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『映画 日本国憲法』に出演し、映画の中では
「9条を守ることは日本人の責任だけでなく、人類の責任、人類の急務である」
と発言している、班忠義さんが、寄稿してくださいました。
前編・後編の2回に分けてお届けします。


第16回
ロシア
「なぜフランスの国民投票で国民は“ノン”と言ったのか?」ソフィー・モンシー
ドミトリー・ヴォロンツォフバン・チュンイ/作家・映画監督  
1958年中国遼寧省撫順市生まれ。
82年黒竜江大学日本語学部卒業。
92年中国残留日本婦人の人生を描いた、
『曾おばさんの海』で第7回朝日ジャーナルノンフィクション大賞受賞。
96年『近くて遠い祖国』ゆまに書房出版。
2000年ドキュメンタリー映画『チョンおばさんのクニ』日本や台湾で上映。
2005年日中戦争の旧日本軍による性暴力被害者についての調査を『蓋山西(ガイサンシー)と彼女の姉妹たち』というドキュメンタリー映画にまとめ、中国、香港で上映。
「映画日本国憲法」に出演することになったきっかけ

2004年に入って、私は日本での仕事をやめて、一つのドキュメンタリーの編集に全力で取り組みました。1995年の夏から調査を始めた、山西省の旧日本軍による現地女性に対する性暴力事件の歴史事実をテーマとしたものです。

8年間かけて撮影してきた100本余りのビデオテープを一つの作品にまとめるには、時間、資金、場所、協力者など、いろいろな要素が必要です。私は他の仕事をやめて時間だけを獲得しました。その他は全てゼロでした。

裸同然で記録テープだけをたくさん持って、誰に、どこで、どのように記録作品にまとめられるか? 付き合いが長い映画制作会社の(株)シグロの山上代表に相談しました。1999年に私は『チョンおばさんのクニ』という、中国に連れてこられた韓国人の元従軍慰安婦女性の50数年ぶりの帰郷をドキュメンタリーにまとめ、シグロの制作協力で日本のBOX東中野(映画館)や台湾ドキュメンタリー映画祭で発表したことがあり、山上代表はそれ以来、長年かけて私が調査してきた山西省日本軍性暴力事件にずっと関心を寄せてくれていたのです。

今回、シグロの好意で編集室を使わせていただき、ビデオテープを整理し、構成などを考えながら、そこで寝泊りしていました。

朝になると、編集室に入ってくる他の監督のなかに、『映画 日本国憲法』を手がけているジャン・ユンカーマン監督がいました。ある日、ジャン監督は暗室に入ってきて、「長年日本軍の性暴力事件を調べている班さんに中国人の立場で日本国憲法について話してほしい」と相談に来たのです。

一瞬迷ってしまいました。『映画 日本国憲法』に携わった方々は皆、憲法の制定に関わった人や憲法学者、世界の高いレベルの知識人ばかりで、戦後生まれの、ただ戦争問題について調査し、日本人や中国人の戦争体験について多くの話を聞いただけの私は、映画に出るには、あまり資格がないように思われたのです。

ジャン監督が言うには、これまで私が調査してきた歴史事実をそのまま語る、中国人として日本国憲法に対する見解を話せばいい、ということでした。事実をそのまま語るのなら、何も恥ずかしくないと思って受け入れました。

中国人にとっての9条とは

改めて考えてみると、日本国憲法9条は、私にとって人類の崇高な理念、人間の文明度が低ければ決して守り切れない、純潔で脆いものでした。敗戦から平和を願う気持ちが強い日本人に、神が人類に贈ったプレゼントであり、日本人が選ばれて平和を堅持する“選民”のように目に映りました。しかし、日本人はその約束を破ろうとしています。

一部の知識人を除いて、多くの中国人は日本国憲法9条の存在を具体的には知らないと思います。ただ、戦後、日本が軍隊を持たない、他国に先制攻撃をしないというような法律があることは何かの形で知られているようです。その理念は、日本人が過去に起こした間違った戦争を深く反省したことから、新しい国、新しい考えを持つ人間に生まれ変わったしるしとして、戦争、そして戦争を可能とする全ての条件を放棄したと理解しているのです。

しかし、今回の衆議院選挙における自民党の圧勝で憲法改定はますます現実的なものとなりました。日本国民は、小泉首相の独走、戦争への道へゴーサインを示したようなものです。

一応、日本の民主主義を踏まえた選挙なので民意の反映というのでしょうか? しかし、民主主義が政治やマスメディアの誘導や政治家の意識的な操作によって民族主義と結びつくと、誤った方向へ傾倒する可能性もあります。

60年前、南京攻略成功の時、日本各地で提灯行列が行われました。当時の社会の雰囲気が人々を無意識のうちに誤った方向へ導いたのです。海外派兵、9条改憲と小泉自民党は日本をますます戦争への道へ誘導しています。彼を支持する追い風は、多くの日本の先輩が語ってくれた南京攻略の話を思い出します。

もちろん、今回の自民党衆議院選の圧勝には様々な要因があると思いますが、少なくとも小泉自民党が進めているのは、対外派兵、軍備拡張、アメリカ対外武力戦争への協力、対内的には郵政改革を代表とする合理化、能率主義の強調といった、いわゆる“力を崇拝する政策”の是認でもあります。

我々人類はこれまで、力に頼った弱肉強食という人間の本能的なもの、国家の欲望をそのまま走らせる戦争の歴史を繰り返してきました。

第2次世界大戦は、力による人類最後の野蛮な殺戮であり、もう世界戦争を引き起こさないよう国連が設立され、そして戦争を起こした日本に9条という宝物が贈られました。しかし、好戦的なブッシュ大統領が再びパンドラの箱を開けたとき、小泉首相はすぐ追随し、9条という宝を捨てようとしています。

今回の衆議院選の自民党圧勝は、一般の中国人に不思議に思われたと同時に、ショックを与えたことでしょう。それが日本人に対する誤解を増幅することになったら怖いと思います。まさに民主選挙のはずですから、小泉自民党の路線が国を挙げて支持されていると思われているのです。「自民党支配のなかで長年行われてきた党利党略のための小選挙区制という現行の選挙制度が、はたして大多数の民意を反映できるか」という疑問は今の中国人には知られていません。

日本流の民主主義は限界にきていると感じます。

日中関係を中国の内政問題にすりかえるマスコミ

今年の春、中国の主な大都市で反日デモが発生しました。日本では「中国政府に対する国民の不満を解消させるため、中国政府が外交上の操作を行った」などといった論評があるようです。

私は、日本の学者、マスコミには日中関係で問題が生じると常に相手国の問題へすりかえる傾向があるように思えます。もちろん、現在の中国独裁政権は“末期症状”にあり、様々な社会問題が解決不可能で国民の不満は頂点に達しているともいえます。ただ、政府が若者をデモへ先導し、その不満を日本にすりかえる、ということではないと思うのです。

言論、結社、デモの自由のない中国では、監視を緩めていたことに気がついた政府があわてて沈静化に乗り出しました。しかし、最近のインターネットによる通信の発達、経済発展といった環境変化のなかで“発作的”に起きた反日デモに対する日本社会の捉え方には、中国一般市民のもつ戦争の傷跡、人々が被った被害の深刻さに対する認識不足があると思います。政府の鎮圧で静まった国民の反日感情は消えたわけではなく、温存されていると思うのです。

私たちが、今もっとも耳を傾けなければならないのは、
隣国からのメッセージです。
次回は、日本人と中国人の戦争歴史認識の違いについて。
歴史教科書には載っていない真実の声に、真摯に向き合いましょう。
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