戻る<<

雨宮処凛がゆく!:バックナンバーへ

雨宮処凛がゆく!

081029up

あまみや・かりん北海道生まれ。愛国パンクバンド「維新赤誠塾」ボーカルなどを経て作家に。自伝『生き地獄天国』(太田出版)のほか、『悪の枢軸を訪ねて』(幻冬舎)、『EXIT』(新潮社)、『すごい生き方』(サンクチュアリ出版)、『バンギャル ア ゴーゴー』(講談社)、『生きさせろ!〜難民化する若者たち〜』(太田出版)など、著書多数。現在は新自由主義の中、生活も職も心も不安定さに晒される人々(プレカリアート)の問題に取り組み、取材、執筆、運動中。非正規雇用を考えるアソシエーション「PAFF」会員、フリーター全般労働組合賛助会員、フリーター問題を考えるNPO「POSSE」会員、心身障害者パフォーマンス集団「こわれ者の祭典」名誉会長、ニート・ひきこもり・不登校のための「小説アカデミー」顧問。「週刊金曜日」「BIG ISSUE」「群像」にてコラム連載。雨宮処凛公式サイトhttp://www3.tokai.or.jp/amamiya/

生きさせろ!
雨宮処凛の闘争ダイアリー

※アマゾンにリンクしてます。

麻生の家に行こうと歩いただけで逮捕!!!!の巻

出発前の様子。

 許せない。もう、本当に許せない。

 前回の原稿で告知した「リアリティツアー 62億ってどんなだよ。麻生首相のお宅拝見!」で、なんと3人もの逮捕者が出てしまった。ただ、歩いていただけで警察が襲いかかってきて参加者を拉致していったのだ。報道などでもう御存知の方もいるかもしれないが、間違いだらけなのでまずは経緯を説明したい。

 10月26日午後3時半、私は渋谷駅のハチ公口についた。この日は「自由の森学園」でシンポジウムに出演していたため、集合時間の3時には間に合わなかったのだが、幸いみんなはまだ渋谷駅前にいた。人込みの中、目印となる赤い風船や「よこせ」「責任者出てこい! 麻生首相のお宅拝見」という横断幕。何が始まるのかと通行人も足を止めていた。そうして3時半を過ぎた頃、出発。参加者は50名ほどだったと思う。が、横断幕を持つと、警察が「ダメだダメだ!」と言い、麻生の顔の下に「ウチくる?」「行く行く!」と書いた風船も上げちゃダメ、おまけに麻生の顔のパペットも「顔を外せ」という。更に「うんこくさい」と書いた紙をガムテープでTシャツにはっていただけの参加者に対しても「ゼッケンはダメだ!」と外そうとする。ゼッケンって・・・。ただ紙に「うんこくさい」と書いてあるだけだ。

 しかし、私たちはその条件を飲み、横断幕もたたんで風船も下げ、麻生の顔も外した。もちろん拡声器もダメだというから、渋谷駅を東急本店の方向に向かってほてほてと歩きだした。ただの散歩だ。みんな隣の人なんかと喋りながら進み、私も半年間失業していて、この連載で今日の企画を知って来てくれたという若者と話しながら渋谷を歩いた。それなのに、私たちの脇には制服姿の警官。先頭の男性は人込みの中、迷子にならないようにプラカードを持ち、時々道行く人たちに「麻生首相の家に行きませんか」と肉声で言っていた。私も時々「麻生んちこの近くなんすよ、行きませんか」などと通行人に言った。

結局掲げることもできなかったプラカード。

 そうしてただの通行人として歩道を歩いて向かっていた。が、歩き始めて5分くらいした頃、いきなり警察が襲いかかってきて、突き飛ばされ、もみくちゃになって何がなんだかわからなくなった。気がつけば制服姿の警官が誰かの上に馬乗りになったり、いきなり参加者をタックルして押し倒して数人がかりで連行したりと、辺りはあり得ないことになっていた。ただもう叫ぶしかなかった。何が起こったのかまったくわからなかった。そうして混乱が収まったあと、3人が逮捕されたことを知った。

 何か、きっかけがあったのならまだわかる。小競り合いとか、そういう現場が緊張するような瞬間。だけど、本当に何もなかったのだ。いきなり歩いていた先頭の人に警官が襲いかかり、暴力を振るいまくって、拉致。呆然とした。ツアーは中止となり、宮下公園に行ってから、みんなで渋谷警察署に抗議に行った。渋谷警察署は、接見に訪れた弁護士すら中に入れず、一時間以上待たせるという滅茶苦茶な対応をした。私たちは3時間以上、渋谷警察署の前で抗議を続けた。「歩いてるだけで逮捕するな!」「道くらい自由に歩かせろ!」「3人を今すぐ返せ!」「今すぐ釈放しろ!」。

 その日のニュースを見て、愕然とした。その中には、警察の大嘘発表を鵜呑みにした報道がいくつもあった。警察は、参加者が警察に「暴力を振るった」、また、「再三の警告を無視した」「無届けデモをした」と発表し、それがそのまま報道されたのだ。現場には何社かのテレビカメラも来ていて、どんな状況なのか、見ていたはずなのに・・・。しかも再三の警告なんてまったくなかったし、歩道を談笑しながら歩いているのだから「無届けデモ」でもなんでもない。

ただ歩いてるだけでこんなに警察が! そんなに貧乏人が怖いのか?

 ここにある映像を見てほしい。麻生でてこい救援ブログのトップの画像だ。暴力を振るい、暴れていたのがこの「ゆでだこ私服デカ」だということは誰の目から見ても明らかだ。なんだかよくわからないが、ゆでだこの視界に入っただけで逮捕されているし、何もしてない参加者にいきなり襲いかかっている様子がよくわかる。暴力を振るい、暴れまくっていたのは他でもない、警察の側なのだということがバッチリ映っている。

 逮捕翌日、私たちは緊急記者会見を開き、実態を訴えた。

 貧乏人が異議申し立てをしようとしたどころか、62億円の麻生の家を見に行こうとしただけで、逮捕されてしまう。本当に、歩道を歩いていただけで。「どんな目的でどこに向かって歩いているのか」、そんなことで選別され、暴力的に「排除」されてしまうのだ。

 貧乏人は道を自由に歩く権利もないのか? 麻生の家を見に行こう、と思い、向かっただけで逮捕されても仕方ないのか? 逮捕された人たちは、いずれも不安定なプレカリアートだ。逮捕されることが、仕事を失うことにも繋がりかねないし、その間働けなければリアルに家賃滞納に繋がる。生活自体が破壊されてしまう。

 この弾圧は、完全に「労働/生存運動」潰しだ。プレカリアート運動に対する攻撃だ。ワーキングプアが立ち上がって異議申し立てをしたら都合が悪いのだろう。分断されていた私たちが繋がりはじめ、声を上げ始めたら困るのだろう。

 まずはぜひ、救援ブログを読んで頂き、実態を知ってほしい。

麻生パペット。顔には「貧乏人を近付けるな!」という台詞。

「不当逮捕」という事実そのものもさることながら、
一方の当事者であるはずの警察発表が
そのままテレビなどの大メディアで流される、という状況に、
怖さを感じます。まずは、文中で紹介されている動画を見てみて。 

ご意見フォームへ

ご意見募集

マガジン9条