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2004年5月のマドリードに続き、
今年7月にはロンドンの中心部でテロが起こりました。
報道のように、事件の首謀者がイギリスで生まれ育ったイスラム系の人間だとすれば、
外国を爆撃する「テロとの戦い」が解決策になるとは到底思えません。
様々な民族や宗教など、出自の異なる人々が暮らすヨーロッパにとって、
事件は国内問題でもあるのです。
イスラムという異文化とどう共存していくか?
ドイツからのメッセージを紹介します。
(フランクフルト在住、41歳男性。ドイツ人の日本研究者)
第13回
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ドイツでテロといえば、かつてのドイツ赤軍のように、ドイツ人による行為と思われてきました。しかし、いまではイスラム過激派の暴力に対する不安となっています。テロといっても、アイルランドのIRA(アイルランド共和国軍。北アイルランドを英国から分離させ、全アイルランドの統一をめざすグループ)、スペインのETA(バスク祖国と自由。スペイン・バスク地方の分離独立を目指す急進的な民族組織)と違い、一部のイスラム過激派による暴力は、特定地域に限られたものではなく、世界に拡散しています。
ドイツのハンブルクに住んでいた9・11の実行犯の何人かは、目立たない、控えめな性格であったといいます。家では普通の父親でした。今年7月にロンドンで起こったテロ事件の容疑で拘束された人々は、しばしば重たいカバンやダンボールを家のなかに運び込んでいたといいます。住居には爆薬製造に必要な材料があったそうです。
私の隣人はイスラム原理主義的な考えをもつエジプト人とモロッコ人の夫婦で、夫のエジプト人がしばしばトランクを部屋のなかへ持ち込んでいるのを見かけます。アラブ系の人々の出入りが多く、夫は宗教の集まりに出かけていますが、その間、ヘジャブ(イスラム教徒の女性たちが着用する顔をおおうベール)をかぶったモロッコ人の奥さんは、子供と共に家を留守にしています。
この一家の印象は私にとって、いいものではありませんでした。偏見で見られたり、差別されたりするのは誰だって嫌でしょうが、そこに滞在する権利をもつ者は、社会への一定の同化義務が課せられるべきだと思います。私の住む住宅地にはトルコ出身者、もしくはトルコ移民2世といったイスラム文化圏の人々が多く、故郷での生活をそのまま持ち込もうとするため、通常の共同生活のルールが無視されることがあります。 |
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こうした問題はイスラム社会自身も抱えています。イスラムに改宗した著名なドイツ人の作家、ハダヤトゥラー・ヒュープッシュの著作(アラーの名による狂信的な戦争)によれば、コーランおよび預言者ムハマンドの言行を記した伝承は、いかなるテロも禁じているのです。しかし、社会から阻害され、教育水準も高くないイスラム教徒は、コーランをその文脈から切り離し、戦闘的なテーゼを利用しようとする説教者の格好の獲物となります
。
日本の人々には、山本常朝の素晴らしい作品『葉隠』に書かれた“武士道”が、いかに拡大解釈されたかを思い出してほしいと思います。それは第2次世界大戦の日本軍兵士、とりわけ神風特攻隊に影響を与えたと理解しています。
イスラム教徒を隣人に持つ私たちは、コーランの倫理的な力に注目し、そのなかから、現代の私たちの生活を豊かにしてくれる、よき核心部分をつかみ出さなければなりません。コーランは自殺も殺人も禁じています。一般市民を巻き添えにする自爆テロを認めていませんし、イスラムの信仰ゆえに迫害や攻撃を受けるのではない限り、自己防衛も認めていません。その一方で、コーランは信教の自由を認めています。
いわゆるジハード(聖戦)は、メディアが誇張するようなものとは違います。サギール(リトルジハード)は信仰を守る権利、カビール(ミドルジハード)は言葉によって信仰を拡大すること、アクバール(ビッグジハード)は、エゴイズムや短所を克服する個人の努力のことなのです。
作家ヒュープッシュは、(カトリックのローマ法王やチベット仏教のダライ・ラマのような)信仰を体現する者のいないことが、非イスラム諸国のもつイスラムへのイメージを悪くしている要因と書いています。確かにサダム・フセインやムハンマル・ガダフィなど、マイナスイメージのある人物が目立ちますが、イスラム教徒の信仰は、過激派の暴力からは遠く離れているのです。
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マドリードやロンドンでのテロ事件は、日本においても、 毎朝地下鉄通勤する人々にとって他人事ではありません。 アメリカやイギリス政府の言う「テロとの戦い」に いち早く賛同表明した日本政府です。 きたるべき9・11総選挙の行方を、国内だけでなくアジア、 そしてイスラムの世界も注目しています。 |
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