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2010-07-14up

雨宮処凛がゆく!

第152回

未来への投資という考え方。の巻

 選挙が終わった。

 投票には行ったが、みなさんは行っただろうか。

 結果はご存知の通りだが、自民党の人たちが復活してたり(片山さつき氏、やっぱり怖い・・・)、明らかにうさん臭い人が当選してたりと、全体的に嫌な感じだ。

 個人的にうさん臭い人ナンバーワンはタリーズコーヒーの人なのだが(「みんなの党」の)、選挙特番を見ながら、改めてこの国の「選挙」のあり方に多大な疑問を抱いたのだった。

 だって、そもそもどうして谷亮子氏が出てるの? っていうかなんで選挙運動で「飛んでイスタンブール」歌ってるの? どうして倒立とかしてるの? どうしてタリーズの人はあのタイミングでエプロンしてるの?

 なんか、馬鹿にされてるとしか思えないから、「選挙なんかに行かない」という人の気持ちも非常にわかる部分がある。もちろん、行った方がいいに決まってることはわかってるんだけど、選挙にまつわるもろもろって、どうしてあんなに反射的に「かかわりたくない」と思わせることの宝庫なんだろう? がむしゃらに「投票へ行け」と言うよりも、投票率を上げたいんだったら、選挙、あるいは選挙運動のあり方そのものから見直した方がいいのでは? と思っているのは私だけではないはずだ。

 さて、そんな選挙では消費税問題が大きなテーマとなっていたわけだが、増税という時に必ず出てくるのが「社会保障」という言葉だ。

 この「社会保障」、どうしても「負担」といった側面ばかりで捉えられがちだが、6月にナショナルミニマム研究会でまとめた中間報告では、社会保障を「コスト」ではなく、「未来への投資」として位置づけることが明記された。

 6月の研究会では、それを裏付ける試算も出された(「貧困層に対する積極的就労支援対策の効果の推計」ナショナルミニマム研究会「貧困・格差に起因する経済的損失の推計」作業チーム)。

 例えば18歳の高卒男性が、2年間にわたって職業訓練を受けて正社員として就職でき、65歳まで働いた場合、就職できずに生活保護を受け続けた場合と比べて最大で国の財政に1億円以上のプラスがあるという試算結果が出たのだ。2年間にかかる就労支援の費用は生活費を含めて458万円。それで就職できた場合の65歳までの税金や社会保険料納付額(最大で4500万円以上)と、就職できずに65歳までずっと生活保護を受け続けた場合の生活保護費を推計したものだ。それが1億円以上になるのである。

 18歳女性の場合は正社員として就職できた場合、就職できずに生活保護を受け続けた場合と比べて8700万円以上のプラス。

 この試算には、30歳の高卒男性が5年間の就労支援をした場合の推計もある。この場合、就労支援と生活費に1000万円以上かかるが、正社員として65歳まで働くと国の財政に2000万円近いプラス、生活保護を受けていた場合と比較すると、最大で6000万円以上のプラスになる。女性の場合は正社員として働けば、65歳までの社会保険料、税金納付額などで国の財政には800万円程度プラス。生活保護を受けた場合と比較して4000万円のプラスだ。

 こういう試算は、「負担」「コスト」と捉えられがちな社会保障への見方を大きく変えるものではないだろうか。基本的に「費用対効果」みたいな話はあまり好きじゃないのだが、金持ち系の偉いオッサンに黙って頂きたい時には、こういう言い方は有効だ。

 それにしても、こういう数字を見ると、つくづく「男女格差」みたいなものにも直面する。

 この試算でも、女性で非正規の場合のみ、「マイナス」になるという結果が出ている。それは30歳女性が5年間就労支援を受けて非正規で働いた場合。1000万円以上かけて訓練を受けても、税金や社会保険料納付額がその額に届かず、場合によっては200万円近い「赤字」となってしまうのだ。それでも、生活保護を受け続けることに比べれば2000〜4000万円、国の財政にはプラスなのだが、何か納得しない思いが込み上げてくる。女性の半分は非正規なわけだし。

 この辺りの「女性の貧困」問題も、本当は選挙の大きなテーマになっていいはずだと思うのだが、小さな声はなかなか届かず、すくいあげられていないのが現状だ。

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こういう「試算」のときって、そういえば当たり前のように、
「男性の場合」「女性の場合」が分けられているような。
一つの問題を考察すると、また別の問題が見えてくる。
いろんなことが、互いにつながっていると実感させられます。

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雨宮処凛さんプロフィール

あまみや・かりん1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮処凛のどぶさらい日記」

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