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雨宮処凛がゆく!

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あまみや・かりん北海道生まれ。愛国パンクバンド「維新赤誠塾」ボーカルなどを経て作家に。自伝『生き地獄天国』(太田出版)のほか、『悪の枢軸を訪ねて』(幻冬舎)、『EXIT』(新潮社)、『すごい生き方』(サンクチュアリ出版)、『バンギャル ア ゴーゴー』(講談社)、『生きさせろ!〜難民化する若者たち〜』(太田出版)など、著書多数。現在は新自由主義の中、生活も職も心も不安定さに晒される人々(プレカリアート)の問題に取り組み、取材、執筆、運動中。非正規雇用を考えるアソシエーション「PAFF」会員、フリーター全般労働組合賛助会員、フリーター問題を考えるNPO「POSSE」会員、心身障害者パフォーマンス集団「こわれ者の祭典」名誉会長、ニート・ひきこもり・不登校のための「小説アカデミー」顧問。雨宮処凛公式サイト

雨宮処凛の闘争ダイアリー
雨宮処凛の「生存革命」日記

※アマゾンにリンクしてます。

真夏の夜の夢〜
フリーター労組のキャバクラ争議。の巻

横須賀市議会議員の藤野英明さんと。

 またまた最初にちょっと告知を。公式サイトに私の連載情報などを載せているのですが、それ以外にもいろいろ始まってます。「小説宝石」では「何もない旅 何もしない旅」を連載中。半年ほど前から月一で旅をして書いてます。テーマは「つげ義春」っぽい旅。で、大月書店のメルマガでは、「フランス ジュネスの反乱」の著者・山本三春さんと不定期で往復書簡。もう私の文章はどうでもいいから、とにかく山本さんの文章が素晴らしい! (ここで登録できます)そしてちょっと前から「クイックジャパン」で「タダで世界を変える10の方法」という連載もしています。つい先日は、写真にあるように横須賀市議会議員の藤野英明さんに取材させて頂きました。とっても面白かった。やっぱり私は自分で話をするよりも、人の話を聞く方が好きなのだとしみじみ思いました。といってもそれは話を聞かせてくれる相手に「魅力」を感じてないと成立しないのですが。たぶん、偉そうな政治家のオッサンの話とか、30秒も聞けない・・・。ここ3年くらい本当に連日人前で喋りまくってきたので、今、「じっくりいろんな人の話を聞きたい」と思っているのです。
 さて、本題。前回ちらっと告知したように、選挙翌日、私はフリーター労組の「争議」に参加した。なんと、みんなで都内某所の営業中のキャバクラに「突入」したのだ!
 ことの発端は今年の5月。フリーター労組に一人の女の子からの相談があったことだという。彼女はキャバクラで働いていたものの、店長の酷いセクハラに苦しめられてきた。それだけでなく、その店には様々な問題があった。深夜残業代の未払いや、遅刻や欠勤に対する高額な罰金。なんと当日欠勤で5万円とか、そんな滅茶苦茶法外な罰金がかせられているというのだ。

「キャバクラの争議だからコスプレだよ」と騙され、化粧してきてしまった男子が一名。

 10年前、私もキャバクラで働いていた。そしてその店にも当然のようにキャバクラ独自の「メチャクチャ高額な罰金」システムがあった。それは「遅刻一時間5000円」「無断欠勤1万5000円」「当日欠勤(カゼひいて休むとか)1万円」というものだった。で、キャバクラで働く女の子の多くは、こういった「罰金」が違法行為だということなど知らない。よって堂々と罰金が給料から引かれ、一緒に働いていた女の子(遅刻、無断欠勤の常習犯ではあった)なんかはなんと給料が「マイナス」になるという転倒まで起きていた。それから10年。結局、この10年の間、誰もそのシステムを正面切って批判してこなかったからこそ(労組加入という形でなく、個人的に文句を言った子は多いと思われる)、罰金の額は10年で5倍にまで跳ね上がっていたのだ。  で、フリーター労組のX氏に聞いたところ、この「罰金」というのは、労働基準法によってその上限が決められているのだという。上限は日給の50%。月給の10%。しかも罰金を取るのであればそのことはちゃんと就業規則に明記しておかなければならず、その就業規則もちゃんと監督署とかに届けておかなくてはいけないという。全国に一体どれほどのキャバクラがあるのか見当もつかないが、私は「就業規則のあるキャバクラ」など見たことも聞いたこともない。そうして今日この瞬間も、全国のキャバクラで違法な罰金取り立てが行われているのである。
 さて、こんな違法だらけのキャバクラだが、問題なのは、世間の多くの人が「でも、どうせキャバクラでしょ? 」という形でスルーしてしまうことだ。そしてそこで働く多くの女の子たちも、「仕方ない」と諦めてしまう。が、今回、一人の女の子が立ち上がったのだ。
 そうして彼女はフリーター労組に加入し、団体交渉を進めてきた。が、店側は誠実な対応をしなかったという。よって、フリーター労組は労働委員会に不当労働行為の救済申し立てをし、その日の夜、団体交渉申入書を携えてみんなでキャバクラに向かったのだ。
 この日、会ったこともない女の子の応援のために集まった組合員は30人ほど。みんなそれぞれ忙しい中、立ち上がった「誰か」のために駆け付けた。そうして打ち合わせののち、午後9時半過ぎ、私たちは営業中のキャバクラに「突入」!! お客さんとキャバ嬢が盛り上がるきらびやかな店に、突然場違いな貧乏人集団が乱入し、組合の若者が「団体交渉申入書」を読み上げる。騒然とする店内。ビビるセクハラ店長。そして当事者の女の子は突然店の真ん中に走っていったかと思うと、「セクハラするな!」「給料払え!」と大演説をブチかまし始めた。その姿は、異様にカッコよかった。なんだか泣きそうになった。セクハラ加害者の店長がいる前で、そして同僚の女の子やお客さんがいる中で彼女が全身で怒りを表明する姿は何か神々しくて、だけど、どれほど勇気がいることだろう、と思った。
 さて、感動ばかりはしていられない。私も店の奥まで入っていってキャバ嬢やお客さんたちにことの経緯が書かれたビラを配る。ちなみにこの日はセクハラ店長の誕生日。フリーター労組のX氏はなんと「バースデーケーキ」を持参。突然店の中でケーキの箱を開けたかと思ったら、ろうそくを立てて火をつける。そして組合員全員で唐突に「ハッピーバースデー」の大合唱! 突然の展開に、店の酔っぱらいたちもワケのわからないまま全員で歌い始める。キャバクラに轟く「ハッピーバースデー」。そうして歌い終えた瞬間、フリーター労組はケーキとともに団体交渉申入書を突きつけ、退散したのだった。
 何かここまでくると労働運動でもあり、集団芸術のようでもある。びっくりしただろーなー、セクハラ店長。
 それから私たちは近くで「集会」をした(ただ道端で喋っただけ)。当事者の女の子は、なんだかスッキリした顔をしていた。せっかくプレゼントしたケーキは返されてしまったので、組合事務所に戻ってみんなで食べようということになった。
 プレカリアート運動にかかわって、私は「人が立ち上がる瞬間」を何度も間近で目撃した。これまで諦めて、泣き寝入りして、時には自分を責めて、そんな人々が自分の権利を知り、法律を知り、そして正当な怒りを表現する。そんな瞬間、いつも鳥肌が立つくらい、感動する。
 全国の職場で違法行為をしている経営者の皆さん、あんまり勝手なことやってると、ある日突然貧乏人の集団が押し寄せてくるかもしれないので気をつけよう。
 ちなみに労働組合の争議はバッチリ合法なのでその辺よろしく。

キャバクラの前にて。

※9月27日、韓国の去年のキャンドルデモの様子をソウルの活動家が撮ったドキュメンタリー映画や、昨年の反G8運動の様子を香港の人が撮ったドキュメンタリー映画の上映会があります。興味のある方はこちらで。香港、韓国関係者の来日あり。連帯しよう。

自分の正当な権利を「知らない」がゆえに、
不法で不当な状況に泣き寝入りすることしかできない。
そんな人はきっと、まだまだいるはず。
これもまた、大きな第一歩です。

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