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「マガ」と「ジン」のコラムリコラム
第23回:普天間基地問題をめぐるマスコミの責任

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マガ  アメリカ・テキサス州のフォートフッド基地で、5日に銃乱射事件が起きて、またしても多数の死傷者が出てしまった。その追悼式に出席するということで1日遅れるけど、もうすぐ(11月13日)オバマ大統領が来日する。鳩山首相との間で、いろんな問題が話し合われるだろうけど、やっぱり一番気になるのは「普天間基地」のことだよね。

ジン  この8日には、沖縄の宜野湾海浜公園で「辺野古への新基地建設と県内移設に反対する県民大会」が開かれた。8千人収容の会場を予定していたけど、それを大幅に上回る2万1千人(主催者発表)が参加したので、周辺の道路にまで人が溢れていたという。それほどの熱気に満ちていたわけだ。沖縄では新聞の号外が出たほどの大ニュースだったけど、残念ながら本土では、あまり大きな扱いを受けてはいない。東京や京都でもかなり大規模な反対集会が開かれたけど、これもほとんど報道されなかったな。

マガ  そう、9日は新聞各紙の朝刊が休刊日だったし、テレビは例の酒井のりピーの執行猶予判決がどうのこうのとそればっかり。まったく、テレビは出来事の軽重が分かっていない。というより、視聴者の程度をバカにしているんじゃないかと思うね。

ジン  先の衆院選で、沖縄ではすべての選挙区で辺野古移設反対の候補者が当選した。それを考えてみれば、県民大会の成功は当然のことで、県民の悲願の表れだと思う。その県民の悲痛な願いを、鳩山首相はオバマ大統領に、きっちりと伝える義務がある。

マガ  それは伝えるんじゃないの? そうでなければ政権交代の意味がないよ。

ジン  ぜひ、そうして欲しい。それにしても、当の仲井真沖縄県知事は「県外移設が理想だが、現状ではやはり県内移設もやむをえない」と発言。自分の県の民意を考えていないと言うしかないけど、仲井真知事とともに訪米中だった神奈川県の松沢成文知事が5日午後(日本時間6日午前)の米国内での講演で、「普天間基地の県外国外への移設はほぼ不可能。辺野古移設しか解決策はないだろう」と語ったという。他県の人たちの悲痛な忍耐など知ったことではない、ということなのか、人間の痛みに対する想像力の欠如を感じるね。でも、自分のところの神奈川県の米軍基地も容認している人だから、仕方ないのかもしれないけど。それについては、琉球新報に強い批判記事が出ていた(11月9日付)。

<(略)渉外知事会として仲井真弘多知事と共に米国を訪問中の松沢成文神奈川県知事が、辺野古移設の実施を求めた6日の発言について、(県民大会実行委員会の)共同代表の玉城義和県議は「渉外知事会は基地被害を減らすことを考える組織であり、県民の気持ちを踏みにじる行為は許せない」と厳しく批判。実行委から県民大会として、松沢知事への抗議を行うことが緊急提起され、承認された。>

マガ  まったくだ。それなら神奈川県でもっと多くの米軍基地を引き受ければいい。辺野古じゃなく、横須賀にでも普天間基地を引き取ったらどうかね。そんなことは口が裂けてもいえないくせに。

ジン  しかし、各マスコミの社説を毎日新聞がまとめてくれていたけど、普天間基地移設問題に関しては、相変わらず読売と日経が不安を煽っているね。毎日新聞(11月8日付)の記事を引用しよう。

<(略)鳩山政権の外交・安保政策が日米同盟に与える影響への不安を強調したのが読売、日経だ。(略)読売は「この問題の扱いを誤れば、日米同盟を弱体化させる。鳩山内閣には、そんな危機感が欠如しているのではないか」と厳しく批判し、名護市沿岸部に移設する現行計画を支持する決断を首相に求めた。
 日経も「首相は具体策への言及を避ける場面が目立った。政権の基本政策があいまいなままでは不安がぬぐえない」と指摘、首相が米軍再編問題や対テロ活動の支援策を収拾するよう促した。(略)>


 いつものことだけど、ここにはアメリカのご機嫌を損ねたら“同盟”が危うくなる、という指摘しか読み取れない。沖縄県民を犠牲にしても日米同盟のほうが大切ということだ。なぜ米軍基地が沖縄に集中しているのか、なぜ沖縄でなければならないのか、という根源的な問いも、それへの真摯な検証も何もない。

マガ  そう。2週前のこのコラムでジンが言ってくれたけれど、なぜ普天間基地が必要なのか、なぜ基地閉鎖ではいけないのか、という視点もまったくないよね。マスコミは、米政府の言い分しか伝えていない。

ジン  ほんとうにそうだな。例えば、岡留さんがコラム「沖縄の深層」でしきりに提言しているように、「普天間基地を硫黄島へ」というアイデアだって、マスコミはほとんど検証した形跡がない。グアムやサイパンへ移すことはできないのか。それこそ、きみが先日出してくれた途方もない奇想天外のアイデア、「日本各地の使われていない空港に少数ずつ移転させてはどうか」なんてことだって検証してみてもいいんだよ。選択肢の一つとしてね。

マガ  マスコミって、自社にたくさんの軍事専門記者や国際政治に精通したジャーナリストを抱えているはずだろ? それなのに、どうして代替案を提示できないのかね。

ジン  その通りだよ。多くのマスコミが言うのは「これまで日米政府間で検討しつくしてきた結果が辺野古移設案だ。他の案は、残念ながらすべて否定されている」ということだけだ。しかし、多くの専門家を抱えているはずの各大手マスコミが、独自に、そして真剣に他の移設案や基地閉鎖案を検証した記事を載せたことはこれまでほとんどない。いつだって「政府の説明によれば」とか「外務省と防衛省の検討の結果では」、さらには「アメリカ側の強い要望として」などという報道しかしてこなかった。なぜグアムやサイパン移設ではダメなのかを、自社で独自に明確に検証してくれた記事にはお目にかかったことがない。これで報道機関の役割を果たしているつもりなのか、大いに疑問だよ。日本政府の発表や米政府の意向・要望を伝えるだけで、自らは何の調査も検証もしないのなら、マスコミなんていらない。

マガ  まったくその通りだね。ただ政府の言い分やアメリカの恫喝じみた発表を伝えるだけじゃ、何のためのマスコミかと言いたくなる。

ジン  でも、ときどき漏れてくる情報もある。例えば岡留さん提案の硫黄島移設案だが、これには米軍が絶対反対している。その理由は、「生活環境面に問題がある」ということだという。

マガ  まあ、厳しい絶海の孤島だからね。

ジン  いや、そういうことじゃない。「米軍兵士たちが息抜きに“遊ぶ場所”がないからだ」というのが最大の理由だというんだ。つまり、米軍兵士にとっての“生活環境面”とは、“息抜きに遊べる場所”ということなんだそうだよ。

マガ  ぐふっ! 何という…。

ジン  それからマスコミに多いのが「辺野古移設を中止すれば、米政府内部の知日派や親日派の離反を招き、結局は日本にとって不利になるが、それでもいいのか」という論調だ。読売や産経は、これを強調し続けているね。しかし、知日派はともかく、親日派の米政府高官なんてどこにいるのか? そんなのいやしないよ。親日派米政府高官などというのは、かつての自民党政府要人や外務省や防衛省の高級官僚と、利権や癒着を通じて親しくなっていただけの存在だよ。

マガ  そうか、例の軍需商社・山田洋行絡みの防衛省汚職事件で、守屋武昌元防衛事務次官や日米平和・文化交流協会とかいう胡散臭い団体の秋山直紀理事らが逮捕されたけど、そういう癒着や利権をめぐって、アメリカの親日派と称される連中が暗躍していたわけだ。

ジン  そういうことだ。彼らの言う“親日”とは、日本そのものを理解していたということとはまったく違うんだ。どれだけ経済的政治的な旨味を得られるか、その度合いを計るのが“親日度”というわけさ。もちろん、文化面ではきちんと日本文化を理解してくれる“真の親日家”もいるけれど、政治経済面では利益こそが日米の絆なんだ。それに、日本の旧来の政治家は、米政府高官とパイプを持っているだけで、政府部内で大きな力を持つことができた。つまり「アメリカ様はこうおっしゃっていますよ」と、誰よりも早く言えることがすなわち、日本政府内での自らの立場の強化につながったからだ。

マガ  なるほど。でも同じことは、マスコミにも言えるんじゃないの? 米高官とどれだけ親しいかで社内で大きな顔ができる。出世にも役立つ。

ジン  それもあるかもしれないね。本来なら、極秘情報をさまざまなルートから入手してスクープする、というのが外信部記者の役割だろうに、今ではアメリカが流す自国に都合のいい情報しか伝えない。だから「アメリカ側は辺野古以外の移設案には絶対に合意しない」と書き続けるわけだ。しかし、「沖縄は日本である」という究極の立脚点を忘れている。アメリカがどう言おうが、日本人である沖縄県民を犠牲にしていいわけはない。自国民の犠牲の上に立つ民主主義とは、いったい何なのか。

マガ  そういえば、11月7日の「太田光の私が総理大臣になったら…秘書田中」(日本テレビ系)で、森本敏拓殖大学教授が「日米同盟は沖縄県民の犠牲の上に成り立っている」とはっきり言明し、それを石破茂自民党政調会長も明確に肯定していたね。

ジン  それが自民党の多くの人たちの本音だろう。政治記者たちにとってはあまりに当たり前のことだから、いまさら報道する価値もないと思っている。

マガ  その上、この経済危機状況の中で、辺野古基地建設に日本は約4000億円を投じようとしているんだってね。もちろんこれは初期試算だから、いつもの公共工事と同じように、始まってしまえばとても4000億円じゃすまない、倍はかかるだろうとも言われているらしいけど。日本はとことん人が好い。

軍事基地が必然的に宿す病理

ジン  最初にも話が出たけれど、テキサスのフォートフッド基地での乱射事件、容疑者は精神科医だというね。兵士の心をケアするべき精神科医自身が病んでいる。戦争は、戦場だけではない。平穏な場所にあるはずの基地にも荒廃は広がる。沖縄での米兵犯罪が減らないのは、軍事基地という存在そのものが病理を宿している証拠だろう。軍事基地は、たとえ平和な地域にあったとしても、戦地に直結しているわけだからね。

マガ  7日には沖縄読谷村で、またしても米兵によると見られる轢き逃げ事件が起きて、外間政和さん(66)が死亡した。

ジン  兵士自体を批判するつもりはないけど、戦争ということが常に頭にある人間と、普通の生活をしている一般人とでは、その思考方法において違いがあるのは当然だと思うよ。アメリカが戦争を続けている以上、それは仕方がない。米軍はイラクからアフガンへと戦場を移しつつあるけれど、アフガンはすでに泥沼状態で、かつてのベトナムの再現かとも言われている。沖縄であろうとテキサスであろうと軍事基地である以上、いつか自分が戦場の泥沼に連れ出されるかもしれないという不安は、常に兵士の心を捉えているはずだ。イラクやアフガンから帰った兵士のうち、かなりの数の人たちがPTSD(心的外傷後ストレス障害)の重い症状を示し、通常の生活に復帰できないという報告もある。

マガ  心的傷害だけじゃなく、肉体的物理的にTBI(脳損傷)を受けて精神に異常をきたしている人も多いと聞くよ。

ジン  その悲惨さ克明に伝えてくれる本に『冬の兵士 ─イラン・アフガン帰還米兵が語る戦場の真実』(反戦イラク帰還兵の会、アーロン・グランツ、岩波書店、1995円+税)がある。これは、実に恐ろしい本だ。“本当のこと”の恐ろしさにこれほど肉声で迫った本も珍しいと思うよ。

マガ  帰還兵たちの証言を集めた本だね。

ジン  そう。殺人を平然と行えるように、兵士たちがいかに非人間化されていくか。その結果、路上の人間すべてを敵とみなし、物売りやタクシー運転手、通りすがりの人たちまでを無感覚に射殺していく。そしてそれが勲功とされ、遺体と一緒の記念撮影を笑顔で行うようになる。そういう兵士が平和な町へ帰ってきて、すんなりと平和な暮らしに溶け込めるはずがない。その結果、アメリカ国内でいったい何が起きているか。毎日18人もの帰還兵が自殺し、治療中の元兵士のうち毎月1000人が自殺を試みて、戦死する兵士よりも自殺する帰還兵の数のほうが多い、というような異常な統計も紹介されている。

マガ  その基地がどこにあろうとも、戦時の軍事基地ほど危険なものはない、ということだね。まさに、それが沖縄の米軍基地のひとつの現実でもあるわけだ。アメリカのイラン・アフガン戦争という戦時下にあるこんな危険な基地と、市民の平穏な街が共存できるわけがない。危険な基地は閉鎖しなくてはならない。そして、平和であれば軍事基地など必要ない。つまり、平時であれ戦時下であれ、いずれにせよ、沖縄の地にもう米軍基地は置くべきではない、ということでしょう。だから普天間基地に限らず、すべての軍事基地は無用なのだと、僕は強く思うんだ。

(放光院+α)

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