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雨宮処凛がゆく!

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あまみや・かりん北海道生まれ。愛国パンクバンド「維新赤誠塾」ボーカルなどを経て作家に。自伝『生き地獄天国』(太田出版)のほか、『悪の枢軸を訪ねて』(幻冬舎)、『EXIT』(新潮社)、『すごい生き方』(サンクチュアリ出版)、『バンギャル ア ゴーゴー』(講談社)、『生きさせろ!〜難民化する若者たち〜』(太田出版)など、著書多数。現在は新自由主義の中、生活も職も心も不安定さに晒される人々(プレカリアート)の問題に取り組み、取材、執筆、運動中。非正規雇用を考えるアソシエーション「PAFF」会員、フリーター全般労働組合賛助会員、フリーター問題を考えるNPO「POSSE」会員、心身障害者パフォーマンス集団「こわれ者の祭典」名誉会長、ニート・ひきこもり・不登校のための「小説アカデミー」顧問。「週刊金曜日」「BIG ISSUE」「群像」にてコラム連載。雨宮処凛公式サイト

生きさせろ!
雨宮処凛の闘争ダイアリー

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京品ホテル強制執行。の巻

 1月25日、労働組合によって自主営業が続けられていた京品ホテルに強制執行が行われた。

 京品ホテルについては、様々な報道がされているので御存知のことと思う。経営陣が勝手に作った60億の借金、リーマン系のハゲタカファンドなど、従業員とまったく関係ない問題で突然「廃業」と「解雇」が言い渡されたのが昨年5月。しかも黒字経営なのに。そうして10月での廃業・全員解雇を通告された京品ホテルの従業員たちは東京ユニオンに加盟、労働組合を結成。10月以降は労働組合による自主営業を続けてきた。労働組合による営業なので、クレジットカードは使えない。宿泊費なんかも「カンパ」として受け取る。私も自主営業中に食事に行ったが、ホテルの外壁全面に労働組合の旗などが掲げられた光景は圧巻で、「労働組合がホテルを自主営業」という目の前の状況にやたらと感動した。本当に、こんなことができるんだ、と。

 そんな京品ホテルに、警察による強制執行が迫っていることは知っていた。裁判所は従業員の立ち退きを命じる決定をしていたからだ。そうして執行前日の24日、フリーター労組の組合員から私に連絡が入った。どうやら明日の朝、強制執行が入りそうだという。なに! それは、それは今すぐに駆け付けなくては!!

初めて「生存組合」を名乗った「フリーターユニオン福岡」のみんなと。週刊金曜日で対談。

 その日の夜、私はフリーター労組組合員十数人と京品ホテルに向かった。既にホテルには様々な労働組合の人たちが待機している。今夜はみんなでここに泊まり込み、明日の強制執行に備えるのだ。それぞれが自分の組合の腕章をし、私たちも「FZRK」(フリーター全般労働組合)と書かれた黄色い腕章をする。夜10時半からはみんなでオニギリを握って食べ、夜12時からは屋上で集会だ。強制執行に対して、様々な作戦会議が繰り広げられる。集まったのは200人ほど。みんなの顔が熱気に満ちている。ここがどうしようもなく「闘い」の第一線だからだ。暗い屋上に吹く風と、屋上に集った、京品ホテルの問題に対して怒りを共有した人々。外国人の組合員もいれば20代の組合員もいるし、「労働運動やって40年」みたいな組合員の人もいる。それぞれまったく違う職種のいろんな組合の人たちが、それでも同じ思いでここに集まっている。

 集会では、強制執行に際して「この場合はこうする」など、細かいことが説明される(詳しいことは書けません。ごめんね)。強制執行を前にした緊張感が現場を包み、だけどみんなの顔はなんだか生き生きしている。だって「労働組合によって自主営業」されている京品ホテル自体が、なんだか「奇跡」のような場所だからだ。自分たちには、こんなことができるんだ、と目を開かせてくれるような、そんな場所。ここが継続しているだけで勇気を貰えるような場所。

フリーターユニオン福岡のビラ。「解雇・・・with Canon」という文字が。

 集会の後、ホテルの外に出た。みんなで「ピケット」の練習だ。ゼッケンをつけ、はちまきをし、腕章をつけた組合員たちが品川駅前のホテルの前で「ピケット」練習している、というあり得ない光景に道ゆく人たちは何事かと目を丸くしている。端から見たらいい大人が「おしくらまんじゅう」しているように見えるかもしれないが、「生存権」を賭け、身体を張った抵抗の「練習」なのだ。

 その後、残念ながら私は翌日に新潟で講演だったため帰宅したのだが、翌朝9時、とうとう強制執行が行われてしまった。機動隊が投入され、ホテル前のピケ隊に襲いかかる。が、みんなは必死で抵抗する。暴力的な排除に怪我人も出て救急車で運ばれる人もいる中、25分間もピケ隊は抵抗を続けたという。そうして警察はホテルに突入。こうして強制執行が行われてしまった。

フリーター労組の腕章兼はちまき。それぞれ好きにアレンジしてますが、なぜかみんな猫のイラストを描きます。

 とっても悔しいし、悲しい。強制執行の動画を見ると、本当に泣けてくる。だけど、たくさんの人が応援に駆け付け、強制執行が入る頃は支援者は300人になっていたという。そして労働組合によって100日以上もの間自主営業が続けられたことは、本当に、本当に大きなことだと思うのだ。

 闘いはまだまだ続く。だって、経営者がトンチンカンなことして作った借金の尻拭いを、どうしてこっちがしなくちゃならないんだ? 京品ホテル前で配られていたチラシには、こうある。

 「従業員全員解雇、ホテル廃業、土地と建物を引き渡し、小林誠社長は60億円の借金精算、小林一族には5億9000万円」。

 その結果、京品ホテルで働く人は職を失い、生活・人生そのものが破壊される。そんなことはどうかしている。

 「それでもしょうがないんじゃない?」という人もいる。そして自分が同じような立場でも、泣き寝入りしている人たちがいる。だからこそ「自分だって我慢しているんだから我慢しろ」というようなことを言う人もいる。が、人間、物わかりがよくなった時点で人生が相当諦めモードになる上、「しなくていい我慢」というものがこの世の中にはたくさんある。というか、「しない方がいい我慢」だ。そして我慢しないことによって、みんなの権利が拡大されるような場合が多々ある。京品ホテルの闘いが、まさにそうだと思うのだ。「廃業」で「解雇」なんて、もし突然言われても、京品ホテルのように労働組合で自主営業、という手もあるのだ。そう思うだけで、この世界の見え方はがらりと変わる。

 強制執行前日、京品ホテルで過ごした時間はなんだか「かけがえのないもの」を共有した時間だった。これからこの闘いはどんな局面を迎えるのか、勝手に応援していきたいと思う。

京品ホテル、強制執行前夜。プラカードを上げてアピール。

ホテル存続を求めて集められた署名は7万人分、
約3カ月間の自主営業中は、ほぼ連日満室が続いたとか。
強制執行後、会社側は「裁判所の力で違法状態は是正された」との談話を発表しましたが、
人の権利を守らない「裁判所の力」って?と思わざるを得ません。

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