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雨宮処凛がゆく!

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あまみや・かりん北海道生まれ。愛国パンクバンド「維新赤誠塾」ボーカルなどを経て作家に。自伝『生き地獄天国』(太田出版)のほか、『悪の枢軸を訪ねて』(幻冬舎)、『EXIT』(新潮社)、『すごい生き方』(サンクチュアリ出版)、『バンギャル ア ゴーゴー』(講談社)、『生きさせろ!〜難民化する若者たち〜』(太田出版)など、著書多数。現在は新自由主義の中、生活も職も心も不安定さに晒される人々(プレカリアート)の問題に取り組み、取材、執筆、運動中。非正規雇用を考えるアソシエーション「PAFF」会員、フリーター全般労働組合賛助会員、フリーター問題を考えるNPO「POSSE」会員、心身障害者パフォーマンス集団「こわれ者の祭典」名誉会長、ニート・ひきこもり・不登校のための「小説アカデミー」顧問。「週刊金曜日」「BIG ISSUE」「群像」にてコラム連載。雨宮処凛公式サイトhttp://www3.tokai.or.jp/amamiya/

生きさせろ!
雨宮処凛の闘争ダイアリー

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G8と地方の貧困。の巻

 5月31日、早稲田大学で開催された「第2回 ベーシック・インカム ティーチ・イン サミット体制とベーシックインカム」に参加してきた。

 いや、これが面白かった。出演者は社会学者の入江公康さん、「ネオリベ現代生活批判序説」の白石さん、フリーター全般労組の山口さんなどなど。

  G8と言えば、今年は洞爺湖サミットだ。7月7〜9日に行われるこのサミットに私も北海道まで駆け付けるつもりだ。で、そもそもG8って何?  というあなたに。

 G8とは、日本、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、ロシア、イギリス、アメリカの先進国8カ国の、とりあえず首脳という肩書きを持つ8人(イラク戦争おっ始めたブッシュとか、フランスの貧困層の若者を「社会のクズ」と言ったサルコジとか、いることさえ忘れがちな福田とか)が勝手に世界を代表して、その上税金を湯水のように使って自分たちに都合のいいことを決めるという権力者の井戸端会議(それに世界中が巻き込まれる)だ。G8の「G」は「グループ」の略。言ってみれば単なる「仲良しクラブ」で、国連や国際法などにまったく基づいていない。そのわりにはそれが莫大な影響力を持つのだからタチが悪い。いっそのこと共謀罪とか適用されないだろうかと思うのだが、そうはいかないらしい。

 で、そんなG8についてこの日、「G8 サミット体制とはなにか」(以文社)を6月に出版する栗原康さんの話を聞いたのだが、G8の問題点が時代を遡ってものすごーくわかりやすく理解できた。70年代から始まった「サミット体制」が、いかに先進国に都合のいいルール作りをしてきたか。剥き出しの自由貿易、自由競争が進められることによって、いかに生活を破壊される人々が続出したか。そして「サミット」を頂点としてネオリベ(新自由主義)体制が作られたことによって、「労働の柔軟化」=働く人々の不安定化(プレカリアート化)が進んだ流れが、とてもよくわかったのだ。この辺を詳しく知りたい方は、6月12日発売予定の「G8 サミット体制とはなにか」を読もう。私も今から読むのが楽しみだ。

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 さて、そんなG8では様々な企画が進行中だ。中でも楽しみなのは、キャンプ。とりあえず「G8と言えばキャンプ」というのは世界基準らしく、私もテント持参で駆け付ける。サミット期間中、北海道には「新しい村」が出現し、キャンプしたり、いろんなワークショップをしたり、世界サッカー大会をしたり、キャンプフードが出たりと、なんだか滅茶苦茶楽しそうだ。世界中から沢山の人が訪れるキャンプ、興味のある人はぜひ参加してみるといい。G8に関して詳しいことはこちらで。

 さて、先週は講演で秋田に行ってきた。今回のメーデーツアーで各県をまわり、地方ならではの生きづらさ、地方の貧困について考えさせられたのだが、秋田と言えば自殺率全国1位、県民の県外流出率も全国1位。更に大きな反響を呼んだNHK「ワーキングプア」の第一回目に放送された様々な「ワーキングプア」のケースのうち、3つのケースが秋田の人だったというから驚きだ。そんな秋田には、時給750円の事務の仕事の倍率が6倍、タクシー運転手でも生活保護を受けざるを得ないという現実があった。バスは60路線が廃止され、病院も移転。で、丘の上にはドドーンとジャスコ・・・。そんな秋田ではタクシーの運転手になるのも大変らしく、「田んぼの面積」によってなれるかなれないかが分かれることもあるという。タクシー運転手になってもおこづかい程度しか稼げないので、田んぼの収入で稼いでもらわないといけない。が、田んぼが小さければタクシー収入に依存することになるので、田んぼもある程度の面積がないとタクシーの運転手にすらなれないという。そうして仕事のない県から多くの若者は流出し、製造業の派遣の仕事などに流れていく。工場派遣の仕事には、東北や沖縄の若者が多いのはこういった事情が絡んでいる。運が良ければ地元にいるよりは稼げるが、2ヵ月ごとの契約などで全国の工場を転々と流れ流れて、ネットカフェ難民やホームレスになってしまったケースを私は多く知っている。それでも、地元に仕事はない。最近、東北に住むあるフリーターの男性から、メールが届いた。コマツで働いていたという彼は、派遣会社5社ほどに入っていた中で派遣会社によって時給が違い、月に2、3万の違いが出ることを嘆いていた。「せめて派遣先が派遣会社にいくら払ってるかを公表してほしい」と切実に訴える彼は、地元に戻ってきたものの、まったく仕事がないという。「マジで正社員てどやってなんの?て感じです」。そんな彼の今後の三択は以下。「1、トヨタ行く 2、日野行く 3、富士重工行く 金を稼ぎたいフリーターの選択肢は極論この3つです。ヘルニア覚悟で」。そんな彼がヘルニアになってしまったら、一体どんな保障があるのだろう? 派遣で働いて重労働から身体を壊すことは、本当に路上生活の入り口だ。

 また、ある北海道の若者からは、北海道の「派遣会社の草刈り場のような状況」が伝えられた。友人何人もが本州へ派遣として出向く中、地元には仕事が絶望的になく、あっても手取り10万以下。ひどいケースでは正社員でも10万円を切るという。

 さて、そんなふうに派遣会社が猛威をふるう北海道で、G8が開催される。問題は、巧妙に隠されながらも繋がっている。世界中の人々と会えるのが、今からとっても楽しみだ。

フリーター労組の「餃子パーティー」(?)にて。
みんなで餃子を作り、食べ、議論しました。

日本社会のさまざまなひずみが、
そのまま現れてしまっているかのような地方の現状。
「世界の首脳」が集まるG8は、それとも決して無関係ではないのです。
洞爺湖サミットまで1ヵ月。注目しましょう。

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