影響を及ぼすことを懸念する」と強く批判した。東京都内で記者団に語った。
 石破氏は「(来年1月の名護)市長選の結果で『民意が示された』というのは、政府の責任放棄だ」とも述べ、年内に結論を出すべきだと指摘した。(以下略)>

 ここで石破政調会長が強調しているのは“米国への背信行為”ということ。決して“沖縄県民への背信”ではない。「アメリカと沖縄県民の、いったいどちらを優先するのか」と石破氏に問い質したくなるな。「市長選の結果で『民意が示された』というのは政府の責任放棄だ」と言うのもおかしい。では、選挙の結果は無視していいというのか。

マガ  でも、その記事の石破さんの発言は、もはや名護市長選では移設賛成派が負けることが前提になっているような言い方だね。どうせ負ける。負ければいっそう移設賛成派は追い込まれる。それなら負ける前にさっさと辺野古移設に決めてしまえ、ということだもんね。

ジン  沖縄の県民世論が堰を切ったように、普天間の県外・海外移設、辺野古移設反対に流れているからね。石破氏にしてみれば、名護市長選の結果には触れたくない。触れればヤブヘビになる。

マガ  結局、これまでの自民党政権が行ってきた対米外交を修正されるのが許せない、と言っているだけに過ぎないような気もするんだけど。

ジン  いや、そうではなく、彼は安全保障上の理由が大きいと言うんだ。「代替案もなしに勝手なことを言うな。普天間基地を単純に閉鎖したら、日米同盟が壊れて日本の安全保障上、大変なマイナスになる」ということなんだ。しかし、仮にどうしてもヘリ基地が必要だとしても、アメリカは太平洋にグアムやサイパン、さらには米領サモアなんてところまで持っている。なぜそこではいけないのか。日本領であっても、硫黄島ではなぜダメか。実際に、硫黄島では米軍は訓練実績を持っている。できないことじゃない。最初から“辺野古ありき”では、それこそ議論が進まない。辺野古前提を一端白紙にして議論することがなぜできないのか。

マガ  それでは、時間がかかりすぎる、ということでしょ?

ジン  時間がかかるから、沖縄県民は我慢しなさい、か?

マガ  なぜアメリカがここまで固執するのか、ほんとうのところを知りたいね。

日米の考えが違っては、なぜいけないのか

ジン  アメリカ側が沖縄基地を絶対に手放したくないという本音は、アジア地域の安全保障ではなくて、実は日本の軍国主義復活に対する牽制、いわゆる「ビンのふた」論、つまり旧日本軍みたいな戦前体制の復活を防ぐという意図が大きいのだ、という見方もある。何しろ、あの田母神俊雄元航空幕僚長のような人が、実際に自衛隊の最高幹部の一人として、隊員の教育に当たっていたわけだから、その危惧がまったくの的外れだったわけじゃない。

マガ  確かに、戦前礼賛の考え方だもんね。そういえば、安倍晋三元首相だって、しきりに「戦後レジームからの脱却」を主張する戦前回帰型思考だったな。

ジン  これまでの自民党政府内部には、そういう核保有論も含めた戦前回帰論者がいたことは事実だけど、民主党政権に代わって、その怖れは多少だが軽減された。アメリカも共和党から民主党へ交代した。そこで、その「ビンのふた」論はあまり有効ではなくなった。だから、いまこそ日本側が普天間基地撤去を言い出す絶好の機会だ、と考えた人たちが鳩山首相の外交ブレーンの中にいる、とも言われているんだ。これが、鳩山首相の発言の裏にあるのかもしれないな。

マガ  日本は放っておけば何をするか分からない、という「日本異質論」がアメリカにはあるんだろうな。

ジン  それがある限り「対等な日米関係」の構築は難しい。そこをどう払拭していけるかが、鍵になるだろうね。

マガ  それにしても、なかなか民主党政権内のこの問題に対する閣僚間の意見もまとまらないね。

ジン  17日の衆院外務委員会では、自民党の元防衛庁長官だった中谷元氏が岡田外相に「鳩山首相とオバマ大統領の意見が、普天間基地に関して大きく食い違っている。これは外交上、重大な失態だ。」と追求していた。でもこれも随分おかしな話だ。二つの国の首脳の意見が食い違うことが、なぜ失態なのか。国が違うのだから、意見が違うのも当然じゃないか。「アメリカの言うことと日本の言うことが違うのが問題だ」という認識のほうがよっぽど問題だと思うな。アメリカの言うことを聞いていれば何事も平穏に収まる、という旧来の外交姿勢が、いまだに自民党の考え方なんだろうな。これじゃあ、自民党の政権復帰は難しい。

マガ  そうね。もう少し、従来と違った政策を国民の前に提示できないと、自民党離れは加速するかもしれないね。

ジン  今週は別の話題にしようと思っていたんだけど、また普天間になってしまったね。

マガ  それだけ重要なことなんだよ。絶対に、忘れてはいけないことだからね。

(放光院+α)

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