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あまみや・かりん北海道生まれ。愛国パンクバンド「維新赤誠塾」ボーカルなどを経て作家に。自伝『生き地獄天国』(太田出版)のほか、『悪の枢軸を訪ねて』(幻冬舎)、『EXIT』(新潮社)、『すごい生き方』(サンクチュアリ出版)、『バンギャル ア ゴーゴー』(講談社)、『生きさせろ!〜難民化する若者たち〜』(太田出版)など、著書多数。現在は新自由主義の中、生活も職も心も不安定さに晒される人々(プレカリアート)の問題に取り組み、取材、執筆、運動中。非正規雇用を考えるアソシエーション「PAFF」会員、フリーター全般労働組合賛助会員、フリーター問題を考えるNPO「POSSE」会員、心身障害者パフォーマンス集団「こわれ者の祭典」名誉会長、ニート・ひきこもり・不登校のための「小説アカデミー」顧問。雨宮処凛公式サイト
オシャレな大分KCIA。
3月4日、「自民党が『徴兵制』検討?」
という報道が世間を若干騒がせた。時事ドットコムなどによると、自民党憲法改正推進本部がまとめた論点整理で徴兵制の検討を示唆するような表現があったのだという。が、大島幹事長が慌てて否定。論点整理にあったのは「民主主義国家における兵役義務の意味や軍隊と国民との関係などについて、さらに詰めた検討を行う必要がある」というもの。
これを読んで、なんだか懐かしい気分が込み上げてきた。それは最近存在すら忘れがちだった自民党への「ホントにどうしようもないな・・・」という呆れた気分である。政権交代から数ヶ月、久々にこの感覚を思い出したのであった。
それにしても、自分が徴兵経験もなく、ましてや自らが行く気なんてさらさらないのに「徴兵制」とか言う政治家はいまだに決して少なくない。いや政治家だけじゃない。「最近の若者は・・・」的な若者バッシングの果てに唐突に「徴兵」なんて言い出す人もたまにいる。だから自分自身も行ったことないのに・・・。
そうして「韓国の若者は徴兵制があるから立派」的なことをおぬかしになったりするのだが、韓国の徴兵制の大問題点については、この連載でも「韓国・徴兵制なんて嫌だ! ある若者の闘い」として6回にわたり書かせて頂いた。
その連載は各方面で反響を呼び、主人公のキム君は憲法関係のイベントで喋ったりといろいろ活躍しているのだが、そんなキム君の友人から、「ぜひ僕を取材してほしい!」と熱烈ラブコールを受けたのが昨年末。私のことを「女神さま」と呼ぶ彼の名前は「大分KCIA」(ハンドルネーム、本名はキム・クンテ)、19歳、韓国人。現在、大分在住の留学生。徴兵には行っていないし行きたくない。
ということで、今回から「大分KCIA」について何回かに分けて連載していこうと思っている。テーマは韓国の徴兵制だけでなく、多岐にわたる。
取材の日、彼は「お婆ちゃんのお兄さん」の写真を持ってきてくれたのだが、その写真には日本軍の軍服を着た人たちが映っていた。また、彼のおじいちゃん自身が戦時中、「徴用」されて日本の炭坑で働いていたのだという。その後、おじいちゃんは日本から韓国へ脱走。そうして時は流れ大分KCIAが生まれたわけだが、彼は徴兵制のある韓国から逃れて日本にいるという、何か壮大な歴史を背負っている19歳なのだ。そんな彼は韓国軍についてこう語る。
「日本帝国が昔、朝鮮人を徴用したりこんな軍服を着させてやってたことを、韓国は独立したとはいうものの結局同じことを国民にやっている。昔の皇軍と今の韓国軍と、軍に行かせる論理が同じなんですよ。『男になれ』『国のためだ』って。さすがに『死んで神様になれ』っていうのはないけど、それ以外は皇軍と韓国軍はおんなじです」
大分KCIAの「お婆ちゃんのお兄ちゃん」の写真。
取材に同席してくれたキム君は、韓国軍がどれほど旧日本軍の流れを引き継いでいるか、具体的に説明してくれた。
「日本軍独特の概念で『軍気』という言葉があるって聞いたことがあるんです。今の日本ではどれほどこの言葉を使っているかは分からないけど、この『軍気』って言葉は韓国では学校とか会社でも日常的に使われてるんですよ。日本では『気合いが抜けてる!』って怒られるらしいけど韓国では『軍気が抜けてる!』って怒られるみたいな。ほかにも韓国軍で使う用語って日本語が異常に多いです。『古参』、『手入』、『把指』とか。歴史的に独立以降、韓国軍には日本軍出身の朝鮮人が多く雇われたんです。韓国軍が今のようなほぼ100%徴兵のシステムになったのは、パク・チョンヒ(朴正煕)政権からなんですよ。パク・チョンヒは61年クーデターをして政権を取ります。この61年のクーデター自体もそもそも日本の2・26事件を真似たものです。彼は旧日本軍に志願で入って、満州国で服務してたんですね。で、日本式近代化のやり方をそのまま進めていく間に100%徴兵になった。後に彼は自分の政権を『維新政権』と名付けます。で、日本軍にいた人たちがそのまま韓国軍の要職に引き継がれた。そうすると韓国軍は日本軍の伝統がそのまま引き継がれるわけですよ。内務班制度とか、みんな同じ部屋入れて生活させたりとか、あとは殴り方とか。要するに日本では一回過去の軍隊が解体したわけじゃないですか。自衛隊ができる間に。でも韓国では、旧日本軍の伝統がそのまま引き継がれてるんですよ。その後、市民革命が起きていろいろ民主化していく。それでも、この徴兵制だけは誰も手を出せなかった。戦前の日本人にも『徴兵やらないと絶対日本ヤバくなる』的な恐怖もあったし、徴兵反対とかは言えない雰囲気があったでしょう。だからこの『軍気』のようなものって旧日本軍の幽霊みたいなもんですよ。日本人の保守的なオッサンとかが韓国人を指して『徴兵あるから立派だ』とかいってる理由はこの幽霊を求めてるからです」
「韓国の徴兵制」問題は、旧日本軍から引き継がれた問題であることを、一体どれほどの人たちが認識しているだろう。かく言う私も、こうして説明してもらうまで、そんな視点は抜け落ちていた。何か目の前の、徴兵に行ってもまったく使い物にならなそうな軟弱な二人の若者が壮大な「歴史」を背負っているように見えてくる。
が、そんな話をしながらも、大分KCIAはキム君の真似をして頼んだデニーズのキウイスムージーみたいのを「大分にはない」「見たことない」「大分にはデニーズもない」などと言いながら嬉しそうに飲んでいる。
そうして学校のデッサンの授業で描いたという絵手紙みたいのを見せてくれた。そこに描かれているのはバナナの絵と「朝鮮脱出」「徴兵破壊」。「描いたあと食べたかったから」という理由でバナナを選んだそうだ。
さて、そんな大分KCIAと徴兵制をめぐるあれこれについて、次回からじっくり書いていきたい。
(つづく)
大分KCIAの「作品」。
※ 厚生労働省のショナルミニマム研究会で3月4日、私と湯浅さんが発表をしました。発表というか、私は要求ばかりしているのですが・・・。こちらで見ることができます(ちなみに日本版貧困削減目標を作成しているのは反貧困ネットワークや国際NGOの方々など)。また、3月4日よりこの研究会は公開となりました。申し込んで頂ければ傍聴できます。
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「自民党が徴兵制検討?」のニュースには
驚いたり呆れたり。
しかしお隣の国、韓国ではリアルな話です。
日本の過去にも、今の日本にも、
深く関係する「韓国の徴兵制」について、
再びミニ連載スタートです。
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