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まつざき・きくや 戯作者 1953年、大分県別府市生まれ。劇団民芸の演出家を経て、88年、社会風刺コントグループ「ザ・ニュースペーパー」に参加。99年独立。現在、風刺コントの台本を書きつつ政治風刺ライブを展開中。TBSラジオ荒川強啓デイキャッチ・毎週月曜日の名物コーナー「あの人の独り言」で、権力者になりすます爆笑一人芝居を生放送中。『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでコラムを執筆。著書に『一瞬の沈黙』『巷は勘違いに満ちている』『男が捨てられた夜』(いずれも三五館)、『コメディアン』(実業之日本社)、『松崎菊也のひとり天誅!』(毎日新聞社)など。
国民投票法案が参議院でシレッと可決された。まったくシレッとである。自民党、公明党はもとより、民主党ともウラで約束していて、委員会で厳しい追求をするようなふりをして、「もっと審議を!」などと言ったくせに、ウラで手打ちは済んでいたのではないかとさえ思われる。
民主党が妙に政権を意識しはじめて以来、与党と対等に議論しようというあまり、国会で政府与党を挑発することがなくなった。前党首にいたっては、前総理に「改革のエール」を送ったほどである。まったくもってお坊っちゃんが多くて困る。
5月11日、夕方には採決されて本会議に送られた国民投票法案の特別委員会における総理と民主党の簗瀬参議院議員の議論の中で、本当にあった発言はどれか? 簗瀬議員は総理を人差し指でさしながら「行政府の長として国会の審議を妨害するような行為があっただろう」と追及した。それへ対して総理が答えたことは次のうちのどれか? 例によってひとつはホンモノ。あとはわたくしの妄想である。
議論が激してくると、質問席から政府首脳を指さして攻撃することは昔からそう珍しいことではない。指をさすことが無礼か無礼でないかはこの際置いても、総理は、人から指をさされて追求されるのがことのほか嫌いらしい。議論が激するよりも、指をさされることそのものが許せないらしいのだ。(正解は2番。11日の国会中継より)
こと憲法改正か否かを議論するのだ。議論が白熱しないほうがおかしい。
前総理にもそういうところがあった。相手が激すると、薄ら笑いを浮かべて、「そんなに興奮しないで」とやる。「あんたは感情に走っている、オレは冷静だよ」とアピールする様が実に人を食っていた。
では前総理は感情に走らないのか? 前総理は郵政民営化を突かれるとすぐに机をひっぱたいて激した。さて、現総理は感情に走らないのか? これが前総理よりも走るのである。新聞に書かれただけでメディアを目の敵にするのは周知の事実。メディアが権力を監視する役割だということを分かっていない。これが姿かたちがゴツい森嘉朗や中川秀直であれば傲慢に映るが、彼の場合は駄々っ子のわがままに映る。その典型がこれである。
議論の中身が白熱して、その勢いで自分に向けて指をさされると、「指をさすな」と言う。激論を制するというよりも、指をさされる行為自体が許しがたい侮辱と取っているらしい。議論の中身ではない、相手の態度が許せないのだ。
そういう育ち方をしているのだろう。お坊ちゃんは指をさされることが沽券に関わるのだ。とにかく指をさすな、前からも後ろからも……。 「それほどお嫌だということは、人から後ろ指さされるようなことでもあるんですか?」と畳み掛ければおもしろかろうに、簗瀬議員はそれ以上追求しなかった。なんだかどいつもこいつも激さない。お行儀よくシャンシャンと手を打って、重要法案が粛々と国会を通る。改憲への手続法でさえこのザマである。どうしてくれようか、こやつら。
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