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2013-01-23up

佐藤潤一の「カエルの公式」

第18回

日本初のダム撤去を実現、その秘訣は?

 こんにちは!

 今回は、国内のダム問題での成功事例をご紹介します。

 2012年9月に日本で初めて、大規模ダムの撤去工事がはじまったのをご存じでしょうか? 撤去がはじまったのは熊本県球磨川にある荒瀬ダム。

 昨年12月に、アウトドアメーカーのパタゴニアが主催した会議にて、荒瀬ダム撤去を実現した市民運動のお話を聞かせていただく機会がありました。講演されたのは、その中心的役割を担っていた、つる詳子さん。

(このブログで紹介させていただくスライドはすべて、つるさんのご提供によるものです)

 つるさんのお話が、「カエルの公式」でとりあげる成功事例としてぴったりだと思ったこと、さらには荒瀬ダム撤去の事例が、「自然にもどす公共事業」として新しい形を提案しているので多くの人に知ってほしいと思ったので、ご紹介させていただきます。

国内初のダム撤去を実現

 荒瀬ダムは、熊本県の球磨川に発電用として1955年に造られました。ダムが建設される前は、球磨川には毎年数千万匹ともいわれるアユが遡上していたと言われています。

 しかし、ダム建設後は、流域環境・河口域の環境変化による生態系変化、ダム湖にたまるヘドロによる悪臭、さらには洪水による水害などの被害が起きるようになってしまったそうです。

 そのような中、住民を中心とした、さまざまな方々や団体がダム撤去にむけて活動を行ってきたわけです。

 もちろん荒瀬ダム撤去実現に至る経緯は非常に長いもので、短いブログでは到底その全容はご紹介できません。

 荒瀬ダムの撤去関連の情報を詳しく知りたい方は以下のFacebookなどでの情報をご覧ください。

ちなみにこのFacebookもつるさんが中心となって運営されているそうです。

Arase Dam Removal and Kuma River【日本発!荒瀬ダム撤去】(Facebookページ)

 また、撤去工事を実施している企業体が、現地工事をライブ映像で配信していますので、どこからでもダム撤去の状況をみることができます。

工事の進捗状況はこちらから

「川は、自然の血管」分かりやすい表現とビジュアル化

 つるさんの講演の中で、「さすが!」と思ったのは、その表現力です。

 ダム問題に触れたことのない方にとっては、「ダムってなんで問題なの」という方も多いのではないでしょうか?

 薬剤師でもあるつるさん。講演の最後で、「川は動脈・静脈の役割を果たす自然の循環器」として心臓のイラスト入りスライドをみせてくれました。

 人間も血管が詰まってしまったら、健康でいられません。ダムは川という自然の動脈、静脈を詰まらせてしまう、よってダムを一つずつ撤去していくことが、健全な環境を戻すというわけです。

 市民活動をされている方々が、お医者さんのように思えてきますねー。

 ここで重要だなと思ったお話に、「ダムの撤去」が最終目標ではなく、「豊かな河川の流域環境を未来に引き継ぐ」ことが最終目標だというビジョンを持っていることだと思います。

 このようなポジティブな長期的展望をもって活動をすることの重要性は、あらゆる活動でも参考になります。短期的な視野だけだと「反対」が強調されがちですが、長期的な展望を語ると多くの人と共有できるビジョンに変わっていきます。

 「何かに反対する」という市民活動の向こうには必ずみんなが理解できるポジティブなビジョンが存在するはずです。その部分も強調してコミュニケーションすることが大事ですね。

人のネットワークづくり

 つるさんの活動手法の中で抜群だなと思ったのは「人を巻き込む力」です。

 つるさん自身が、活動のネットワークを以下のようなスライドで表現されていましたが、それぞれの手法の違いはあれ、多くの関係者が共通の目標にむけて動くことができたということが成功につながった要因だと思います。

 このスライドをみると、自然の生態系を示した図と似ています。

 ダムという問題にとりくむ住民や保護団体のネットワークが多様な生態系のようにして相互にサポートしあうことで、強く長続きする運動を支えていたのです。

市民の調査力

 これまでの「カエルの公式」ブログでも「科学調査力」の重要性を過去にお伝えしましたが、つるさんらの活動でも「科学調査力」が重要な役割を担ってきたようです。

 流域環境の調査では、日本自然保護協会の協力のもとでクマタカの調査をおこなったり、アユ、水生昆虫の調査などを市民が長期間にわたって手がけ、データをまとめて周辺の自然の豊かさ、そしてダムによる影響を科学的に示してきたのです。

 調査活動は、科学的に流域環境の重要性を広めただけではなく、多くの市民に参加・体験してもらうと言う「巻き込み力」の重要なツールでもあったのでしょう。

知識は結果として得られる

 講演では、つるさんが長い経験のなかで培った活動手法についてのお話もありました。それをまとめたのが、上のスライドです。

 笑顔で「知識は、結果として得られるものですよ」と話されていたのが印象的です。

 ダムの撤去、健全な川の再生という目標を明確にもち、その達成を第一に考えて行動してきた彼女ならではのまとめではないでしょうか。

自然に戻す公共事業を

 安倍政権は、公共事業への税金投入を柱とした経済再生を訴えています。しかし、笹子トンネル事故でも顕著なように、日本のインフラ老朽化は深刻です。 

 原発の廃炉も含めて、さまざまな負の遺産となりうる施設を撤去、自然に戻す作業こそ、公共事業として取り組むべき課題ではないでしょうか。

 2012年にはじまった荒瀬ダムの撤去、これを模範としてさまざまなダムの撤去、そして「自然に戻す公共事業」などが公共事業の柱となってほしいと思いました。その過程で、このような施設建設で壊された地域コミュニティーの復活も実現できるのではと期待します。

 つるさんは、「荒瀬ダム」のことを多くの人に知ってもらいたい、そして次の「ダム撤去」実現に続いてほしいとおっしゃっていました。

 多くの人に知ってもらいたいという点で、このブログを通じて、私なりにご協力できればと思いました。このブログをツイートしたりFacebookにシェアしたり、さらには荒瀬ダムのFacebookへの「いいね」など、荒瀬ダムの事例を広める活動にご協力ください。

 つるさんをはじめ、荒瀬ダムの活動に参加された多くの皆様、本当にありがとうございます。

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自然をこれ以上に破壊するのではなく、
失われた自然を取り戻すための公共事業。
一つの場所でできたことが、他の場所でできないはずはない。
こうした「成功例」を知ることは、
今後の取り組みの上でも大きな力になります。

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佐藤潤一さんプロフィール

さとう じゅんいち グリーンピース・ジャパン事務局長。1977年生まれ。アメリカのコロラド州フォート・ルイス大学在学中に、NGO「リザルツ」の活動に参加し、貧困問題に取り組む。また、メキシコ・チワワ州で1年間先住民族のタラウマラ人と生活をともにし、貧困問題と環境問題の関係を研究。帰国後の2001年、NGO「グリーンピース・ジャパン」のスタッフに。2010年より現職。twitter はこちら→@gpjSato