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日本の近現代史、歴史認識を研究しているサーラさんより、
東アジアにおける日本の現在、そして未来のあり方について
書いていただきました。

第35回
ブラジル
信頼されるということ − 日本とドイツの「戦後」と「冷戦後」スヴェン・サーラ
アンジェロ・イシスヴェン・サーラ(Sven Saaler)
1968年ドイツ生まれ。マインツ大学、ケルン大学、ボン大学で歴史学、政治学と日本学を学び、計4年間金沢大学で留学を経て、1999年ボン大学文学部日本研究科博士号取得。2000から2005年まで東京でドイツ-日本研究所研究員(2004年から人文科学研究部部長)として勤務し、2005年4月より東京大学大学院総合文化研究科・教養学部助教授。
主著には『大正デモクラシーと陸軍』(独文、2000年)、『Politics, Memory and Public Opinion』(日本における歴史記憶、歴史認識と政治、英文、2005年)、共編に『Pan-Asianism in Modern Japanese History. Colonialism, Regionalism and Borders』(近現代日本史に於けるアジア主義)(英文、2007年)など。
戦後、隣国との関係回復に努力

 日本とドイツは同盟国として侵略戦争を遂行し、「戦後」をとおして「ならず者国家」というイメージを払拭し、懸命に国際社会へ復帰することを目指した。両国は冷戦体制においていわゆる「西側」に属していたが、日本の場合はこれが主に米国への依存を意味した。一方、ドイツは米国の核の傘によって冷戦の最前線で守られながら、隣国との関係回復にも力を注ぎ、フランスと共に(西)ヨーロッパ統合の「エンジン」となった。東アジアでは事情が異なっていたこともあり、日本の隣国(イコール旧交戦敵国)との関係回復は進まず、日本は1960年になってから韓国と、1972年中国と国交を樹立したが、北朝鮮とは現在まで国交が樹立していない。冷戦体制が終焉すると、西ヨーロッパの統合は次第に東欧にも拡大され(今年、ブルガリア、ルーマニアまで加盟)、ヨーロッパ諸国の相互関係は徐々に改善し、ドイツの国際社会への復帰はもうほとんど果たされたとドイツでは一般的に認識されるようになった。冷戦後のNATOの意義を論じる委員会の委員長を務めていた元大統領のリヒャルト・フォン・ヴァイツゼッカー氏は、報告書において、「ドイツはドイツの歴史に例のないほど隣国と友好関係をもち、すべての隣国と平和的に暮らし、隣国に非常に信頼されている」と総括している。この発言に対して、隣国からも異議がなかったようである。

 戦後の日本は、隣国との関係改善を主な目的にしなかった。とりわけ近年はまた様々な摩擦が生じ、日本は東アジアにおいて孤立しているという声さえある。確かに、韓国との歴史教科書問題と竹島問題をめぐる緊迫、中国との靖国神社問題、尖閣諸島問題など、ロシアとの南クリル問題(「北方領土問題」)、ODA減少方針の発案などを考えると、日本が隣国と深い友好関係を持ち、隣国に信頼されているとはいい難い。
注1)近年の政治家は「戦後日本は平和国家であり、民主主義が発展してきたので、信頼されるべきだ」と訴えているが、信頼というものは訴えて獲得するものではなく、行動と話し合いによって得るものだろう。その際、信頼されたい国の過去はもちろん無関係ではないが、日本にもドイツにも二つの過去―侵略戦争の過去と戦後民主主義的平和国家の過去―があり、今後どのような道を選ぶか、やはりかつての侵略戦争の犠牲になった国々は関心深く見守っている。

EU中心主義のドイツ

 冷戦後の国際関係において、ドイツは将来も隣国との対立がもはや起こらないように、ヨーロッパ統合の深化と拡大を外交の主な目的として掲げた。その深化と拡大には現在様々な問題があり、とりわけEU憲法とトルコのEUへの加盟をめぐって様々な議論が起こっているが、やはり基本路線としてドイツのEU中心主義がドイツの安定のみならず、ヨーロッパ全体の安定に直接貢献している。しかし、日本は近年米国への依存をさらに強化させている一方、隣国との摩擦をあまり避けようともしない政策をとっている。さらに、日本外交の将来に関してはっきりしたビジョンもないので、「戦後日本は平和国家であり続けた」と訴えるだけで隣国の信頼を得ることは難しいだろう。また日本の、むしろ戦争しやすい国にしようとする動きが、言うまでもなく隣国に不信感を抱かせることになる。その結果、日本の外交には様々な障害が生じ、日本は現在、国際社会に経済大国なりの貢献ができなくなっている。例えば、ドイツは様々な国連のPKO活動に参加し、それに対して隣国・他国からの批判はあまりないのであるが、日本はゴラン高原に数人の自衛官を派遣しているのみである。注1) 隣国との信頼関係が樹立していないため、PKOへの参加は日本にとって相変わらず難しいようである。

信頼はいかにして得られるか?


 信頼関係を築くには近年の日本の政策、法改正も深く関係してくる。日本はすでに現時点で世界有数の軍事予算に基づく高度な軍備を有する自衛隊を持っている上、平和を守るために設定されている憲法第九条を改正する声が強くなり、核武装論も浮上し、先制攻撃論も聞こえるようになった、防衛庁が防衛省に格上げされたのも、日本は積極的に戦争を遂行できる国家に一歩近づいたといえよう。これらの「改正」は「戦後(レジーム)体制)」の超克として政治家に重要視されているが、この戦後レジームの倒壊以降どのような将来像・ビジョンを想像しているのかは明白でない。その結果、隣国の不信感・心配が浮上するのも当然なことであろう。日本政治家が「(隣国は日本を)信頼するべきだ」と言い続けているが、信頼は「信頼されるべきである」と自分で強調することによって得られない。信頼は、それなりの行動と話し合いによって相手の理解を深めて、はじめて得られるものであろう。その信頼される立場に基づいて、日本は今後東アジアの地域安定と世界平和に様々な貢献ができると思われるが、現時点で日本政治が考えているような軍事的「貢献」を中心とする国際貢献は信頼を得ることに繋がるとは思えない。

注1):例えば、『Newsweek』誌の記事を参照http://www.msnbc.msn.com/id/9785603/site/newsweek

注2):現在、ドイツの連邦軍は12の国連PKO活動に参加し、
7,000人以上の兵士を派遣している。
ドイツ連邦軍の公式ホームページを参照
http://einsatz.bundeswehr.de/C1256F1D0022A5C2
/Docname/Aktuelle_Einsaetze_Home

ドイツと日本の戦後の歩みを、「被害国に謝罪した、しない」ではなく、
「隣国からの信頼を得ているか否か」という視点からみると、両国の差は歴然とします。
果たしていまの日本が隣国の信頼を得るための行動と話し合いをしているのか?
サーラさん、ありがとうございました。
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