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雨宮処凛がゆく!

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あまみや・かりん北海道生まれ。愛国パンクバンド「維新赤誠塾」ボーカルなどを経て作家に。自伝『生き地獄天国』(太田出版)のほか、『悪の枢軸を訪ねて』(幻冬舎)、『EXIT』(新潮社)、『すごい生き方』(サンクチュアリ出版)、『バンギャル ア ゴーゴー』(講談社)、『生きさせろ!〜難民化する若者たち〜』(太田出版)など、著書多数。現在は新自由主義の中、生活も職も心も不安定さに晒される人々(プレカリアート)の問題に取り組み、取材、執筆、運動中。非正規雇用を考えるアソシエーション「PAFF」会員、フリーター全般労働組合賛助会員、フリーター問題を考えるNPO「POSSE」会員、心身障害者パフォーマンス集団「こわれ者の祭典」名誉会長、ニート・ひきこもり・不登校のための「小説アカデミー」顧問。「週刊金曜日」「BIG ISSUE」「群像」にてコラム連載。雨宮処凛公式サイトhttp://www3.tokai.or.jp/amamiya/

生きさせろ!
雨宮処凛の闘争ダイアリー

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「韓国の非正規問題と日本の過労死」の巻

 この原稿がアップされる頃、私は韓国にいるはずだ。
 週刊金曜日の取材で、一週間ほど韓国に滞在するのだ。
 あまり知られていないが、韓国の非正規雇用率は世界一。なんと、非正規雇用率は50%以上!
 日本でも非正規雇用率が30%を突破しているが、それを遥かに上回る数字である。非正規労働者の抗議の焼身自殺事件も起こっている。
 詳しく知りたい方は「ワーキングプア 解決への道」(NHKスペシャル 『ワーキングプア』取材班・編 ポプラ社)を読んで欲しいが、ここにも恐るべき数字が登場する。「二〇〇七年の大卒者のうち、正社員として就職できた人は、半数以下の四八%。青年失業率(一五〜二九歳)は、『就職浪人中』の人を含めると、実に二〇%にのぼる。百万人の若者が、職を見つけられないでいるというのだ」。

ワーキングプア解決への道

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 そうして韓国でベストセラーとなっている「88万ウォン世代」という本。88万ウォンは、日本円にして10万6000円ほど。韓国の20代の非正規雇用者の平均月収だという。今の20代は大学を出ても95%が不安定雇用を転々として一生を終える、と警鐘が鳴らされているそうだ。

 なんだか、あまりにも似ている・・・。
 「ワーキングプア 解決への道」では、その背景にある90年代後半の韓国の「IMF危機」などにも詳しく触れている。97年の経済危機に瀕し、IMF(国際通貨基金)から緊急融資を受けた韓国は、IMFに「構造改革」を要求される。「金融再編」「財閥解体」「公共部門の民営化」、そして「労働市場の柔軟化」。そうして韓国でも「労働者派遣法」が導入され、人材派遣が認められるという規制緩和を行った結果、非正規雇用が半数以上という現在に繋がったわけだ。グローバル競争のもと、韓国国内の工場はベトナムに移転し、多くの失業者を生み出してもいる。景気は回復しているものの、働く人にとっては厳しくなるばかりの状況。この10年で2倍以上となった自殺者数。あまりの雇用の劣化に対し、韓国では「2年以上雇われた人は正社員とみなされる」などを盛り込んだ「非正規保護法」が作られたものの、企業はその法律がスタートする直前に非正規の人々を大量解雇。正社員化しなくてはならないから、という理由だ。その分を外部の業者に委託した。
 そんな、あまりにも日本と近い状況の韓国。長い不況の間、日本の政財界では「韓国の奇跡に学べ」とよく言われたそうだ。韓国の奇跡。それは働く人を非正規に置き換え、ワーキングプアを大量に増やしての景気回復なわけだが、そんなものを見習われたら、非正規率はもっと増えていくだろう・・・。

歩きながら問う

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 さて、私はこの前のG8キャンプで韓国の人ともたくさん出会った。韓国では、そんなG8キャンプで出会った人たちとも再会し、10代の活動家たちとも会ってくるつもりだ。10代の活動家。団体名は、「狂った牛を追い出す10代連合」。イカしてる。兵役がある韓国で良心的兵役拒否をしている人たちや、移住労働者の組合の人たちとも会うつもりだ。また、「研究空間スユ+ノモ」の人たちにも会いたい。研究共同体であり、生活共同体であるというスユ+ノモ。一体どんな場所で、どんな人たちがいるのかも想像がつかないが、彼らの取り組みを描いた本「歩きながら問う 研究空間〈スユ+ノモ〉の実践」(インパクト出版会)を読むと、無性にワクワクしてくる。

 「(前略)この空間は、アカデミックな議論における問いにとどまらず、自らがどっぷりとはまっている近代的な生の方式そのものを問い、変えていこうとする場だ」。そんな研究室の試みは「実験の過程にすぎない」という。「しかも、『今までにないやり方で失敗すること』を楽しみ、そこに可能性を見い出しながら」。

 ストレートな運動も好きだけど、私はこういう壮大すぎる、運動だかなんだかわからない「生きること」そのものに対する問い、みたいな運動(?)にもとっても興味がある。そういうやり方にものすごい可能性を見い出したのは、この間のG8キャンプでの体験が大きい。ああ、韓国では一体どんな人たちに会えるんだろう。今からとっても楽しみだ。

 そんな韓国行きを前にした8月2日、「過労死をなくそう! 龍基金」の集会に行ってきた。会場には、遺影がふたつ。すかいらーくで働き、04年に48歳で過労死した中島富雄さんと、同じくすかいらーくで働き、07年に32歳で過労死した前沢隆之さんの遺影だ。しかも前沢さんは正社員ではなく、契約社員。非正規でも過労死してしまうって、すかいらーくって、殺人レストラン・・・? そんな集会では、遺族の方の発言に、何度も泣きそうになった。また、夫が過労からくも膜下出血で倒れ、高次脳機能障害となってしまった女性も発言。この日は過労死の絶滅に貢献したとしてマクドナルドを相手に裁判を起こした高野さんに「中島富雄賞」が贈呈された。「名ばかり管理職」問題がクローズアップされるきっかけとなった裁判だ。

過労死をなくそう! 龍基金の贈呈式にて。

 会場には、夫や息子を過労で亡くした人がたくさんいた。すかいらーくやマクドナルドというキーワードからもわかるように、私たちが享受している「便利さ」や「安さ」そのものが、時に人を殺すことに加担している。そんなことを、強く思ったのだった。

すかいらーくの契約社員だった前沢さん。私と同じ年です。

隣国で進む、日本とあまりにも似た状況。
一方でそこには、現状を変えていくためのいろんなヒントもありそうです。
雨宮さんの報告を、楽しみに待ちましょう!

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