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「マガ」と「ジン」のコラムリコラム
第15回:「マガジン9条」って何だろう?

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『1968』という本

ジン この「マガジン9条」は、いつ始まったんだっけ?

マガ もう丸4年以上経っているよ。2005年3月創刊だから、4年6ヵ月過ぎたわけだ。今回が第223号。考えてみれば、よく続いてるもんだなあ。

ジン そうか、きみは創刊初期からのメンバーだったんだね。

マガ 一応、創刊時に「なんか面白そうだな」と思って参加したんだけど、実はちょっとだけ様子見のつもりで、こんなに長い付き合いになるとは思っていなかったんだ。だけど、どうして急に「マガジン9条」のことを言い出したの?

ジン いやね、このコラムに関わるようになって時々「マガジン9条」の事務所に顔を出すようになったんだけど、なんかかつての「ベ平連(ベトナムに平和を!市民連合)」を思い出したんだよ。あれもそうとう不思議な運動だったらしい。

マガ へえ、ベ平連ね。名前は聞いたことあるけど、詳しいことは知らないな、僕は。1960年代~70年代にかけて、とても盛り上がったベトナム戦争反対の市民運動でしょ? 小田実さんや鶴見俊輔さんなんかが中心になっていたとか。

ジン うん、私も加わっていたわけじゃないから詳しいことは知らなかったんだけど、最近やっと読み終えた本に、ベ平連のことが詳しく載っていたんだ。『1968』(小熊英二著、新曜社)って本なんだけど。

マガ ああ、『1Q84』(村上春樹著、新潮社)と似たタイトルの本だよね。中身は全然違うと思うけど、その『1968』も、一部でかなり評判になっているね。でも、評判のわりには、読破したって人はあまり聞かないな。

ジン それは、ある意味で当然だよ。なんたってボリュームが凄い。上下2冊で、上巻1095ページ、下巻1014ページ。合わせて2千ページを超えるし、だから値段だって2冊で13600円+消費税。買うにはちょっと覚悟がいるし、読み切るにも相当の根性が必要だ。ちなみに目方を量ってみたら、2冊で2.8キロもあった。これは十分に凶器に使えるよ、あはは。

マガ それを読み終えたわけ? いや、それはエライ! で、どんな中身なの?

ジン タイトルは『1968』となっているけど、60年安保闘争のころから書き始めて、いわゆる新左翼の流れ、慶大や早大の学費値上げ反対闘争、さらに日大・東大闘争(安田講堂攻防戦)、全共闘運動の全国への波及、それに影響された労働者や高校生の闘争、そしてベ平連。やがて内ゲバ(新左翼内部の暴力的抗争)を経て、連合赤軍という最過激派の登場とその悲惨な結末。また、(ウーマン)リブの運動も視野に入れて、結論へと至る。まさに壮大な若者たちの叛乱の歴史を記述している論考なんだ。“1968”というのは、その象徴的な年号なんだね。

マガ うーん、なんだか物凄いみたいだね。確かに1960年代末は、全世界的に“スチューデント・パワー”とか言われた学生叛乱が巻き起こった時代だよね。アメリカのベトナム戦争に対する反対運動が、世界の若者たちの共感を得たという…。

かつて「ベ平連」があった

ジン ベトナム反戦というのが、大きなキイワードだったわけだ。しかし、日本の場合、全共闘運動というのが新左翼運動に乗っ取られる傾向にあって、ベトナム反戦は、そのうちの一つのテーマでしかなかった。それに対しベ平連は、そういう左翼運動とは距離を置くことによって、かなり広範な支持を得た。徹底的な非暴力運動という方向をとったので、高年齢層や主婦などの過激さを嫌う層からも共感を呼んだというんだ。
著者の小熊さんは、全共闘や新左翼にはかなり厳しい見方をしているけど、ベ平連にはそうとう好意的な評価を与えている。もちろん、全面肯定ではなく、ベ平連内部の年配者層と若年層の考え方のギャップが、やがて深刻な亀裂を生み出していったことも、きちんと述べているけどね。そして、何よりもその「組織論」が、それまでの運動にはないユニークさだったことを詳しく書いている。

マガ 組織論?

ジン うん、確かにそれ以前にはなかった発想だと思う。ただ、よく読んでみると、組織論として最初から意図したものではなく、偶然に、というよりそれしかできなかったから自然発生的にできた組織だった、ということらしい。

マガ 自然発生的に出来上がった組織?

ジン つまり、鶴見俊輔さんや高畠通敏さん、針生一郎さん、武谷三男さん、山田宗睦さん、久野収さんなどの年配者たちが、当時32歳の若手作家だった小田実さんに声をかけて、ベトナム戦争反対の意志を示す行動を起したい、というところから始まったという。当時の小田さんは左翼だとはまったく思われていなかった人物だし、この年配者たちは、緩やかなつながりで高齢者も若年者も参加できる広範な市民運動にしたいという考えだったらしい。だから、ベ平連には規約もなければ指導部もない。連絡場所として、小さな事務所があるだけで、誰がメンバーなのかなど、誰も把握していなかったというんだ。「俺がベ平連だと言いさえすれば、それがベ平連」という形。こうして日本各地に、続々と“勝手に”ベ平連は生まれていった。

マガ そうなると、まるで統制が取れない運動になってしまう危険性がでてくるだろ?

ジン 最初から統制しようなんて考えはまったくなかったようだ。とにかく「ベトナム反戦」ということさえあれば、右も左も関係ない。ある地域では、いつも日の丸を掲げてデモに参加していた老人もいたそうだよ。

マガ うん、ジンが言いたいことはだいたい分かったよ。つまり「マガジン9条」のあり方が、なんだかベ平連を思い出させるってことだね。

ジン そう。「マガジン9条」だって、正式なメンバーなんて誰も把握してないよね。実際、私がたまに顔を出す週一回の会議だって、15人以上も人が来て、事務所(ある会社の片隅を間借りしている)の椅子が足りなくなったり、全然人が集まらなくて流会になったり、その日に何人が参加するかさえ分からない状態じゃないか。しかも、まったく知らない顔が混じっていたりする。そしてそれをだれも不思議に思っていない。

マガ ああ、そう言われればその通りだね。僕も初期から参加しているけど、スタッフの名簿なんて見たこともない。大体、そんなものは存在しないと思う。ただ、いまは1960年代とは違ってパソコンというのがあるから、「私にも連絡をください」という人にはメールで連絡はしている。それだって、まったく音沙汰なくなった人もいるし、新しくメールを送ることになった人もいる。僕はその連絡係じゃないから、メールを何人に送っているか知らないけど。

ジン ね、なんか似てないか?

マガ 確かに。それに「ベトナム反戦」であれば、右も左も問わない、というのも似ているかも。「マガジン9条」も、憲法9条の理念に賛同するのであれば、あとはどんな考え方でもかまわない、というのが原則だからね。だから、連載コラムやインタビューなんかでも、そうとう考え方の違う人たちが出てくれている。

「マガジン9条」と「九条の会」

ジン でも、「マガジン9条」は「九条の会」のネット部門じゃないか、なんて誤解されてる部分もあるらしいね。

マガ 最初のころは、かなりそう思われていたみたい。でも、まったく関係ないよ。連絡を取り合ったこともない。別に敵対したり張り合ったりしているわけじゃないし、運動っていうのは、さまざまな形があっていいと思っているから、「九条の会」は「九条の会」、僕らは僕ら。それぞれが思うような形で自由に「憲法9条」にアプローチしていけばいいんじゃないかな。「方向性は同じなんだから、協力しましょう」ってことになれば、一緒に何かをやることだってありうる。現に、各地の「九条の会」の集会のお知らせなんかは、「マガジン9条」の「お知らせ欄」にたくさん載っているよ。

ジン 各地に続々とうまれている「九条の会」も、同じような考え方なんじゃないかな。束縛しない、自由に集まり、イヤになったら抜けるのも自由。そのあたりの感覚が、「九条の会」も「マガジン9条」も、確かにベ平連に似ているのかもしれない。「九条の会」は「べ平連の言い出しっぺ」だった小田実さんや鶴見俊輔さんが呼びかけ人になっているから、当然、ベ平連のかつてのやり方を踏襲していてもおかしくない。

マガ そういうスタイルじゃないと長くは続かないと思うな。だから今回の政権交代だって、「マガジン9条」には大歓迎する人もいれば、かなり慎重に見ているスタッフもいる。民主党をどう見るかも、各人でそうとうの温度差があるんだ。僕自身は民主党のリベラルな部分に期待する気持ちもあるけど、自民党よりもさらに右寄りの連中がいることに危惧してもいる。今回の政権交代で、一応は改憲への動きは鈍るかもしれないけど。

ジン 松下政経塾出身の議員たちに、かなり危ない人たちが多いよね。例の「新しい歴史教科書をつくる会」などを支持して改憲を公言している人もいるし。それに、改憲の動きは鈍るといっても、来年(2010年)5月18日には、例の国民投票法(正式には「日本国憲法の改正手続に関する法律」)が施行される。これにはやはり、十分な警戒が必要だよ。
ただね、改憲のための国民投票には、衆参両院の憲法審査会の議論が必要だけど、現在はまだ審査会は開かれていない。衆院では自公与党の強行採決で審査会は設置されたけれど、参院では与野党のねじれのために、まだ設置されていない。それに、国民投票法に熱心に取り組んでいた自民党の中山太郎氏や保岡興冶氏などが今回の選挙で落選したから、これもブレーキになるかもしれない。

マガ そうなると、我々「マガジン9条」としては一安心かな。

ジン いやいや、そうは問屋が卸さない。先週のここでの話にも出たけど、自民党のある部分は「党再生のためには、はっきりした国家のあり方を提示するべきだ。そのためには憲法改正を高く掲げて、保守層を再結集させるしかない」などと言い始めている。そうなれば、右に振れた自民党の勢力は死にものぐるいで改憲を訴え始めるかもしれない。なにしろ、それが党再生の最終手段だと思い込んでいるらしいから。

マガ でもそうなっても、そんな勢力は自民党内でも少数でしょ?

ジン 少数でも、それを正面切って言い出せば、民主党内の改憲派も動揺する可能性もある。ガタガタと、何が動き出すか分からないよ。

マガ そうなってくれるほうが、僕としては分かり易くていいな。護憲改憲が入り乱れているなんて、同じ党としてはヘンな話だものね。

ジン つまり、まだまだ「マガジン9条」の役割は大切だ、ということだね。小田さんは「ベ平連は、ベトナム和平が達成できれば解散したほうがいいのだ」と、常々言っていたというけど、「マガジン9条も、憲法9条の理念が生かされたときには解散していい」と、私も思う。だから、その日まで…。

(放光院+アルファ)

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