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アジアだけでなくヨーロッパからも注目されている日本の憲法改定問題。
憲法への姿勢や認識の違いについて、
ドイツよりアルネ・ファーイェさんのコラムが届いています。


第19回
ドイツ
「ドイツの新聞記事に見る日本の憲法改定ニュース」アルネ・ファーイェ
リチャード・デーラーアルネ・ファーイェ
(Arne Fahje)
1977年ハンブルク生まれ。大学で日本語と法律を学ぶ。
専門は日本国憲法(9条問題の専門ではありませんが−本人談)。
現在は法律家。

2005年11月24日付のドイツの有力紙『フランクフルター・アルゲマイネ』に日本の憲法改定に関する記事が掲載されました。その記事は、日本には24万人の兵士がおり、世界で最も高額な防衛予算をもつ国のひとつであることを指摘し、それにもかかわらず日本が「軍隊をもたない」という憲法に立っていることに批判的です。なぜなら、憲法の条項と現実が大きく乖離していることは、ヨーロッパの人々にとって法的正当性の欠如を意味することだからです。

日本の平和憲法をめぐるヨーロッパの論調

日本の改憲問題を取り上げた『フランクフルター・アルゲマイネ』の記事では、自衛隊の海外派遣が問題の核心だとしています。私自身の個人的な考えは、平和的な外交を基本とする日本国憲法が、どのような条件下であれば自衛隊の海外派遣が可能かを規定しようとしている、民主党と公明党の見解には反対ではありません。日本は世界のなかでも影響力をもつ国のひとつですし、その日本がどのような形であれ国連の平和維持活動に参加することに、世界の多くの国々は期待しているでしょう。しかしながら、日本が――国連決議を経ずにイラクを攻撃したアメリカのように-――ある特定の国の戦争に加担してしまう恐れもあります。そのため9条には「海外における武力行使はできない」と自衛隊の性格を明記すべきだと私は考えます。

侵略戦争の禁止は国連憲章で定められていますが、日本の国是である平和主義はそれよりも進んだものだと思います。平和主義を標榜する憲法は民主国家のなかでさえ非常にまれなのです。軍隊をもたない数少ない国のひとつであるアイスランドには、軍隊も、それに準じた軍事力もありません。それでもアイスランドの憲法に軍隊保持の禁止を定める条項はないのです。

日本とドイツを比べてみても大きな違いがあります。ドイツの基本法(憲法に相当)は平和主義をうたっておりませんが、ドイツ政府の政策およびドイツ連邦軍は、国内外で、平和的であるとみなされています。一方、日本は平和主義を掲げながら、隣国からはしばしば右傾化を非難されます。なぜでしょうか?

実際の政策と憲法が大きく乖離した場合、政治に対する強力な制御が必要になってきますが、日本ではそれが十分に働いていないように見えるからだと思うのです。

ドイツの憲法裁判所

ドイツでは1951年、政府・行政機関が憲法を遵守しているかを監視することを目的としたドイツ連邦憲法裁判所が設立されました。法律や政府・行政による措置、裁判所の決定が憲法に反すると思う人は誰でも、憲法裁判所に憲法請願を求めることができます。それに対して連邦憲法裁判所は合憲・違憲の判断を行います。この判決に対してはいかなる機関であろうとも上告はできません。もし日本で憲法裁判所が存在するとして、裁判所が自衛隊のイラク派遣や小泉首相の靖国参拝に対して違憲判決を下せば、政府は判決に従わなければならないのです。その根底には国家権力の制限こそが法治国家の証しであるという考え方があります。

『フランクフルター・アルゲマイネ』の記事の最後には、日本に憲法改定を求める空気が強まっており、中国や韓国が懸念していると書いています。私は、国民的な議論となる9条の改定は他の条項の改定と一緒に扱われるべきではなく、憲法裁判所のような存在による判断が必要だと思います。

平和主義を標榜する日本の憲法は、民主国家のなかでも非常にまれな存在で、
世界の中でも一歩進んだ憲法だといえます。
しかし問題なのは、実際の政策と憲法が大きく乖離しているにもかかわらず、
それを指摘し制御できるシステムや憲法裁判所が日本にはないことでしょう。
アルネさん、ありがとうございました。
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