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あまみや・かりん北海道生まれ。愛国パンクバンド「維新赤誠塾」ボーカルなどを経て作家に。自伝『生き地獄天国』(太田出版)のほか、『悪の枢軸を訪ねて』(幻冬舎)、『EXIT』(新潮社)、『すごい生き方』(サンクチュアリ出版)、『バンギャル ア ゴーゴー』(講談社)、『生きさせろ!〜難民化する若者たち〜』(太田出版)など、著書多数。現在は新自由主義の中、生活も職も心も不安定さに晒される人々(プレカリアート)の問題に取り組み、取材、執筆、運動中。非正規雇用を考えるアソシエーション「PAFF」会員、フリーター全般労働組合賛助会員、フリーター問題を考えるNPO「POSSE」会員、心身障害者パフォーマンス集団「こわれ者の祭典」名誉会長、ニート・ひきこもり・不登校のための「小説アカデミー」顧問。雨宮処凛公式サイト
二人に同行するのは清水さん、Kさん、そして私。総勢5人で向かう。福祉事務所に入ると、まずA君が受け付けの用紙に記入し、清水さんが「世帯で申請します!」と宣言、申請書を出す。カッコいい・・・。何やらいろんな職員の人がやってきて相談が始まる。不安げな二人と、まったく動じていない様子の清水さん。どうなるんだろうどうなるんだろう。どうしようもなく高まっていく緊張感。その時、女性の方と個別に面談したい、と職員が言った。またバラバラにされちゃって諦めさせる作戦だったら大変、と面談には私が同行することになる。が、そんな不安をよそに、別室での面談では簡単な経緯を聞かれただけで終わった。この面談の主旨は、ホームレス状態にある男女関係の中で、たまに女性が連れ回されていたり暴力を振るわれていたりということがあるらしく、その確認をするためのものだった。端から見ていてもA君はいつもB子ちゃんを気づかっているのがわかって「いい彼氏だなー」と誰もが思うような人であり、B子ちゃんも当然自分の意思で一緒にいるということを告げ、面談は終了。
「わかりました。じゃあA君呼んできますね」とのことで、職員の女性は席を外す。待っている間、私はB子ちゃんとA君についてちょっと語った。「いい彼氏だよねー」と私が言うと、B子ちゃんも嬉しそうにA君のいいところについて話してくれる。とにかくむちゃくちゃ仲のいいカップルなのだ。そしてカップルでいることによって、世帯で生活保護を申請し、「家族寮」に入る、という手が使えるのだ。「ホントに二人で良かったよねー!」。私はこの日、何度その台詞を口にしただろう。そうして待っていると、さっきの職員の女性がドアを開け、「入れるとこが見つかった」ことを告げてくれた。二人で今日から住める場所が、こんなにもあっさりと決まったのである! 「ええっ!! 」。その瞬間、まるで少女漫画のワンシーンのようにパアーッと輝いたB子ちゃんの顔を、私はたぶん一生忘れない。すごくすごく、可愛かった。
ああ、ここまで来たらもう安心だ。っていうか、なんだか拍子抜けだ。なんでフリーター労組が申請に同行しただけでこうも対応が違うのだろう。横浜だってそういうやり方があっただろうに、どうして役所って「本当はある制度を隠す」ことに必死になってるんだろう? このスムーズさにはA君も驚いたようで、どうしてこんなにも対応が違うのか、と何度も何度も首をひねっていたのだった。
そこから担当のケースワーカーさんによる面談が始まった。二人の他には清水さん、Kさん、私の3人。生活保護の申請にはいろいろと書類が必要なようで、持参した「申書書」と「一時金支給申請書」の他に、「収入・無収入申告書」「資産申告書」「同意書」などを書く。同意書は確か、銀行口座とかに資産がないか調べることへの同意書。「資産申告書」は、不動産とか生命保険、自動車などを持ってるか、そして負債などについて。不動産なんて若い人が持ってるはずないが、これが高齢者だったりするとこの辺が大変なのかもしれない。また、「収入・無収入申告書」は、過去3ヵ月間の収入について。それぞれに記入し、判子を押す。A君はのちに「判子を押す時、手が震えた」と語っていた。それはそうだ。この数枚の書類に、今日からの生活、人生がかかっているのである。ちなみに生活保護申請をする場合、親や兄弟に「面倒を見られないか」などという連絡は行く。
書類を記入した後、しばらく待たされた。この「待ち時間」が長かった。「もう大丈夫」と頭ではわかっているものの、待ち時間が長ければ長いほど、「何かあったのか」と気になってしまう。二人も同じ思いのようで、「長いですね・・・」「大丈夫なのかな・・・」と不安げだ。そうして待たされること数十分。ケースワーカーさんが戻ってきた。淡々と説明が始まる。家族寮には今日から入れること。その場所。布団がなかったので二組用意したこと、その家族寮は1月には取り壊されるのでそれまでにアパート転宅を目指してほしいということ。施設に留め置かれるのが懸念だったので、願ってもない話である。
そしてその日、このままケースワーカーさんと一緒に家族寮に行くことになった。本当にあまりにも早い展開に、驚く余裕もなく大がかりに騙されているような気分だ。二人も驚きながらもじわじわと喜びが込み上げてきたようで、しっかりと手を繋いでいる。そんな二人を見ていると、なんだかほっとして、緊張感が緩むと同時に何度も涙ぐみそうになってくる。
出発まで待合室で待っていると、「都パス」が発行された。都営のバスや地下鉄が無料になるパスで、世帯につき一枚が発行されるのだ。また、現段階で所持金は300円。今日の食べ物を買うお金もないということで清水さんが交渉し、2万円がA君に渡される。生活保護は申請した日から遡って生活保護費が支給されるため、その「前借り」というか、先に当面の生活費として受け取ることができるのだ。これもたぶん、黙っていてはそんな制度があることを向こうからは教えてくれないものと思われる。本当に、法律を知っているか知らないかで、天地ほどの差があるのだ。
そうして私たちは都内の家族寮へと出発した。この時点で既に3時過ぎ。2時間近くを福祉事務所で過ごしたのだ。途中で本日の救世主(ホントにそう見えた)清水さんと別れ、私とKさんで家族寮に同行する。地下鉄を乗り継いでの移動だ。移動中、ケースワーカーさん(いい人だった。よかった)に「やっぱり生活保護申請に来る人はすごい増えてるんですか」と聞くと、「一昨年の2倍」という答えが返ってきた。やっぱり・・・。それなのに、職員はたった一人しか増えていないという。そのために残業続きで大変なのだそうだ。というか、生活保護申請者が爆発的に増えているのは誰もが知ることで、そういう状況であれば職員だって大幅に増やさなくてはいけないのに・・・。よく、福祉事務所の水際作戦などが批判されるが、その背景には「申請者が爆発的に増えているのに、職員の数は変わらない」という現場のオーバーワーク状態も指摘される。そうして人が足りなければ当然細かい対応もできないわけで、こういうところに予算を使ってほしいものだとつくづく思う。また、今はナントカ助成金とか職業訓練中に生活費が出るとか、ネットカフェ難民への貸付金だとか山のように失業者向けのいろんな制度ができているが、そういったことも現場を混乱させる要因になっているようで、しかも、現場の人にもちゃんとした説明がなされていないという。
私はこの日、生活保護の申請に同行したのは初めてだったので、ケースワーカーさんに失礼を承知の上で、「正直、悪い話ばかり聞いていたのでこんなにスムーズにいくとは思いませんでした」と告げた。ケースーワーカーさんはちょっと苦笑いして、そして「今日はたまたま宿所に空きがあったから」と答えたのだった。今はどこの施設もいっぱいで、朝一番に「施設の空き」を確保するのが最も大変な仕事なのだという。運良く空きがあっても、東京の23区じゅうからそこの施設に問い合わせが殺到する状態。二人は奇跡的に運が良かったと言えるだろう。
さて、そうして家族寮に到着した。
(以下、次号)
運のよさにも助けられ、一緒に暮らす場所を確保できたふたり。
一方で、法律や制度を「知っている人」が一緒にいるかどうかで、
大きく対応が違ってしまう理不尽さも明らかに。
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