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2010-07-07up

雨宮処凛がゆく!

第151回

選挙を前に勉強中。の巻

 さて、選挙だ。

 ここに来て民主党も自民党も「消費税増税」で「法人税引き下げ」と言っている。はっきり言って、区別がつかない。結局、消費税が増税されてもそれは法人税引き下げの穴埋めに回るだけでは? ということは多くの人が指摘しているが、それより何より、今回の選挙がまるで「郵政民営化か否か」のワンフレーズのみが叫ばれた05年の選挙のように、たったひとつのテーマに絞られていくことにとてつもない違和感を感じる。何か、こっちにあると思ってた選択肢が知らないうちにものすごく狭められ、歪められているような感覚。

 菅総理は消費税を上げた場合の低所得者対策として還付方式ということも言っているが、その低所得者層も年収200〜400万と開きがありすぎる。だいたい、年収400万の人が自らを「低所得者」だと思っているだろうか? しかも「還付」って、いつ? どうやって? というか、自分が取材してる現場の実感からすると、本当に厳しい人たちは「パン屋で売ってる10円のパンの耳」とか「100円ショップの小麦粉」とかでギリギリ生きのびてるわけで、一律に消費税が上がることはこの人たちに「死ね」と言ってるようにしか聞こえない。しかもその層は、決して少なくはないのだ。

 そんな消費税問題、具体的な細かいやり方がマトモに提示されているとは思えない中でものすごく短期間に「選べ」と言われることは、何かあまりにも強引でガサツで、なんだかむなしさに包まれる。

 ということで、私は今、「税」についてのクローズドな勉強会に出席している。そもそも「税」ってなんなの? どういう仕組みになってるの? 今の日本ではどういう税制になってるの? というようなモロモロについてレクチャーを受けているのだ。

 この勉強会は今回の消費税論議を受けてのものではない。「日本版貧困削減目標」を作成する過程で出てきた「で、財源はどうするの?」という課題に対応するために計画されたものだ。「日本版貧困削減目標」とは、私もナショナルミニマム研究会で提出させて頂いたので見た人もいるかもしれないが、例えば「2012年までに相対的貧困率を2007年比30%削減する」というような数値目標だ。国連ミレニアム開発目標(MDGs)が「2015年までに世界の貧困を半減する」と言っていることにならい、その日本版を作っているというわけである。ちなみに進行中のものは、ナショナルミニマム研究会のページで見ることができる。このページの後半の色がついてる部分だ。反貧困ネットワークや国際NGOの人たちがかかわって作っている。

 というわけで、反貧困の活動家たちで勉強しているのだが、その場所が内閣府の会議室で、そこが「経済財政諮問会議」をやってた部屋なのだから何か「歴史」を感じないでもない。

 それにしても、勉強すればするほど、自分の頭の悪さを思い知るばかりだ。というか、「財源」とか「税制」とかの話って、どうしてあんなに眠くなるのだろう・・・。もう難しい言葉ばっかりで、「高卒の壁」をひしひしと感じるのだ。そうして睡魔に耐えながら勉強しているのだが、例えば食料品の軽減税率ひとつとっても、国ごとにもちろんばらばらだしいろんな問題点があったりで、そういうことってどこまで知られているのだろう? と選挙を前にしてつくづく不安になるのだった。よく知らされないままの人たちに判断を迫るって、なんかやり方として一番卑怯っていう気がしませんか?

 さて、この勉強会で面白かったのは、「国際連帯税」の話だ。正確な表現ではないかもしれないが、地球規模の課題に地球規模の資金創出で対応するために作られたもので、世界の貧困や気候変動などの対策にかかるお金が様々な形で集められているらしい。そのうちのひとつが「航空券連帯税」。エイズや結核など、高い薬を買うためにフランスや韓国などで実施され、国際線のチケットに500円程度の税がかけられているのだという。

 日本人もこの「連帯税」を払っているという。例えばフランスには毎年7.6億円、韓国には2.4億円。こういうことはおそらく知られていないだろう。というか私ももちろん初めて知った。

 国際連帯税は今の消費税論議に直接かかわるものではないが、こういう考え方があり、既に実施されていると知るだけでも視野はぐっと広がるはずだ。

 だって今、私たちはギリシャの財政破綻を引き合いに出されながら、消費税増税しかない、という言葉を日々浴びせられ、何かすさまじい「誘導」の中にいるからだ。っていうか、消費税上げる前に大金持ちからがっぽり取ればいいのでは? とやっぱり素朴に思うんだけど。

カルチュラル・タイフーンにてフリーターズフリーの栗田隆子さんと対談。

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十分な情報が与えられないままに、
問題がどんどん単純化・二極化され、
無理やりに「選択」が突きつけられる。
そんな構図が、またしてもつくられつつあるのを感じます。
ところでもちろん初耳な「国際連帯税」、みなさんはご存知でした?

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雨宮処凛さんプロフィール

あまみや・かりん1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮処凛のどぶさらい日記」

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