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2011-09-07up

イラク派兵差止訴訟弁護団・川口創弁護士の「憲法はこう使え!」

【第6回】表現の自由(21条)の実践と、
もしもの時の黙秘権(38条1項)

 虚しい民主党代表選を傍観させられました。政策論争もなく「反小沢か親小沢か」などというどうでもいい論点で党代表と首相が決まりました。被災地の復旧をどうしていくか、エネルギー政策をどうしていくか、ということについて、具体的議論はありませんでした。
 原発に関して確かなことは、この政権は、原発を止めていく方向には向かないだろう、ということです。だからこそ、市民の側から、原発に関する意見を積極的に表明していくことがますます重要となってくるのではないでしょうか。

 「原発を止めたい」と願う市民の立場で出来ることして、ネット上の言論で世論形成を図る努力をしていくということも、有益だと思います。
 しかし、「ここぞ」というときには、三次元の世界で表現し、行動していくことが重要です。最近の中東の政変も、ネットが出発点になっていると言われていますが、現実に政治を変えていったのは三次元の具体的な行動であることは紛れもない事実です(暴力的な行為を肯定するつもりはありません)。

 原発に関して、さしあたり考えられる行動としては、全国で予定されている「さよなら原発デモ」などへの参加が考えられます。現実に時間を割いて足を運んで街頭に出た人がどれだけいるか、ということは、政治を動かす世論をつくる1つの要素になるでしょう。
 表現の自由(憲法21条)を最大限実践し、各自の思いを街頭で形にしていきましょう。

 「デモ」(あるいはパレード)は、意思を表現する重要な手段として、大事に使っていく必要があります。
 だからこそ、デモの主催者としては、逮捕者が出るような事態は絶対に避けなければならなりません。警察を敵視して挑発するような真似はしないことです。立ち向かう相手は、警察ではないはずです。
 私が今住んでいる名古屋では、デモの主催者が警察とも事前に丁寧に協議をしていることもあるのでしょうか、この間デモで逮捕者が出た、ということはありません。明確な道交法違反や、警察に対して挑発的な対応をしたりしない限り、普通にデモをしている範囲で逮捕されることはまずありませんでした。

 とはいえ、東京では5月に脱原発のデモに関して逮捕者が出ています(詳しい事情は正確には分かりません)。ですので、特に東京では、デモの主催者は逮捕者を出さない細心の注意が必要です。
 また、他の地域でも、例えばサウンドデモなどで盛り上がりすぎて(特に飛び跳ねているとき注意)、何かの拍子に警察に逮捕されてしまった、ということがないようにしてください。

 万が一、逮捕者が出た、というときのために。
 まず、逮捕されてしまった本人は、とにかく憲法38条1項の黙秘権行使と憲法37条3項の弁護人選任権の行使です。
①「弁護士を呼んでくれ」ということだけ、口にする(この一言だけ口を使う)。
②知り合いの弁護士がいなくとも、デモの主催者が必ず弁護士を派遣してくれるはずなので、弁護士が来るまで、自分の氏名も含め、黙秘を貫く(頭も口も使わない)。
③身につけている財布やバッグの中のものを開披しない(手も使わない)。
④弁護士が来るまで、調書など書面にサインや指印をしない(指を使わない)。 

 警察からは、「氏名については黙秘権はない。名前を言え」と迫られます。が、氏名も言う必要はありません。憲法上の権利ですから、堂々と行使してください。そこで名前を言うと、どんどん弱みにつけ込まれます。
 「黙秘をしているといつまでも帰れないぞ」と迫られますが、「黙秘しなければ、今すぐ帰す」とは言っていないので、引っかからないように。
 「氏名も黙秘していると弁護人選任は出来ない」とも言われますが、これも嘘です。とにかく弁護士が来るまでは口も手も指も使わない、ということです。弁護士と相談の上で、対応を決めてください。

 次に、デモの主催者ですが、まず、ビデオの撮影をしていくことです。デモを撮影してネット上で広げていくとともに、逮捕が不当か否かの証拠にもなります。特にサウンドデモで飛び跳ねて進む際に、警察から道交法違反のクレームが付く可能性がありますのでご注意下さい。
 また、もしもの時に対応してもらえる弁護士を確保してください。そして逮捕者が出たときには、すみやかにその弁護士と一緒に身柄を引き取りに警察に向かいます。
 警察との話し合いでは、「憲法21条の表現の自由が最大限保障される」ということを原則に据えて、丁寧に交渉をし、逮捕者をすみやかに引き取ることに尽力することです。

 とはいえ、何より大事なのは、警察に逮捕される、不当に介入される事態を生まないことです。逮捕者が出るようでは運動が広がっていきません。
 とにかく、警察を敵視して挑発するような真似はしない。警察に介入されるようなつけいる隙を与えないことが大事です。
 これは、おとなしくデモをする、ということではありません。
 「表現の自由(憲法21条)の最大実践」と同時に、警察に介入されないように細心の注意を払ってください、ということです。
 その上で、萎縮することなく、堂々と、自分の思いを表現してください。
 インパクトあるデモが全国的に盛り上がることを期待しています。

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こちらのページでもご紹介していますが、
9月11~19日は「9月脱原発アクションウィーク」。
11日には全国25カ所以上でデモが企画され、
19日には東京・明治公園で5万人規模集会が呼び掛けられています。
これこそまさに、憲法に定められた権利の行使にほかなりません。
川口弁護士のアドバイスを熟読して、
あなたもぜひ、あなたの意思表示のために、路上へ!

 

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川口創さんプロフィール

川口創(かわぐち・はじめ)
1972年埼玉県生まれ。2000年司法試験合格。実務修習地の名古屋で、2002年より弁護士としてスタート。 2004年2月にイラク派兵差止訴訟を提訴。同弁護団事務局長として4年間、多くの原告、支援者、学者、弁護士らとともに奮闘。2008年4月17日に、名古屋高裁において、「航空自衛隊のイラクでの活動は憲法9条1項に違反」との画期的違憲判決を得る。刑事弁護にも取り組み、無罪判決も3件獲得している。2006年1月「季刊刑事弁護」誌上において、第3回刑事弁護最優秀新人賞受賞。現在は「一人一票実現訴訟」にも積極的参加。
公式HP、ツイッターでも日々発信中。@kahajime
著書に『「自衛隊のイラク派兵差止訴訟」判決文を読む』(大塚英志との共著・角川グループパブリッシング)

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