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雨宮処凛がゆく!

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あまみや・かりん北海道生まれ。愛国パンクバンド「維新赤誠塾」ボーカルなどを経て作家に。自伝『生き地獄天国』(太田出版)のほか、『悪の枢軸を訪ねて』(幻冬舎)、『EXIT』(新潮社)、『すごい生き方』(サンクチュアリ出版)、『バンギャル ア ゴーゴー』(講談社)、『生きさせろ!〜難民化する若者たち〜』(太田出版)など、著書多数。現在は新自由主義の中、生活も職も心も不安定さに晒される人々(プレカリアート)の問題に取り組み、取材、執筆、運動中。非正規雇用を考えるアソシエーション「PAFF」会員、フリーター全般労働組合賛助会員、フリーター問題を考えるNPO「POSSE」会員、心身障害者パフォーマンス集団「こわれ者の祭典」名誉会長、ニート・ひきこもり・不登校のための「小説アカデミー」顧問。「週刊金曜日」「BIG ISSUE」「群像」にてコラム連載。雨宮処凛公式サイトhttp://www3.tokai.or.jp/amamiya/

生きさせろ!
雨宮処凛の闘争ダイアリー

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個室ビデオ店放火事件と
「世直しイッキ!大集会」の巻

10月5日に行われた「全国青年大集会」にて。私も愛用するロリータブランド「BABY」で不当解雇された岩上さんと、支援者の皆さん。労働運動の現場で今、ロリータちゃんが熱い!!

 10月1日に起きた、大阪の個室ビデオ店の放火事件は「都市の寄せ場化」を可視化する結果ともなった。

 死者15人のうち、「ほぼ半数の人は住民票の住所地に住んでいなかったり、家族と音信不通だったり」(産経新聞08/10/4)。死者の1人、30代の男性は仕事がなくなり、家賃滞納で市営住宅を追い出されていたという。また、40代の介護ヘルパーの男性が、「節約のために」ネットカフェや個室ビデオ店を転々とする生活だったことは多く報じられている。

 私が「都市の寄せ場化」という言葉を聞いたのは06年だ。以前はひとつのところにまとまっていた「寄せ場」がネットカフェやファストフードなどの形で都市部に点在するようになり、いわば寄せ場が都市に「全般化」しているという状態。2年前に既にそれは始まっていて、ネットカフェの使用料を払えずに逮捕される20代、30代の事件がぽつぽつと起き始めていた。逮捕される人の所持金は10円、20円。取材をすると若者もいれば中高年の人も多いことに気づかされた。「お金のない人が束の間の睡眠を得られる場」となったネットカフェや個室ビデオ店はそんな利用者のニーズに応えるように設備を充実させてきた。ということは、それほどに「住む場所もなく転々としている人」が増えているということだ。

 もちろん、中には終電を逃したサラリーマンなどもいるだろう。しかし、いくら終電を逃したって、そこそこお金を持っていればタクシーに乗るしホテルに泊まる。犠牲者の中には、出張中のホテルがわりに個室ビデオ店を使っていた人もいる。別に「不安定就労」でなくても、ビジネスホテル代6〜7000円も、カプセルホテル代3000円程度も払えない人々が多くいるという現実。ネットカフェや個室ビデオ店を寝るために利用している人は、1日あたり6万人以上もいるという。そんな放火事件から数日後、30歳の女性がネットカフェで出産したことが報じられた。出産したものの、お金がなくて育てられないと思い、置き去りにしたという。

同じく。この日のデモでは「BABY」が入ってるラフォーレ原宿を通ったので、みんなで「ロリータファッションブランド『BABY』は、不当解雇を撤回しろ! 」と叫ぶ。この日のみんなの服はやはりBABY。私も。

 石原慎太郎都知事は「ネットカフェ難民」について、定例会見で以下のように語った。

 「ファッションみたいに1泊1500円のカフェに泊まって『おれは大変だ。孤立した』と言われても、もっと安い宿はある」(朝日新聞08/10/4)

 足も伸ばせないリクライニングチェアで束の間の仮眠をとり(必ず腰痛になるという)、充分な睡眠もとれずに働き続けることのどこが「ファッション」だというのだろう。おまけに石原氏は「200円や300円で泊まれる所がある」と、「いつの時代?」ってな妄言を披露。山谷のことらしい。が、最近、山谷取材に行くけれど、1人部屋だと最低でも1500円くらいはした。ネットカフェと変わらない。ってか、石原慎太郎って、考えてみれば80代だもんな。で、もうずーっと何十年も特権階級の座にいるわけだから、フツーの今の感覚なんて、日本で一番くらいにわからないのだろう。その感覚はもちろん麻生氏なんかも一緒だ。

 当り前だけど、規制緩和なんかで労働が細切れにされると失業が常に前提となり、しょっちゅう失業しているような状況になると、家賃の滞納から住居を失いやすくなる。で、そこで頼れる親、友人なんかの関係がないとあっさりと道を絶たれてしまう。

 放火事件の容疑者は、ギャンブルなどで借金を抱え、生活保護を受けていたという。容疑者は「生活が苦しい状況が重なり、突然死のうと思った」と語っている。今回の事件は許されることではないし、容疑者の「生活」の在り方には責められる部分もあるだろう。しかし、弱者が何の関係もない人まで突然道連れにするという今回の事件は、秋葉原事件を彷佛とさせるものでもあった。社会の底が抜け、一歩間違えばどん底まで落ちてしまう状況になると、自暴自棄になる人も当然増えてしまう。そうなると、考えられないような事件が起きるようにもなる。借金があっても働き続け、家賃を節約するために個室ビデオ店暮らしをしていた被害者と、同じく借金に苦しめられ、生活保護を受けながら「突然死のうと思った」加害者。あまりにも悲しい図式だが、この事件が起きた時、驚いたのは、「なぜ、毎日介護ヘルパーとして働いていた49歳の人が、安アパートにさえ住めないのか」ということだった。多額の債務があったということだが、「たかが借金」くらいで広義のホームレスになってしまうこの国。宇都宮健児弁護士がやっているような多重債務問題にかかわる団体などに相談すれば、いくらでも解決できただろうにと思うと胸が痛い。というか、本当はそういう対策は国などが積極的にすべきことなのだ。そして積極的に情報を流すべきなのだ。しかし、その辺りのことはあまりにも放置されている。

 10月19日には、宇都宮弁護士が代表をつとめ、私も副代表の1人でもある「反貧困ネットワーク」が大きな集会を開く。労働・子ども・社会保障・女性・ホームレス・居住・食の危機・多重債務などについて分科会も開催され、仕事の問題や家がない、借金漬け、という悩みなどに対して役に立つ情報を得られるはずだ。たくさんの弁護士さんも参加しているので、相談窓口や被害者団体などについても知ることができる。具体的に「死なないで生存する」ためのノウハウがこの日、明治公園に集結するのだ。

 集会は13時から、17時からはサウンドデモも予定されているので是非参加してほしい。労働の分科会では私が司会をつとめ、「それってカニコー(蟹工船)」な労働状況に関して、当事者の方々とトークする予定だ。詳細についてはこちらでチェックしてほしい。

 米騒動から90年、そろそろ「一揆」を起こそうと思う。

ピンクの旗には「夢を壊すな!」。確かにその通りです、まったく。

またしても起こってしまった、痛ましすぎる事件。
その背景にある現実にまったく向き合おうとしていない、
都知事の発言には、怒りよりむしろ絶望感を覚えます。
「世直し一揆」が必要な、そんなぎりぎりのところまで、
この社会は来てしまっているのかもしれません。

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